グラソンは考え中
グラソンの前には、派手な格好の男がいた。
「報告書の内容のことを黒薔薇が言っておりました」
「シュバルファン王子、私、ミュスクル・ド・セルヴォ、しかし隠密とは誰でしょうね……」
「たぶん、俺のことだと思います。表の仕事の時妙につっかかって来てたので調査中だったのですがまさか若様までとは」
「リッドと接触したのか。表の顔は画家だろう?オブシディアン家に呼ばれたのか」
リッドは、オパール公爵家の密偵だった。昼は画家として働き、夜は密偵として潜んでいた。
「いいえ、学園の絵画の非常勤講師をしていてその時です。学園だと平民と貴族入り乱れる上に若いからとても口が軽い! 面白いくらいですホント」
「確かにそうだが学生を馬鹿にし過ぎだろう。学生だから許されることを理解して学ぶ学生に失礼だぞ」
「学生が終わっても学生気分の若様に言われたくありませんね」
「私は、常に学生のように若々しく学びの姿勢を忘れないようにしているだけだ。凛々しくかっこよく爽やかなグラソンお兄ちゃんのままでいたいからな」
学園卒業後王宮での仕事はデスクワークが圧倒的に多いが体型維持のための運動を欠かしていない。
「まぁ、若いころの公爵様に似ていましたからお父様と呼ばれたと聞きましたけどね」
「お爺様よりましだ」
「確かに、話に聞く公爵様の落ち込みよう……?」
リッドの顔が青くなる。
「どうした」
「そういえば、不老の薬と若返りの薬をギルドに依頼した人物がいたとか。まさか公爵様……?」
「父上もまさかそこまでしないだろう! たぶん……」
それでもやりかねないと思うのは身内だからだろうか。不老不死ではなく不老限定という点が怪しいとグラソンは考えていた。
父親は、グラソン並みにネージュに甘いが一番は亡き母だ。不死になれば母に会えないので不老の薬なのではないかと。
そもそも不老の薬が存在するとも思えない。
「とりあえず今日の報告は以上だな」
「はい、若様。あとこれは妹の新作です」
「でかした! これで道具を買ってやれ」
グラソンに渡されたのはネージュの絵姿だった。花畑で花摘する姿は、まるで天使のようだ。
お礼とばかりに何枚か渡しておく。公爵家は、いつも通りだった。
「妹も喜ぶでしょう。では失礼致します」