王子は暗躍する
「オパール公爵令嬢が王都に……? いままで領地に引きこもっていたのにか」
暗殺者の目の前には、この国の希望の存在であるはずの王子がいた。しかしきらびやかな見た目と裏腹にその目は濁っている。
「オパール公爵家特有の銀髪の少女だったとのことです」
「そうかわかった。指示があるまで下がれ」
「あの殿下」
「なんだ」
「本当にオパール公爵家に手を出すおつもりですか」
暗殺者は、体中の血が下がる感覚を覚えながらそれでも言葉を発するしかなかった。
「出来ないのか」
「オパール公爵家には、灰の一族がいます。今はオパール公爵家に抱えられてから灰の一族と名乗っております。あの一族は暗殺・密偵の術が我らより優れています」
「本当に先祖はもったいない手を失くしたものだ」
灰の一族は、元々王家に仕える一流の暗殺者の黒の一族だった。しかし数代前の王が黒の一族に不義理をし、仕える主をオパール公爵家に変えた。
「だがそれとは話が別だ。王族の下で一流の腕を振るったのは何百年も昔の話だ。今でもその腕が保たれているとお前は言えるのか?」
暗殺者は、優男であるはずの王子の言葉に震えていた。出来ないと言えばこの王子は、容易く暗殺者の首をはねる。
金払いはいいが信用出来ない主だった。そして主も暗殺者を信用していないからこそ剣を左に置いたままだ。
裏切る兆候があれば首を切る歴代の暗殺者の長もそれで死んでいる。
王子は、金の払いがいいため一人抜けると残った連中に追いかけさせるので逃げられない。
「いいえ、そんなことは」
「ならお前たちは、灰の一族を始末しろ。例の日までに始末出来ないならば当日灰の一族を妨害するんだ」
「承りました」
「去れ」
暗殺者は、すぐに姿を消した。
「ローズに会いたいな」
瞑った目に浮かぶのは二人の少女。
一人は、ドレスを着た美しい赤毛の少女。
もう一人は、セーラー服を着た黒髪の少女だった。
「もう少しで君とずっと一緒にいられるよ」
さて王子の正体は…?