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ネージュ王都に到着する

手の範囲以外が薄闇に包まれた空間で金色の馬がいた。

馬のところが明るいが、馬はこちらを見るとネージュを置いて走り出す。


「待って!」


馬を追いかけるが、どんどん引き離され、ついに光が見えなくなり真っ暗になる。

地面がぐらぐらと揺れて体が落ちていく感覚に喉から悲鳴が出た。




「ネージュ!?」


ネージュが目を開けると、いつもの部屋ではない狭い場所。目の前には、蒼白になったブリュイヤールがネージュの腕を掴んでいる。


「こわいゆめをみたの」


ネージュの幼子のたどたどしい言葉がブリュイヤールをさらに心配にさせる。ぐずるネージュの手をとると、閉めていた馬車のカーテンを開いた。


「慣れない移動で疲れたからだろう。窓の外を見てごらん王都についたよ」


「お外? うわぁ、建物がいっぱい。お父様!」


馬車の外には、石造りの建物が立ち並んでいた。建物の中は、様々な色合いに満ちていてネージュの視線を離させない。ブリュイヤールは、ネージュの不安なことが楽しいことに塗り替えられたことに安心した。


「貴族向けの商店の場所に入ったからあと少しで王都の屋敷に着くぞ」


「商店ってなぁにお父様」


「ものを売っている場所のことだよ。うちに売りに来るのは商店から買ってくださいと来てるんだ」


「ネージュ会ったことないからわからない」


領地に戻ったあとネージュの状況を外部へ知られないため、商店員に会わせないようにしていたためだった。


「そのうち会わせられるようになる。きっとネージュが好きなものがたくさん見つかるぞ」


「本当!? 楽しみにしてるね」


話をしているうちに建物の雰囲気が変わり緑が目立ってきた。ネージュは知らないが、これらは生け垣であり貴族の邸宅の区画に着いていた。


「「「おかえりなさいませ! 旦那様、お嬢様」」」


中では揃いの装束を着たオパール家使用人たちが主の帰りを待っていた。


「ただいま!」


ネージュの明るい声に使用人たちが笑みを深めたのは、気のせいではないだろう。




グラソンが書類を眺めているとノックが聞こえた。ノックをしているので執事ではないと当たりをつけて入室を許す。

その少し開いた扉からグラソンと同じ銀髪が覗いていた。


「ごきげんようお兄様」


「あぁ、ネージュ。元気そうで嬉しいよ」


グラソンは、しばらく会えていなかった妹が元気そうで安堵する。この屋敷にいたときのネージュは、次期王妃として努めていたが日に日に白くなる顔にどうしようもなく思っていた。


「お兄様!」


ネージュは、グラソンに走って抱きついたがびくともしなかった。淑女として問題ある行動だが、中身が3歳なのだから微笑ましいほどである。


「お兄様元気ないね。どこかいたいいたいなの?」


「ちょっと忙しかったから疲れてたのかな。でもネージュがぎゅっとしてくれたからもう元気だよ」


「ならネージュもっとぎゅっとするね」


「ありがとうネージュ。飴をあげましょう」


「うわぁ、甘い美味しい! ありがとうお兄様」


ネージュの結われていない銀髪がふわふわと綿毛のように揺れていた。


「ねぇねぇ、お兄様。お願いがあるの」


「何かな」


「ネージュね。お兄様と街に行きたい」


「俺と? 父上じゃなくて」


「うん、トマが兄弟とお買い物楽しかったって言ってたからネージュもしてみたかったの。お父様と一緒じゃないと大人みたいで楽しみなの」


「サンドル明日の予定を全て父上にしなさい」


サンドルと呼ばれたのは落ち着いた色合いの茶髪の男性だった。口元を引き締めて控えている姿は、生真面目という言葉があうだろう。しかしグラソンの無茶に眉尻を下げていた。


「公爵様が了承してくださりますかね…」


「それはお前に任せます。私はネージュと買い物に行くという最優先の用事が出来たのでやりません」


グラソンは、頑として明日は休むと譲らないようだった。しかしブリュイヤールにそのまま伝えると自分と行けばいいと言うだろう。もしくは後日だ。


「ネージュお嬢様、別の日に公爵様ともお出掛けになりませんか」


「うん、お父様ともネージュお出掛けしたい」


「かしこまりました」


後のお出掛けの言質をとりつつその良さを訴えかければブリュイヤールも納得するだろうとサンドルは内心安堵した。


「ねーねー、サンドルってセッティの家族?」


「はい、リッドの弟でセッティの兄になります。ネージュお嬢様がお元気そうで私も安心致しました」


まっすぐとネージュを見るサンドルは、リッドよりセッティを思い出させた。真面目で融通が効かずしかし相手を思いやるといった心の内が態度に出ている。


「お嬢様が過ごしやすいように努めますので…もう少しわがままを言っていただきたいと思います」


「わがまま? 何がわがままなの?」


「食べたいものや部屋を温かくしたい等色々あります。主人が過ごしやすくするのも執事の役目です」


「じゃあね、お兄様とお父様とお茶がしたいとか」


「はい、喜んで準備させていただきます」


サンドルは、メイドに指示を出した。少し経つとブリュイヤールがご機嫌で入ってきた。


「ネージュとお茶は楽しみだな」


「父上私もいるのですが」


「グラソンもだな。それで明日どこに行くつもりだ」


ブリュイヤールは、油断なき眼差しでグラソンを見ている。ネージュを変な場所に連れて行かないのは、わかっていても心配なのだった。


「まだ考えていたのですが最近話題のケーキ屋に行こうと思っています」


「ケーキ屋さん! 美味しいケーキいっぱいあるのお兄様?」


「貴婦人の噂では林檎のケーキが美味しいらしいですよ。私も楽しみなのです」


「お兄様が楽しそうだとネージュも楽しみ!」


ネージュの頬が興奮して林檎のように赤く染まっている。ブリュイヤールは、それを見てばつの悪そうな顔をした。


「林檎のケーキか。私にも土産で欲しい」


「父上、甘いものは苦手でしたよね」


「たまには甘いものが食べたいだけだ」


本当は、自分こそケーキ屋に行って喜ばせたいが他ならぬネージュの願いなのだから留守番だ。


「ねぇねぇ、父様」


「なんだいネージュ」


「あのね、お土産ケーキじゃなくてお父様とケーキ食べに行きたい」


ブリュイヤールは、ネージュの顔を見たが無邪気な笑顔のままだった。この小さな気配りは大きいネージュのものかと少し期待していた。


「そうかそうか、私と行く時もケーキ屋に寄ろうか」


「ありがとうお父様」


とてもなごやかに身内のお茶会が過ぎていくのを使用人一同安心していた。

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