父決意を新たにする
「ネージュ~、元気だったか~。欲しいものがあったらちゃんと言うんだぞ。おい若造なんでここにいる」
ヴィオは、ネージュを見てデレデレしているブリュイヤールを信じられないと目を見開いていた。
公務で会ったときは、尊敬出来る大人の男性として見ていたのにヴィオの何かがガラガラ崩れ落ちた感じだった。
「今回は、予定していた仕事を早めに終わらせてきました。オパール公爵殿は、王都の方はよろしいのですか」
「次代が育つのはいいな。仕事を任せてきた。早くグラソンに任せて隠居がしたいな」
「おとうさまインキョってなに?」
「隠居は、仕事を次の人に任せてのんびりすることだよ。隠居すればネージュともっと会えるんだよ」
「おにいさまもインキョすればもっと会えるの?」
ネージュは、目を見開いてブリュイヤールを見る。それから座っていたソファーからブリュイヤールの前に立ち目線に合わせて屈んだ。
「グラソンが私の仕事をやってくれるからもっと先だね。グラソンに会いたいかい」
ブリュイヤールは、ネージュの手をとり訊ねた。
「あのね。いそがしいけどネージュ家族みんなでお話したりご飯食べたりしたいの。トマのおうちはそーなんだって言ってた」
ブリュイヤールは、ネージュの言葉に申し訳なく思う。ネージュを守るためでも家族がいない環境に愛娘をまた置いてしまった。
あの雪の日一緒に暮らそうと言ったブリュイヤールに、ネージュはまぶしい笑顔でうれしいと答えた。この笑顔を妻の分まで守りたいと思ったのを思い出した。
「すぐには無理でも早いうちにネージュと王都に行こう。ネージュの好きなケーキも準備して3人でお茶会をしようか」
「うん、やろうね。おとうさま!」
ブリュイヤールは、勢いよく抱きついたネージュにあばら骨が折れたような痛みを覚えつつ腕の中の温かい愛娘が嬉しかった。
ネージュの頭をブリュイヤールが頭をなでると、髪に見覚えのない髪飾りがついていた。
「これは買ったのかな」
「ううん、アンナおばちゃんにもらったの! きれいでしょ」
銀細工の雪の結晶から青のリボンと白いレースが下がっている。それはネージュの動きに合わせてふわりふわりと舞っていた。
「うんうん、よく似合っているぞ。そうだネージュが生まれた日は雪が降っていたからネージュってつけたんだよ」
「雪ってきらきらして白くて冷たいの!あのね、おじーさまの所でグラソン兄さまが雪うさぎ作ってくれたの。とっても可愛かった」
「そうだな」
この会話は、一度したことがある。やっと立ち直ったブリュイヤールが迎えに行った時に話した内容だ。
「ネージュ」
「なぁに、おとうさま?」
「ネージュが忘れてしまってもお父様は、ネージュの味方だよ。私は、ネージュが大好きだしお母様と約束したからね」
「うん、わかった」
ネージュのこの顔は、よくわかっていないと思う。でも3歳なんてこんなものだ。
「少々席を外すが、変なことをするなよ。若造」
「そんなこと絶対にしません!」
いい歳の男が顔を赤らめて怒るさまは滑稽だったがブリュイヤールは、それが好ましいと思った。シュバルファンは、子どもの頃から常に微笑を浮かべ王子として隙が無さすぎた。
「ヴィオ! リバーシで遊ぼう。ネージュ強くなったよ」
「リバーシだな。うん、やるか」
サロンを出たブリュイヤールは、公爵の執務室に入っていった。金などの装飾は少なく、茶色と緑の目立つ部屋だったが壁に幼子の絵が飾られているのが雰囲気を明るくさせていた。
「ジルバ」
「旦那さま、お呼びでしょうか」
扉から焦げ茶のリッドと似た面差しの男が入ってくる。男はコモン・フォン・ジルバ現コモン家の当主である。ただし歳のせいか性格なのかリッドより落ち着いた印象を受ける。
「王家との婚約を破棄する。例えそれで反逆ととられても私は、父として娘を追いつめたシュバルファンを許さないっ」
ブリュイヤールは、公爵として父として常に余裕の態度を崩さなかったが今だけは声を荒げて強く手を握る。握った手に強い力を入れているのだろう血管が浮き出ていた。
「旦那さま、コモン家は恩のあるオパール公爵家だからこそ仕えているのです。御命じください。我々の一族は、最善を尽くします」
「シュバルファンに灰色の一族をつけて見張らせ報告しなさい。ネージュを嫁に絶対出させない」
「かしこまりました。ところで一つよろしいでしょうか」
「なんだ」
「動くのがおせーよ」
「……」
「それでは失礼いたします」
ジルバは、恭しく礼をすると部屋から出ていく。ブリュイヤールは、ジルバの言ったことが事実なので言い返す言葉もなくため息をついた。




