グラソン報告にキレる
「えーと、若様いい知らせと悪い知らせどっち聞きたいっすかね」
「簡潔に早く報告できるように言いなさい」
「お嬢様を陥れたのが黒薔薇じゃないという報告とお嬢様にノーブル国王が友人として接触していたと妹から報告がありました。ひぃ!?」
リッドがノーブル国王と言った途端に、グラソンが投げた万年筆が壁に刺さった。
「いったいお前たちは何を見てたんだ」
「セッティはお嬢様への手紙捌くので、手一杯だったので別の奴つけてたんですけど、そいつノーブル国王の顔わかんなかったらしくて…それはまぁ、教育不足で申し訳ありませんでした」
「隣国の王の顔くらい覚えさせておけ。なんのための灰色の一族だ」
コモン子爵家は、オパール公爵家の陰の一族だった。オパール公爵家が表で国の調整を行い、コモン子爵家が裏で証拠を集める。
「すぐに発見出来なかったのは、痛恨のミスだった。だけど普通一国の王が護衛をろくにつけないで他国の高位貴族の娘に会いに行くか?逆ならまだしも」
「お前は、私だからまだいいが私は父上に報告しないといけないんだぞ」
「落ち着け、いつもの敬語が抜けてるぞ。焦るとすぐに砕けた言葉使うよな」
「父上の恐ろしさを知らなかったらそういう余裕もある。だが一回仕置きを受けてみろ立ち直るのに時間がかかるんだぞ」
グラソンは、頭を抱えて動かない。
今でこそ頭脳明晰で冷静な青年だが昔は、リッドが兄代わりに遊んでいたためやんちゃ坊主だった。次期公爵家当主として言葉を直したものの、感情が高ぶると砕けた言葉になってしまう。
「俺も親父の修行があるので今から怖いっすねー…。とりあえずこの件はどうします?」
「ネージュが嫌がってないなら放置で。どうせあのヘタレ王だから嫌がることしないでしょう」
「一国の王に向かってヘタレって」
「好きな女が望むからって辛い境遇をそのままにした男なんてヘタレだろう。そしてその男がたまたま王だっただけだ」
グラソンは、よほど苛立たしいのか机を指でコツコツ叩く。癖なのか机のそこだけ塗りが薄くなっていた。
「それでもう1つの報告は黒薔薇が噂の犯人じゃないと言ってましたね」
「はい、2ヶ月間観察してましたが、茶会で噂の元になるような話を吹聴していませんでした。あえていうなら若様に接触するために四苦八苦してたくらいです」
「その割には、ネージュが黒薔薇を虐めたという噂が出回っていましたね。黒薔薇の関係者が噂をばら蒔いていると考えるのが筋でしょうが。オブシディアン男爵は非常に小さい男なので除外しましょう」
現オブシディアン男爵は、婿として入った庭師の男だった。
オブシディアン令嬢と駆け落ちをし、前オブシディアン男爵が亡くなる前に諦めて婿として迎えたという経緯がある。
元々平民だったためか宮廷内でも細々と庭の管理職を行っていた。
「オブシディアン夫人はどうでしょう」
「社交界で見たところ頭のよい婦人だと思いますよ。一定以上はでしゃばらず、様子見をして出る所は出る。実際オブシディアン家を回しているのはあの婦人です」
「やっぱりですか。どうやったらあの夫妻で黒薔薇みたいな娘が出来るのか不思議ですね。それと黒薔薇の調査は、継続して噂の出所を探そうと思います。黒薔薇も踊らされているだけのように思う」
黒薔薇が何か動いているようだが、特定の人物と接触しようとしただけだった。調査結果では、ネージュを陥れるような話をしていない。
「俺もそう思って実はツテを使ったんだが、噂が貴族側でしか流れてないみたいで平民はまったく知らなかった」
「貴族はともかく王族の婚姻に関わる事柄の噂が流れないのは妙ですね。やはりその方向で調べましょう。馬鹿な令嬢が暴走しただけではないようですね」
黒幕が誰なのかグラソンは、考えるが掴めそうで掴めないその人物に怒りを覚えるしかなかった。