ヴィオ仕事を頑張る
のどかな昼間の執務室でヴィオは、ひたすら書類に目を通しサインし、時折その書類をはじいていた。
書類と異なる机に置かれた紅茶は、飲まれることなく置かれすっかり冷めている。
書類を見続けているからかヴィオが眉間を揉んでいると扉からノックの音が聞こえる。
「誰だ」
「いつもニコニコあなたの隣にいる友人アメリアですよ」
「そんなものしらん。俺の友人は、オリヴァーだ」
ヴィオが溜め息をつくと扉が勝手に開かれる。
そこにいたのは、緑のドレスを着たスレンダーな女性だった。アメリアは、返事などいらないとばかりに室内へと進み手に持っていた書類を机の上に置いた。
「部屋の主人の許可も得ず入ってもいいと思っているのか」
「私とあなたの仲じゃないですか。これもチェックいただきたいものです」
ヴィオは、追加で置かれた書類を見て顔をしかめる。
「おい、これのチェックはしばらく先でよかったはずだぞ」
「姫さまとの逢瀬の日にちを増やしたいのでしょう。なら早められる仕事は早めて決済すればいいのですからね。仕事が増えるのが嫌なら姫を諦めて奥さまを迎えてください」
「嫌だ」
ヴィオが、苦虫を噛み潰したかのような顔をして答えるとアメリアは拳で机を叩いた。
「何が嫌だだ。このロリコン」
「上司に向かってロリコンとはなんだ。俺は、ロリコンではなくネージュが好きなだけだ」
「そのオパール公爵令嬢は、現在精神年齢が3歳ですー。国政もわかっていない馬鹿王子ではなく別の釣り合いのとれるもっといい子もいるでしょー」
「それが最善だとしても諦められない。彼女の精神が今幼くても、いや幼いからこそ諦められないんだ」
「記憶戻ってからの方が外聞がいいでしょうに」
「5歳だ」
「報告では精神年齢3才って聞いたけど」
アメリアは、机に置かれた冷めている紅茶を勝手に飲んでヴィオの言葉を待つ。
「ネージュは、5歳で婚約者に出会って恋に落ちている。今のネージュなら恋を知らないまっさらな状態だ。そういう条件なら俺に恋してくれたかもしれないだろ」
「思った以上にうっとおしい男だな。諦めろ三十路男」
アメリアは、しゃべりながら紅茶の角砂糖をお菓子のようにポリポリ食べる。
「女装男に言われたくないな。あとそんなに甘いもの食べたら病気になるぞ」
「私は、君以上に頭脳労働だからいいんですぅ。甘いの足りなくて倒れたら仕事だいぶ増えちゃうよ」
「……」
「まぁ、来月に向けて頑張ってくださいねー」
ヴィオはアメリアに資料だけ置いていけばいいのにとため息をつくと黙々と書類作業を始めた。