セルヴォ理由を知る
オパール公爵家の応接室は、その身分に合った豪華な室内だった。
「なんですかその態度」
セルヴォは、顔を赤くして体をモジモジさせていた。さながら乙女のようである。
「あのいきなり二人きりは、緊張するなって」
「何を寝ぼけたことを言っているんですか。私に聞きたいことがあるのでしょう」
「はいっ、なぜ俺が嫌いなのでしょうか」
セッティが溜め息をついてセルヴォを見る。馬鹿正直に聞いてくるとは、貴族と思えない所業だった。
「なぜ私が、セルヴォ様を嫌いかですか。お嬢様に対して不敬だからです。敬称はつけないで馴れ馴れしい態度で」
「それは……」
セルヴォは、何か言いたげに黙る。説明も弁明もしない様子を見てセッティは、溜め息をついた。
「何も言い返さないのですね。お嬢様が不憫だったから気安い態度で接していたと言うあほでしたらその頭にチョップしようと思ったのに」
ネージュは、孤独な少女だった。
温かい家族や使用人たちに囲まれて育っている。しかし外に出れば次期王妃の重圧や貶める令嬢達、優秀な成績を修めたことによる子息達の嫌味に曝された。
「セルヴォ様は、いい意味で馬鹿ですわ。己が出来ないことは、他人に任せる。外聞よりもその個人の資質のみで判断する」
「ミュスクル家はだいたいそんな感じだぞ。政治は駄目だし、領地経営も難しいから話蹴ってるし」
「でもお嬢様には、そういう立場で意見の言える他人が必要だったんです。家族は甘い意見しか言わないと。だからこそグラソン様も最初だけ口に出してその後何も言わなかったのですから」
「それってネージュにいいことしたってことだよな」
「でもそれなのにあの男爵令嬢の肩を持つような真似をしたのが、気にくわないのです。殿下がお嬢様を擁護しないのはわかっていて、表だって学園でお嬢様を守れるのはあなただけでしょう……」
セルヴォは、気を許した友人の一人だったのに見て見ぬふりどころか男爵令嬢と仲良くなってしまっている。
「俺には俺の理由がある。今それを言うわけにはいかない」
「理由なんて聞かない。あなたがお嬢様を傷つけたことに変わりはない」
「うん、分かった」
セルヴォは、本当にわかったのか不安になるほど素直に言う。
「でも俺のことローズが学園に入学する前から嫌いだよね?」
「そんなものお嬢様があなたを唯一の友人と言うからです。私も友人と呼ばれたかった」
「俺は、ネージュにセッティは姉のようだって聞いてたけど」
「私がネージュ様の姉……。それもよいですわね」
うっとりとした表情でセッティが呟いている。セルヴォは、ちょっとネージュがうらやましくなった。
「あとこれ早いけどプレゼント」
「これは……?」
「なにクリームだったかな? 思い出せないけど変なものじゃないよ」
セルヴォは、セッティに袋に入ったハンドクリームを渡した。
「まぁ、ポール商会ね。ありがとうございます」
「……うん。よろこんでもらえて嬉しいよ。じゃあ俺行くよ。また来る」
「もう来なくてもいいです」
セルヴォは、セッティへ困ったように笑うと帰っていった。




