ローズ仮面舞踏会に出る
仮面舞踏会とは、仮面等で顔を隠し砕けた雰囲気で懇談しましょうというものだ。
仮面で顔が隠れているのでどの家の人間か判断しにくいため、身分関係なく楽しみたい人や事情があって出れない人など様々だった。
顔さえ隠れていればいいので被り物やキグルミもいるのはまだ可愛い。これでもかと宝石とイミテーションを使いギラギラしている人もいる。
「うわぁ、すごい」
西洋の町並みと見慣れない黒や茶以外の髪色でさえコスプレのように見えるのに、異界に迷いこんだ気がしてくる。
しかしここで気後れするわけにはいかない。グラソンを攻略しなければ、明るいシュバルファン王子とのラブラブ計画が頓挫してしまう。
好感度をあげるには仮面舞踏会で攻略対象とダンスを踊ればポイントが高いとネットで載っていた。普通は見つけるのが難しいがスチルを見たのとグラソンが特徴的なので簡単に見つかるはずだった。
「ヒャクジツコウの姫踊っていただけますか」
リアルなゾウの被り物を被った男性が声をかけてきた。今日のローズの装いは、白のサルスベリで飾っていた。
「はい、よろこんで」
ローズは、多少驚いたがホールへと足を運んだ。このゾウの被り物こそがグラソンなのだ。
ホールにつけば曲に合わせて二人は踊り出した。
「仮面舞踏会は初めてかな」
「初めてです。あとダンスお上手ですね」
「私には妹がいてその妹の練習に付き合っていたので上達したんです。頑張り屋の可愛い妹です」
その言葉にローズは、罪悪感を覚える。内乱を回避するためとはいえ、オパール・フォン・ネージュを悪者に仕立ててしまった。
しかしローズには、何も出来ない。
オパール・フォン・ネージュの噂を流したのは、ローズではないのだ。誰かがオパール・フォン・ネージュを貶めるために誇張して流している。
その貶める噂に乗っかり王子に近づくローズもその犯人と同じ場所まで落ちている。
「考え事ですか」
「すみません、妹の練習に付き合うなんていいお兄さんですね」
「ありがとうございます」
声だけだがその言葉に嘘偽りがないような気がした。そしてグラソンをどうやって攻略すればよいかわからない。ネージュはいないのだからグラソンがローズに心を傾けることはない。
「曲が終わりましたね。ありがとうございました」
「いえこちらこそ」
踊るのは婚約者でもない限り1回だけだ。せっかくのチャンスをふいにした気がする。
ローズは、踊りで喉が渇いたので飲み物を受け取り部屋の隅に立つ。
「さっき踊っていた美人さんだね。疲れた感じ?」
「リッド先生……? なぜここに」
リッドがキャンバスを広げ絵を描いていた。普段ラフな装いの多い人物だが正装を着ているのでまた違ったかっこよさがある。
「王宮の依頼で仮面舞踏会の絵を描いてたんです。見てもいいですよ」
お言葉に甘えて絵を見ると、自分らしき人物と先ほどのゾウの被り物が踊っているのも描かれていた。
「これ私ですか」
「正解です。囁きが聞こえてきそうでしょう」
「はい」
リッドの絵は、人の内面をよく出していると思う。だからこそ人を惹き付けるのだろうとローズは思った。
密偵として様々な人物を見るからこそ出来た技能である。
「どうですか。踊って楽しかった?」
「はい」
「ヒャクジツコウの精よ。私と踊ってもらえないか」
ローズには、声を聞いただけで誰なのかわかるシュバルファン王子だ。
声の方を向くと栗色の髪に薔薇の仮面の男がいた。
「はい、よろこんで」
ローズは、差し出された手を握った瞬間に胸の奥の罪悪感が消えて浮かれてしまう。ホールに入る前に青い瞳で見つめられれば自然と笑みがでてしまう。
「君は白も似合うんだね。ローズ」
「ウィッグとドレスのおかげです」
今日は、グラソンにローズだと気がつかせないために茶髪のウィッグを被っていた。
「でもだからかな、君が他の人と踊るのを見て嫌だと思ったんだ。君は、僕のものでしょう」
「……はい」
「白い今日の君を赤く染めるのは、僕でありたいと思うんだがどうかな。嫌?」
「嫌じゃないです」
シュバルファン王子が嫉妬してくれてローズの胸が締め付けられる。合わせて握る手に力が入る。
「それじゃあ、ダンスを楽しもう。君とこうやって踊るのを楽しみにしていたんだ」
「私殿下と踊るの楽しいです」
それからローズは、囁かれるまま何曲も踊り続けた。