ジャンの憂鬱
ジャンは、ローズにどうやって会おうと悩んでいた。
不安定な関係でどうやってアプローチするか決めかねている。オブシディアン家に商品を売り込みに行こうかと思った矢先に、頭取が支店の視察に出てしまい忙しさが倍増した。
「女性にプレゼントを贈りたいんだけどおすすめってあるかな」
癖っ毛で黒髪の少年がジャンに声をかけてきた。少年の身なりは質素だが質がいい。貴族の坊っちゃんのお忍びで来たのだろうと見当をつける。
「こちらの商品などいかがでしょうか」
少年は、ネックレス売り場に連れて行くと目を白黒させた。
「こういうギラッギラッしたのじゃなくてもうちょい慎ましい感じのないですか」
「慎ましい……? 失礼ですが相手の女性はどこのご令嬢でしょうか」
「デビュタントしてないから知らないかもしれないけどコモン子爵家令嬢セッティに贈りたい」
「オパール家令嬢の専属侍女殿ですね。失礼ですがご親戚でしょうか」
「親戚じゃない。俺は、男として彼女にプレゼントを贈りたい」
「そうですか」
ジャンは、少年に同情した。少年の見た目から見て13歳くらいで男性が結婚出来る年齢が18歳で5年後であり、20代のセッティは確実に別の人物と結婚するだろう。
ジャンは身分が、少年は年齢が邪魔しているので他人事とは思えなかった。
「働く女性に合うプレゼントを提案させていただきます。ハンドクリームを香り別に小分けしたものなど仕事中や私生活で使い易く喜ばれると思います」
「じゃあそれにする。カモミールとあと2つ別の香りを頼む。払いはこれで。品物は、ここでもらう」
「かしこまりました」
ジャンは、ハンドクリームを包むと少年に渡した。少年は、喜ぶ顔でも浮かんだのか笑顔が綻ぶ。
「頑張れ少年」
だがしかしこの少年は、今年18歳になったので問題なく求婚出来ることをジャンは知らない。
「あっ、息子くん。ラザールいるかな」
白髪の壮年の男性が声をかけてくる。男の名前は、オパール・フォン・ブリュイヤールといいオパール公爵家当主だ。
ブリュイヤールは、昔ラザールと一緒に旅に出てお互いに気安い仲だった。
「ブリュイヤール様。頭取は、定期視察に出ております」
「しばらく帰って来ないのか。そうだな君の若い感性で聞きたいんだが。幼い女の子へのプレゼントは何がいいだろうか」
「幼いとは何歳でしょうか」
オパール公爵家に幼子はいなかったはずだが親戚かもしくは隠し子かとジャンは考えた。ブリュイヤールは、亡くなった奥方が第一なので隠し子はないと思うがわからない。
「3歳だ。いいのあるかい」
「すぐにプレゼント出来るのならお菓子。遠方にいるなら人形とかどうでしょうか」
「人形かいいね。見せてくれる?」
「かしこまりました」
ブリュイヤールは、人形売り場につくとひたすら長い間悩んでいる。ジャンも思い付く限り意見を言うがはっきりしない。
「決め手がないのなら昔のお嬢さまにプレゼントしたもので喜んでたものをおもいだしては」
「クマのぬいぐるみだな。そうか…ならそこのウサギのぬいぐるみをもらおうか」
ブリュイヤールは、クリーム色のウサギのぬいぐるみを指差す。ジャンは、やっと決まったと安堵した。
「それじゃこれ公爵家に送っておいて。支払いはそのとき家令にさせるから」
「かしこまりました」
閉店間際の時間になりジャンも気が抜けてきた。今日の客は疲れるばかりだと溜め息をつくと声をかけられる。
「公爵の次はグラソン様ですか」
「父もここに? そんな暇ないはずなんですがね。ところで仮面舞踏会でつけるものを探したいが仮面はどこですか」
「こちらです」
大抵の貴族は、屋敷に商人を呼び寄せるのになぜオパール公爵家は自分たちが来てしまうのか頭が痛かった。
グラソンは、売り場に着くと興味津々で見て回っている。
「屋敷に持ってきてもらってもいいのですが普通すぎて面白くないのですよ」
ジャンは、売り場担当にそうなのかと視線を投げると首を横に振った。
「普通の仮面ですとぞろぞろ寄ってくるので寄りたくなくなる奇抜なものがいいです」
「奇抜……?」
「あぁ、あれいいですね。あれにしましょう。支払いと届け先は、オパール公爵家で」
「本当にあれでですか」
ジャンは、グラソンが選んだものに目を見張った。誰も買わないので買ってもらえるならありがたいが信じられない。
「もちろんです」
グラソンは、店に入ってから一番の笑顔を浮かべた。支払い先を告げると買ったそれをそのまま持ち帰った。
「明日、俺休んでいいか」
「我々が死んでしまうのでやめてください。坊っちゃん……」
ジャンは、俺が何をしたんだと内心溜め息をついた。




