ネージュは約束を守ります
ネージュは、窓を叩く音に気がつき開けると窓の下にヴィオがいた。
「ヴィオ!」
「ちょっと短いけど3日こっちにいられるよ。ネージュが読みたいって言ってた本も持ってきた」
ヴィオは、手に持っていた本を持ち上げて見せる。3歳のネージュに合わせたのか文字より絵が多い本だった。
「準備する。セッティ、ネージュお外出たい」
ネージュは、窓から姿を消すと外出着に着替えるためにセッティを呼んでいる。
「かわいいな」
ヴィオは、微笑ましそうに主の消えた窓を見る。記憶喪失で大変だと聞くが3歳という幼い精神は、柔軟らしく今を楽しんでいるようだ。
城で出会った時の雪の結晶のような儚く美しく一本筋の通った姿と、友人が来て常春のような笑顔を浮かべる彼女もよい。
「ヴィオ、今日はあっちにいこ」
外に出てきたネージュは、くるぶし丈の白いワンピースにツバの広い麦わら帽子を被っていた。麦わら帽子の黄色の花が夏らしく爽やかで可愛らしい。
「東屋か。日差しが強くなってきたしちょうどいいな」
「うん、楽しみ!」
二人は、東屋につくとネージュが座ろうとした場所にヴィオがハンカチを置いてそこに座らせる。ヴィオ自身は、気にならないのかそのまま座った。
ネージュは、座るヴィオを食い入るように見ている。
「ネージュ、どうしたんだ」
「ヴィオ絵本の中のおーじさまみたい。コレ!」
ネージュは、ハンカチを指差した。
「ならネージュは、お姫様かな」
「ネージュは……ヴィオが助けてくれるならお姫様もいいな。こわいのいやだけどがんばる」
「物語のお姫様は、恐い思いをさせられるけど俺のお姫様にはそんなことさせない。約束しただろう。だからネージュ」
ヴィオが次の言葉を言いかける前にネージュが立ち上がった。
「約束! あっ、栞忘れちゃった」
「明日もいるから明日返してもいいよ」
「それは、めっなの。行ってくる~」
ネージュは、屋敷に走って戻っていった。ヴィオは、ネージュが転ばないか心配だったがいるはずのない人間が屋敷に近づくのは問題だった。
「あいつと出会う前なら俺のこと見てくれないかな。ネージュ」
ヴィオは、残されたハンカチとさっきまでいた人物に思いを馳せるのだった。




