ネージュプロポーズされる
ネージュは、東屋で絵本を読んでいた。
少し暑くなってきた時期なので風が吹き日除けのある東屋は、読書に最適だった。
「おい、お前!」
どこからか声が聞こえたがネージュは、気のせいと思い手に持った絵本に視線を落とす。白雪姫が継母により城から追い出され森をさ迷っているシーンだった。
「お前無視すんな!」
思ったより近くに声が聞こえて探すと東屋の外に少年がいた。ネージュが立ち上がり近づくと少年は後ずさった。
「ネージュ、おまえって名前じゃないよ?」
「お前大人の癖にちっさいこと言うな」
「ネージュ大人じゃないもん。3歳だもん」
「嘘言うな。7歳の俺より体大きいのに3歳のわけないだろ」
「うっ、うそじゃないもん。本当だもん」
ネージュは、しゃくりあげたと思うと弾けたように泣き出す。
「ちょっと言い方強かっただけで泣くなよ。オレとうちゃんにげんこつされちまうよ。とうちゃんのげんこつ痛いんだぞ~。痛いのはいやだぞぉ~」
二人して泣き出すとさすがに屋敷の中に聞こえたらしい、セッティとリッドが飛び出してきた。
「ネージュさま! 怪我でもなさりましたか!?」
「ひっく、怪我してない……だい……じょぶ」
「ってことはこの坊主のせいか。でもこっちもこっちで泣いてるし」
「うるせー! オレっは泣いてない。これは……ココロっの汗だ」
「そうだなー、心の汗だよなー」
リッドは、少年に対して適当な返事を返した。少年の泣いている理由がわからないが、強がりたいのはよくわかる。
しばらくすると二人とも泣き止んだ。
「それでどうして泣いてたんだ?」
「ネージュが3歳って言ったらうそつきってゆったの」
「あ"ー」
リッドとセッティは、その言葉で何が起きたのか理解した。
「ネージュ様は、(中身は)3歳ですよ」
「体大きいのにか」
「そうです」
「ふーん?」
「ところでお前どこから来たんだ。名前は」
オパール家の城は、山の上に建っており近くの村でも大人の足で2時間かかる。
「俺は、トマ。ステア村から歩いてきた。すごいだろ」
「ずいぶん遠いとこから来たんだな」
「あと君どうやってこの塀越えてきたの」
「あそこらへんの塀に穴空いてたぞ」
セッティは、城内で待機していた執事長に目とサインで伝えた。執事長は、さっそく詰めていた兵に守りの穴を探させている。
「そうだ泣かせたワビに俺がおーきくなったらお前を嫁にしてやるよ」
トマ少年がネージュに言うが、ネージュは首を傾げて何も言わない。
「いまなんてった糞ガキ」
「イタイ! イタイ! 大人げないぞおっさん! ぐりぐりイテェ」
リッドは、拳骨2つをトマの頭に当てぐりぐりと押した。地味に痛い方法なのでトマは、涙目でリッドに不満を漏らす。
「俺は、おにーさんだ。あとさっきの言葉な。白髪の悪魔に聞かれると三枚下ろしにされるぞ」
「そのこと詳しく聞かせて貰おうか」
今日は、銀髪を三つ編みにして黄色の目が鋭くリッドを見ている。
「えっ、グラソン様」
「この忙しい時にどこで油を売っているんですか。仕事ですよ」
グラソンは、リッドの耳を掴んで引っ張った。やっと頭を解放されたトマ少年は、さっきまで強かったリッドがグラソンに負けているのを見ていた。
「痛いですってグラソン様。耳がもげます」
「おにいさま、りっくんお仕事頑張ってねー」
ネージュが手を振るとリッドは、同じように手を振り返す。痛いと言いつつ余裕があるようだ。
「あの白髪の兄ちゃん、とーちゃんより怖いな」
「トマーあのね」
「トマだ」
「トマ意地悪だからネージュお嫁さんいやー」
トマは、子どもながらにネージュの言葉がショックだったようだ。
「ステア村のトマ君。今日は馬車出してあげるから帰んなさい」
「……」
ショックのトマ少年は、そのまま馬車に乗せられ帰っていった。
そして領主に迷惑をかけたと父親に伝わり拳骨をくらったのは言うまでもない。