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SF短編集

Cannibal Dead Begins ゾンビが現れた日

作者: 稲代永幾

人を喰らう屍、誕生

 日常というものがあくまで平坦足らんとすると、人間というものはそれをぶち壊したい衝動に駆られるようだ。起伏を、あるいは刺激が欲しくなってくる。

 ファンタジー世界に迷い込んだり、宇宙人が侵略してきたり、超能力が使えるようになったり、なんてことまでは求めないけれど、せめて空から女の子が落ちてきたり、裸の女の子を拾ったり……いや、別に裸じゃなくてもいいけど、ってか女の子に飢えているわけじゃないし、勿論そんなことがありうるとも思っていないからいいんだけど。そもそも、一体世の中のどれほどの人がそんな経験に巡り合えるのか分からないがおそらくそうなったら犯罪がらみであろうことは間違いない。


 要は、だ。

 最悪、強盗に巻き込まれる等の不幸系のハプニングでもいいから灰色に染まり行く俺の人生に極彩色の彩りを下さい!と、そういうことです。


 そして、結局何事もなく今日も終わる。平和は一番とはよく聞く話だが、平和を貪る動物園の野獣のポテポテと太った姿はなんて可愛らしくも醜いことか。平和は人間を腐らせるのだ、と独り言ちながらくたびれたスーツを着こなして、電車にゆらゆら揺られての帰宅するのが今の俺だった。はー、イヤホンが絡まった。有線イヤホンが鬱陶しいから無線イヤホンを買ってみようかと普通のことを考えてしまう、普通の一日だ。


 こんな平和な一日に対する俺なりの反抗としては影の薄い女性を見て内心で幽霊と疑ってみたり、空を渡る飛行機をUFOと思ってみたりするのが精々だ。


 電車を降りて、右手に見える階段をくだり、改札機にicカードをかざして道路に出る。コンビニから漏れでた蛍光灯の白い灯りに照らされながら家路を辿る。何もないなぁ、やっぱり何もないなぁ。何か路地からバッと出てこないもんかねぇ。


 と、路地を覗きこんでみた。あ!ほら、あそこにゾンビが!何て思ってもそれはただの酔っぱらいだった。あーあ、千鳥足でふらふらとゴミ箱を蹴っ飛ばしちゃったりなんかして酔っぱらいってのはどうしようもないね。


「ちょっと、やめてください!キモいんですけど!」


 ほらもう、女の子に絡んで簡単に突き飛ばされちゃって、ああ、また近付こうとしてる……って、これだよ!微妙に違うけどもうこれでいいよ!むしろ憂さ晴らしに近い気もするけど、女の子助けちゃうってハプニング感あっていいじゃん!そしたらお礼にキスされちゃったりして!


「おい、あんた。酔い過ぎだよ。それ以上はお金取られちゃうよ」


 と肩に手を掛けて振り向かせると、酔っぱらいは「ぐわー」っと涎だらけの口を開いて呻き声をあげた。こいつは大分酔ってるね。

 俺はなんかやだなー、怖いなーと思いながら「そういうのよくないですよ」と慎重に礼儀正しく品行方正かつ紳士的に伝えたが、歯をカチカチと鳴らし始めた酔っぱらいにちゃんと伝わったのかどうか。

 少なくとも酔っぱらいは標的を俺に変えたらしく、何だか力強く抱き締めようとしてくる。


「ちょっと、やめてください。俺そういうの趣味じゃないんで!」


 図らずも絡まれていた女の子と同じ言葉を言ってしまった。真似っこしたわけじゃないけど、気分損ねてないかなと思って女の子の方を見ると、あれ!あの女、逃げやがった!いや、別に見返りが欲しかったわけじゃないからいいんだけどね!けど、「ありがとう」とか言ってくれても……あ、これが見返りになっちゃうな。


 っていうか、この酔っぱらったおっさん力強くない?何か段々と力が強くなってきているような気がする。

 その上、涎だらだらの口で歯をカチカチと鳴らして見るからにやばそうである。


 あ、これ吐きそうになってるんじゃね?


 俺は唐突に危機感を感じた。まずいぞ、スーツを汚されると洗濯のローテーションに狂いが出る。安月給で最低限のスーツしか買っていないため、汚されると非常に困る。いつもいつも買おうとは思っているのだが、現状で一先ず問題がないからと先延ばし先延ばしにしていたらこの様だ。酔っぱらいがゆっくりと頭を垂れて右腕に縋り付こうとしている。ちょっと待て、そこでも袖が汚れるだろうが。

 あーもう、鬱陶しい&今ならまだスーツが汚れずに済むと思い、一息に俺は酔っぱらいを突き飛ばした。よし、ここで決め台詞だ。


「いい加減にしてください!」


 うん、ばっちり決まったかな。


 ……あれ?おっさんが動かない。

 ゴミの山目掛けて突き飛ばしたから怪我はないと思うんだけど。


 俺は唐突に危機感を感じた。先ほどとは比べ物にならないビリビリと脳髄が痺れるような危機感と、足元が崩れるような恐怖。


 ――――え、死んだ?


 ちょっと待って、俺の罪責を検討せよ。

 俺は刑法199条殺人罪に該当しないか。

 俺は2月4日午後10時24分頃、被害者を突き飛ばしもって被害者に脳挫傷を生ぜしめた。そして、被害者は脳挫傷によって死亡した。けど、大丈夫殺意がない!ほら、ゴミ袋の山に向かって突き飛ばしてるから!

 次、刑法208条傷害致死罪……なんて現実逃避をしている場合じゃない、しっかりしろ俺。


 まずは目撃者の有無だ。いないな――――じゃなかった、息を確認して救急車の手配だ。


 俺はおそるおそる酔っぱらいに近付いて顔を覗き込んだ。

 息は――――


 ――――……してない。


 ああ、俺終わったわ。酔っぱらいのおっちゃんも終わってしまった。いや、俺がおわらせてしまったのか。


 絶望しながら数秒間おっちゃんを眺めていると、おっちゃんの後頭部からどろどろと血が流れてきてゴミの山を濡らした。

 ハッと気づいて救急車を呼んだ。119番では何を言えばいいか分からなくておっちゃんが後頭部から血を流して死んでいるということだけを告げた。


 電信柱で確認して場所を告げ用件を全部伝えてからも、オペレーターのお姉さんは電話を切らず歯をガチガチと鳴らす俺に安心させるような言葉を告げて、その場で待っているように言った。はは、もしかしたら警察が来るまで逃げないようにって趣旨なのかもしれない。確かに逃げたくもあるが、必死に我慢した。


 救急車はわずか1分で姿を見せた。


「あ、来ました。お姉さん、ありがとうございます」

「え?……はい、あとは救急隊員に指示に従ってください。きっと大丈夫ですから落ち着いて対応してくださいね」

「……がんばります」


 あーあ、なんでこんなことになっちゃったんだろう。おっちゃんこそそう思うよな、と物言わぬおっちゃんに目を向ける。ちょっと非日常なことないかなって思って声を掛けただけなのに……強盗に遭うどころか今では俺が殺人者の側だ。


 救急車がアスファルト切り裂いて止まると、中から全身を白い宇宙服のようなもので覆った救急隊員が降りてきた。


「こっちです」

「コヒュー、下がって少々お待ちください。おい、いたぞ!ストレッチャー用意」


 救急隊員らは皆一様に白い防疫スーツを着込み、てきぱきと動いた。

 ……そういえば、何故そんな重装備をしているのだろうか。


「搬入完了。あなたも来ていただけますか?」と、救急隊員は俺にも救急車への同乗を求めた。


「けど、警察を待たないと」

「ああ、大丈夫です。警察へは我々の方から連絡いたしますので。それより事故・・の状況から救命の可能性を把握する方が大事です」

「救命?できるんですか!?」

「今からそれを聞くんです。ちなみにあなたはどこか怪我はありませんでしたか?」

「手首を握られたくらいですけど」

「見ても?」

「はい」


 救急隊員は俺のスーツの袖を捲って熱心に傷がないか調べた。


「怪我はないようですね。さあ、乗ってください」


 救急車は俺を被害者の横の椅子に載せると走り出した。

 おっちゃんはすっかり膜のようなものに包まれており、もはや救命は不可能なように思えた。というより、救急隊員らは救命しようとさえしていない様子だった。


 俺は救急隊員が聞くことに素直に答えていった。

 俺の名前と住所。初めは女の子を助けようしたこと。女の子も怪我はなさそうだったこと。歯をカチカチ鳴らしながら近付いてきたこと。押し飛ばしたら動かなくなったこと。


 涙ぐみながら語り終えると、救急隊員にスーツを脱ぐように言われて、素直に脱いだ。

 あれ、なんで?


「気にせんでください。ちょっとした願掛けみたいなものでしてね」

「願掛け、ですか?」

「ええ、知りませんか?ファブリーズって除霊に効くそうですよ」

「除霊!?」

「まあ、人一人死んでいるわけですし。さ、どうぞお帰りください」

「え!?」


 救急車から降りさせられた場所は我が家の前だった。


「ど、どういうことですか?」


 尋ねると、救急隊員は軽く微笑んで俺の肩を叩くとこう言った。


「あんたは人知れず世界を救ったってことさ。今日のことはすっかり忘れて誰にも言わないように黙ってな。そうすりゃ、いいことあるぜ。で、逆をすりゃあ悪いことが起きるだろうな」


 最後に救急隊員は「じゃあな」と言って、俺を残して去っていった。


 結局俺はそれがなんだったのか分からない。

 しかし、後日俺の口座には300万円が振り込まれていた。俺はこの日のことを誰にも言わないことを心に誓い、有休を取ってモルディブにバカンスに向かった。


 要は、だ。

 非日常なんかで不幸になんてなりたくないし、平坦な日常でもお金があればハッピーハッピーというわけだ。動物園に横たわる太った虎は正直に言ってしまえば可愛いし和む。それでいいじゃないか。俺の人生に極彩色なんて要らない。モルディブの鮮烈な青と白のコントラストの方が余程明るくて楽しいんだから。

 俺はビーチチェアに寝そべりパラソルが直射日光を遮る中、冷えっ冷えの梅酒ソーダを傾けてそう思った。

人を喰らう屍、死滅


もちろん、ゴミの山に付着した血液も綺麗に拭き取られましたし、女の子への感染もありませんでした。

しかし、感染経路はどうなっていたんでしょうか。すぐに対策班が現れた辺り予測はされていたようですが、本当に対策班は全てを予測できていたのか。これでパンデミックは終わりなのか。。。


ゾンビについてあれこれ考えていたのですが、ゾンビの発生原因ってどんなのが納得できますでしょう。昔は黒魔術や謎の宇宙線なんかが原因だったのですが、今はバイオハザードのおかげかウイルスなどの微生物が主流なのでしょうか。まあ、ウイルスが生物に入るのかもわかりませんけど。

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