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「ちょっと寄るとこあるから先に行ってろ、ばか。」 と言われ、



弓道着に着替えた俺は、道場の中央に正坐させられている。



目の前には腕組みをし、同じく正坐をした進藤さん。



放課後になってからまだ早く、道場内には2人しかいない。




(・・・なんだろう、この空気・・・)




サッカー部がグラウンドで練習している声が聴こえるほど静かな弓道場。



それもこれだけ人がいないと気が変になりそうな雰囲気。




(・・・春原先輩、助けて・・・)



「藤堂。」



「はいっ!?」




突然声をかけられて、思わず叫んでしまった。



だが進藤さんは顔を崩さずに、そのまま続ける。




「俺は遠まわしに物事を訊くのが苦手だ。



だらだらと質問を繰り返すうちに、本来訊きたいことを見失う。」



「は、はぁ・・・」



「だから単刀直入に訊こう。 構わないか?」



「ど、どうぞ。」




もうしどろもどろだ。



先輩は一体何をしているんだろう。




「では尋ねる。」



「は、はい。」



「春原とケンカでもしたのか?」



「・・・・・・・・・・・・・・・は?」




5秒は間があっただろうか。




「な、なんでですか?」



「いや、いつも2人揃って道場に入ってくるのに、今日はお前1人だからな。



ケンカでもしたのかと。」



「あ、あー、いや、ちょっと寄るとこがあったらしいです。」




弦巻なり鞄なりが飛んできた場面を思い出す。




「ケンカじゃないんだな?」



「違う・・・と思います。」



「ならいいんだ。 俺はあいつが他の誰かと話す光景を見たことがないからな。



ケンカ別れでもしてたら二度と活動に来ないんじゃないかと思った。」



「ケンカって言葉好きなんですね・・・ってか。」




立ち上がって矢筒から矢を出そうとした進藤さんに、それ本当ですかと尋ねると、



俺が見ている限りだが、と返ってきた。




「人付き合いが苦手とは思えないんですけど・・・」



「・・・んー、まぁそこは本人に訊け。」



「それって訊くもんですっけ・・・」



「お前なら教えてくれるかもしれないな。



四六時中一緒にいるんだろ?」



「いや、それは無理です。」




まぁそうだろうなと進藤さんが笑う。



そろそろ足もしびれてきた。




「いっそのこと、結婚でもしたらどうだ?」



「なっ!・・・痛っ!」




震える足を支えながら慎重に立ちつつあったのに、進藤さんの一言で全部無駄になった。



正面から勢い良く倒れる。 でも顔は守った。




「な、な、何言ってるんですかっ」



「・・・冗談で振ったつもりだったんだが・・・」




進藤さんが恐ろしいぐらい笑顔で言う。




「まんざらでもないみたいだねー、藤堂君。」



「な、いや、だって先輩は、お・・・っ」




はっとして、言葉につまった。



そう、先輩は、男だ。



そして、自分も同じように。




「何? お? なんだって?」



「・・・いえ、なんでもないです。」



「んーまぁ、だいたいわかるけどな、言おうとしたこと。」




進藤さんが弓に弦を張り始める。



俺は突っ立ったまま何をすることもなく、進藤さんの方を向いていた。




「まぁ、がんばるこったな。 人の好き嫌いに弊害なんてよくあることだ。」



「・・・」



「お前にはまだ時間があるからな。 俺なんか受験のせいであまり残ってないし。



もう少し勉強しといたらよかったなー。」



「・・・え? 先輩も・・・?」




その時、玄関の方から声が聴こえてきた。



他の弓道部員が入ってくる。



でもその中に先輩の姿は無い。




「ま、適当にな。」




進藤さんが俺の頭をポンッと叩いた。



その顔はさっきの恐ろしい笑みとは違う、何か暖かいものが感じられた。




「もうすぐ春原も来るだろ。 いつもみたいに迎えに行ってやれば?」



「え・・・あ、はい、そうしますー。」




なんか気恥ずかしく感じて、逃げるように玄関を出る。



今の俺の顔、たぶん緩みまくってる・・・



しっかりしろっと両頬を一回叩いて、校舎の方へと歩き出す。





結論から言うと、先輩を見つけるのはそう苦労しなかった。



先輩はグラウンドへの石段の頂上に座っていた。



それも、今まで見たこともない、俺にとっては最高の笑顔で座っている。



先輩の目の前には、背の高い誰か。 2年生か、3年生だろうか。



その男が何かを言うたびに、先輩は笑っているみたい。




あまりに突然すぎて、どういう状況なのかまったく理解できなかったけれど。



その笑顔が、俺に向けられたものじゃないと分かると、



胸の中に嫌な違和感を感じた。



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