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初めて春原先輩に会ったのは、俺が中学3年生の時。
ここ、藍川高校の秋期オープンスクールに来た時だった。
当時の学力じゃ正直厳しい学校だったから、まったく興味が無かったけれど、
小学生の時からいっしょの涼に誘われたこともあって、とりあえず行ってみた。
全体説明会が終わり、涼と一緒に部活動見学をしていた時だった。
唯一興味があった合唱部を見学し終えていた俺は、相当とぼけた顔をしていたのか、
当時2年生、現在3年の部長兼主将の進藤先輩に声をかけられた。
「弓道部が今練習してるんだけど、見ていかない?」
だるさが最高潮に達していたけれど、涼に「行ってみようよ」と言われたので、
とりあえず見に行くことにした。
結果、これが最高にいい判断だった。
道場の中には、当時1年生、現在2年生の方々が・・・何人いたっけ・・・。
とりあえず練習していた。
その中で、一番後ろで弓を引いていた人。
背は高くないけれど、なんかよくわからない不思議な感じがする人。
他に何人も人がいるのに、なぜかその人だけに目が行った。
最初はたぶん、好奇心から。
その人が弓を引分け、会に入っていくうちに、だんだん体が熱くなって。
矢を放って、ピシッと決めたあの姿勢を見た瞬間に、心臓がばくばく言い出した。
冷静になってる今じゃ、その気持ちがなんていうのかわかるけれど、
なにがなんだかわけがわからない状態だったその時の俺は、何も考えることなく、
引き終わったその人に向かって走って行き、先輩の右手をゆがけの上から握り締めて言った。
それも大声で。
「めっちゃ・・・カッコよかったですっ!!」
ちょっと間が開いたのは言葉選びのため。
「カッコよかった」 と言うつもりではあったけれど、その人の顔を正面から見た瞬間に、
「あ、やっべ、めっちゃかわいいっ!」 と想ってしまったから、できた間。
さすがに「かわいかったですっ!!」 とは言えない。
なにせその人は、男の子だから。
その人はきょとんとした様子で俺を見上げ、そして言った。
「・・・そっか。」
「あ、お、俺、藤堂 雀人って言います! 先輩は!?」
「・・・春原。」
「下は??」
「・・・裕紀。 春原 裕紀。」
「春原 裕紀先輩ですね! お、俺、今の学力じゃちょっと厳しいかもしれないけど、
カラオケとか、ボウリングとか、女の子とか、全部我慢して勉強して、
そんで、絶対この学校に入って、
弓道部に入りますからっ! 後半年待っててくださいね!」
「・・・ああ。」
「絶対来ますからっ! 忘れな・・・ちょっ、涼、引っ張るなってっ」
「はいはーいうるさーいかえるよーおさわがせしましたーさよーならー。」
劇的な出会いだった。
何人か付き合いを持ったことはあったけれど、春原先輩ほどに焦がれたことはなかった。
当時、春原先輩に彼女がいたのか、狙ってる人がいるのか、
そこまで考えることができなかった俺は、
入学までの後半年に、ずっと焦りを感じていた。
あの宣言通り、俺は本当に遊ぶことをやめ、一心不乱、無我夢中で勉強した。