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幕間「ダリウス王子とリィン」前編

2020.4.18大幅改稿



 連日行われている呪詛対策会議。


 基本的なメンバーは、白と黒の聖女、ダリウス、ライフォードに加え、魔法特化である第二騎士団の団長アデルの五名だ。

 日によって彼ら騎士団長たちの部下が加わるが、今この会議室にいるのは上記五名のみである。


「聖女サマ、そろそろお開きにした方が良いんじゃないか?」


 彼――アデルの言葉に、黒の聖女の手がようやく止まる。


 第二騎士団長、アデル・マグドネル。

 ダリウスより幼い顔立ち、小さな体躯だというのに五つ以上も年上で、なんとあの元団長ハロルド・ヒューイットを尊敬しているらしい。


 少々自己評価が高いきらいがあるが、性格は至って真面目。部下からの信頼も得ている。

 だというのに、ダリウスの中で彼が変わり者枠から抜け出せないのは、ひとえにハロルド信奉具合からくるものだ。


 あの男を尊敬する人間に碌な奴はいない、とはダリウスの言い分である。


「分かったわ。とりあえず、また夜に集まりましょう。ちょっと根を詰め過ぎたかもしれないしね。有栖なんて眠っちゃってるし」


 黒の聖女はふぁ、と欠伸をこぼし窓の外を見た。

 さんさんと煌めく太陽が部屋の中へ明かりを運んでいる。夜通しで行われたこの会議も、聖女たちの体調を考慮して一時中断となった。


 ダリウスは部屋の隅に運ばせておいたベッドへアリスを運び、上からそっと布団をかけてやる。

 本当は自室にあるベッドの方が寝心地も良いのだろうが、ここ最近はずっとこの会議室で黒の聖女と一緒に寝食を共にしている事から、この場所の方が良いと判断したのだ。


「へぇ、王子もちょっとくらい気が利くようになったんじゃない?」

「君には感謝している、黒の聖女。最近は君が傍で一緒に寝てくれるからぐっすり眠れる、とアリスが言っていた」

「あら、嬉しいこと言ってくれるわね。お姉さんの隣は安心するの?」

「いや、お姉さんとは一言も……ああでも、お母さんとは――」

「シャラップ! いい? 時には知らなくて良い事もあるのよ。だから貴方も内容を精査し、伝えるべき事項は見極めなさい? 分かった?」


 彼女の迫力に押され、ダリウスはこくこくと反射的に頷いていた。

 お母さんは駄目で、お姉さんは喜ばれるのか。

 いまいち理解できないが、いつか取り返しのつかない失敗をしそうな気がして、心に留めておくことにした。


「さて、と」

「おい。護衛騎士がいなくなった途端、一人でも続けようとするのは駄目だからな」


 全く休もうとせず魔族についてまとめられた資料に手を伸ばそうとする黒の聖女を、アデルが制止する。


 会議終了と共に、ライフォードは部下の様子を見てくると部屋を出て行った。いくら副官が優秀だとしても、長い間放置し過ぎるのも良くないと考えたのだろう。


 幸い、この場には第二騎士団長であるアデルもいる。

 彼は黒の聖女にとって土魔法の師。聖女たちを任せるに最も適した人物だ。


「んー、でもさ、あたしたちはここにいる皆と違ってこの世界について知らない事が多すぎるでしょ。それなのに、あなたたちでも解決の糸口を探し出せない事について議論するんだもの。ちょっとやそっとの頑張りじゃ足りないわ」

「馬鹿。ほんっと馬鹿。そういうのを何とかするのがオレたちの仕事なんだよ。いいから寝ろ。疲れてちゃ頭も働かないだろ。これは師匠命令だ。いいな? ……ちゃんと、キミが起きるまで傍にいてやるから」

「アデル君……。あなたってほんと、ちっちゃくて可愛いのにカッコいいわよねぇ」

「誰がちっちゃいだ! 可愛いもやめろ!」


 最も適した人物、のはずだ。多分。


 アデルの頭をぐりぐり撫でまわしながら、だらしのない笑みを浮かべている黒の聖女を見ると、何とも言えない気持ちになってくる。

 途中で痺れを切らしたアデルが立ち上がるまで、彼女のなでなで攻撃は続いた。

 悲しいが、あれでは師弟ではなく姉弟だ。


 彼女の護衛騎士がライフォードで良かったと改めて思う。彼でなくては、御しきれなかっただろう。

 聖女という存在は、どうしてこうも個性派揃いなのだろうか。


 ダリウスが思い描いていた聖女とは全く違う。

 彼の理想に近いのは、むしろ――。


 ダリウスは窓から空を見上げた。


 今日はリィンと会う約束をしている日だ。そろそろ時間だが、来てくれるだろうか。

 彼女は一度かわした約束を無下にするようなタイプではない。だが、状況が状況だ。来られなくなった、という一報だけで出会えない可能性も高い。


 そもそも、聖女たちが頑張ってくれているのに、自らの欲を優先させて良いのだろうか。

 彼女の貴重な時間を、自分なんかに消費させていいのだろうか。

 ダリウスはぎゅっと拳を握った。

 けれど――。


 こんな時だからこそ彼女に会いたい。

 会って、話がしたい。顔が見たい。声が聞きたい。

 馬鹿みたいだ。

 こんな感情、重りにしかならないのに。


「ったく、聖女サマは世話が焼けるな。寝ろっつってんのに」

「アデル」

「うぉあぁ!? お、王子! いらっしゃたのですか!?」


 いるに決まっているだろう。出て行っていないのだから。


 昔のダリウスなら「不敬だぞ」と怒りをあらわにするところだが、今のダリウスは違った。

 白の聖女、黒の聖女、そして最後にアデルと視線を彷徨わせた後、申し訳なそうに瞳を伏せて「頼みがある」と口にした。


「ダリウス王子がオレに頼み? はあ、珍しい事もあるものですね。何でしょう」

「予定がある。しばらく彼女たちをお願いできるか?」

「ご予定、ですか」


 アデルは瞳をぱちぱちと瞬かせ、「かしこまりました」と不敵に笑って見せた。


「就任から日が浅いとはいえ、第二騎士団長を任されている身。聖女様たちの護衛はわたくしにお任せください。どうぞ、何一つ憂いなくご予定を優先くださいませ」


 平然とした口調でそう告げるアデル。しかし彼は今、椅子に座っている聖女の頭に毛布を被せ、もがく彼女を上から押さえつけている状況だ。


 前任のハロルドと違って状態異常系の魔法は不得手だと聞いているが、なるほど、魔法で解決できないのなら実力行使というわけか。

 小さい小さいと侮っていたが、さすがは騎士団長。それなりの腕力は持ち合わせているらしい。


 前言撤回だ。

 この聖女を聖女とも思っていない扱い。なかなかやるじゃないか。

 彼にならこの場を任せても良いだろう。無理をしがちな黒の聖女を、なんとか休ませる事くらいできそうだ。


 ダリウスはアデルに礼を述べてからリィンとの約束の場――裏庭の庭園へ急いだ。



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