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47、星獣ガルラ 後編



 私はすぐに「分かりました! すみません! 今のなし、なしで!」と提案を引っ込めた。噴火はヤバイ。何のためにライフォードさんやハロルドさんが同行できなかったと思っているのか。

 マル君、罪づくりすぎでしょう。


 ガルラ様とマル君。両者とも相手の事を知っているのに、それほど面識が無かったのには理由があるとガルラ様は言った。

 なんでも、あの凍えるような瞳に見つめられたら興奮で燃え尽きてしまうから、出来る限り視界に入らないようにしていただとか。たまにふっと柔らかく笑う瞬間が筆舌に尽くし難い程に素晴らしくて、周囲を燃やし尽くしてしまいそうになるから早々に現場から離脱するのだとか。その他色々。

 完全に乙女だったよ、ガルラ様。


 外ならば少しくらいは抑えられるが、彼女のテリトリーであるガルラ火山内だと、噴き出している火柱や地中を流れるマグマの全てが彼女の感情一つで爆発してしまうらしい。感情と能力とが直結しているからこその悩みだ。


 でも気持ちは分かる。私の感情と魔力とが直結していたら、ジークフリードさんに触れるだけで団員さんを感電させ、彼が笑うたびに周囲のものを丸焦げにしてしまう自信がある。ガルラ様は良く耐えていると思うわ。


「あ! では、今回の遠征報告にこっそりガルラ様の話も混ぜてマル君にお伝えする、というのはどうでしょう?」

『妾の……事を……?』

「はい。とても綺麗で可愛い方だったとお伝えしようかと」


 直接出会えないのならば、これくらいしか私に役立てる事はなさそうだし。

 口を開かなければ生来の神々しさとグラデーションの美しさで見惚れてしまうガルラ様。しかし一度口を開けばおちゃめで可愛い性格だと分かった。嘘は言っていない。全部本心である。


 これで特別何かが起こるわけでは無いが、マル君の中にちょっとでもガルラ様を印象付けられたらな、と思って提案してみのだけれど――ガルラ様は目をぱちくりさせて、私の首筋に自分の頭を擦り付けてきた。毛並がふわふわで気持ちいい。


『リンゾウ、リンゾウ~! おぬし、なんて良い奴なのじゃ~!』

「喜んでもらえるのなら、僕、頑張りますね! あ。その代わり、といっては何ですが、結界の様子を教えていただけると嬉しいです!」

『結界? ああ、そのせいで今回はいつもより早めにやってきたのか。ご苦労じゃったな、皆……といってもリンゾウにしか聞こえぬか』


 ガルラ様は少し考えるように団員さんたちを見回した後、「うむ」と頷いて自身の羽を小さく折りたたんだ。


『リンゾウに通訳させるのも面倒だ。良い。気が乗った。此度は特別に人と会話を試みてみるか』


 まばゆい光が周囲を照らし思わず目を閉じる。人との会話――まさかマル君と同じで人型になる事が出来るのだろうか。瞼の裏側から光が収まったのを確認し、うっすらと目を開けてみる。


 先ほどまで巨大な鳥が鎮座していた場所に、一人の女性が立っていた。


 太陽の光を浴びて、透けるようにキラキラと光るプラチナブロンドのロングヘア。きりりと吊り上がった瞳が意志の強さを物語る。もはや素肌の方が多いのではないか、というくらい布面積の少ない黒のロングドレスを着用しているが、驚くほどに似合っていた。

 これが、彼女の人型。とんでもない美女ではないですか。


 梓さんが大和撫子系美女だとすれば、ガルラ様はナイスバディの妖艶系美女だ。人と違う点があるとすれば、背中から小さいながらも紅色の羽が生えている事くらいか。マル君と違って完全に人型、とはいかないらしい。


「この姿ならば人語を話せる。皆、いつもご苦労だったな。妾はガルラ。この山を司るものじゃ」


 ガルラ様が言葉を紡げば、後ろから大歓声が上がった。そりゃそうよね。男所帯の遠征中に、星獣様とは言えこれほどの美女が目の前に現れて自分たちを労ってくれたのだもの。


 特にヤンさんのはしゃぎっぷりは凄まじく、雄叫びをあげながら両手を高々と空に掲げていた。すぐにアランさんから頭をひっぱたかれていたけれど。


「星獣ガルラよ。まさか貴方と言葉を交わす日が来ようとは。改めて、私は第三騎士団団長ジークフリード――」

「よいよい。おぬしの事はよおく知っておるよ、ジークちゃん。全く、見た目が変わっても妾は妾じゃ。面倒な前置きはいらぬ。本題に移るぞ」


 「相も変わらず真面目な男じゃのう」ガルラ様は笑って、ぺちんとジークフリードさんの額を人差し指で弾いた。まるで子供を相手にするような仕草である。星獣の寿命は人間のそれよりも遥かに長い。彼女にとっては、例えジークフリードさんであっても子供のようなものなのかもしれない。


 ――それはそうと。驚いて目を瞑った後、困ったように眉を寄せるジークフリードさんの表情は垂涎ものなので、こっそりと網膜に焼き付けておく事にした。


「結界については問題なく作動しておる。ジークちゃん、おぬしの危惧している点はなんじゃ?」

「では少し長くなるが、ご静聴を。――マーナガルムの森で、結界で阻まれているはずの魔物が結界外で見つかった。結界の方は問題なく作動していると確認済み。我が国では、突然変異体として星獣の結界を逃れる魔物が現れたのではないか、との見方が多数を占めている。また今回、同じ星獣である貴方の領域内でも同じことが起こるのではないか、と調査しに参った次第だ」

「ほう、なるほどなぁ。あい、分かった。安心しろジークちゃん。答えは逆じゃ」

「逆?」


 「ああ」くるくると、黄金色の髪を指先で弄びながらガルラは頷いた。


「魔物が強くなっているのではない。逆なのじゃ。奴らは弱くなっている。故に常時ならば結界内に留まるべき上の下レベルの魔物が、結界外に出てしまったのじゃろうな」


 ガルラが張る結界は、ある程度強力な魔物のみを外に出さぬよう閉じ込めるもの。しかし、魔物たちが総じて少しずつ弱くなった事により、ギリギリ結界の適応範囲内であった下位の魔物たちが零れ落ちて外に出てしまった。――と。つまりはそういう事か。


「ここに来るまで、いつもより熱いと感じなかったか? あれは結界の強度を増したからじゃ。多少弱くなったとはいえ、いきなりあれらを解き放つわけにはいかないのでな。ゆるりと元には戻していくつもりじゃから、そう伝えよ」

「熱いと思ったが、なるほどな……。分かった。心得た。ところで、魔物が弱体化した理由に心当たりは?」

「ふふん、個体としてのおぬしらは好いておるが、こと人間においては魔族よりも非情であるからな。妾からは言えぬ。知りたければ己で解明して見せよ」


 私がこの世界に連れてこられた日、いつもより魔物が活発化しているとジークフリードさんから聞いた。

 ガルラ様の話が正しいのなら、魔物が弱まっているせいで結界外に抜ける魔物の量が増えて相対的に活発化しているように見えた、と考える事も出来る。


 ううむ。難しい。

 私が頭をフル回転して魔物について考えていると、ガルラ様が私の腕に抱きついてきた。「リンゾウ、行くぞ」と私が男なら即落ちているだろう、蕩けるような笑み付きで。


 おかげで考えていた事なんて紙ふぶきのようにぱらぱらと散ってしまった。まぁ、専門家からすればお粗末な内容だっただろうから、別に良いけどね。


「さぁ、さっさと洞窟の魔物を駆逐しに参ろうぞ! 安心せい。此度は妾も付き添う。最近は調子が良くてな。昔ほどとはいかんが、妾の能力も回復しておるのじゃ!」

「あ、あの、僕は休憩してろって団長に……」

「駄目じゃ! おぬしは妾の活躍をしっかりと見なければならぬのじゃ! もう一度言うぞ。おぬしは、妾の素晴らしい活躍を! しっかりとその目に焼き付けねばならぬのじゃ!」


 マル君に報告するためですね。はい。


 「団長、僕も付き添いますね」諦めたようにジークフリードさんに告げれば、「すまない。この遠征の詫び――いや、礼は必ず君に返そう。待っていてほしい」とガルラ様に掴まっている腕とは別の方の手を取られ、ぎゅっと握られる。


 右手に美女。左手に美男――又の名を推し――ってこれ、贅沢すぎる状況ではないでしょうか。あれか。両手に華って正にこの事ですか。


「こらこら、ジークちゃん。今、リンゾウは妾の相手をしておるのじゃぞ。横取りはいかんな」

「何を言っているのか、ガルラよ。現在リンゾウ君は我が団の団員。私の庇護下にある。許可なく触れて良いとお思いで?」

「ほう。まさかジークちゃんと争う羽目になるとはのう? そうじゃ。ただ魔物を駆逐するだけでは面白くないと思うておったところじゃ。どちらが多く魔物を退治できたか、勝負といこうではないか。のう? ジークちゃん」

「ああ、それは面白そうだ。ただし、最後くらいは格好つけたいので、手加減はしないが……よろしいか?」

「ふふふ。誰にものを言うておる」

「ははは。いつものガルラならすぐ疲れてしまうだろう?」


 遠目から見たら爽やかに笑い合っている場面に見えるかもしれないが、何故か中心にいる鎧人間からすると、バチバチと火花が散っているのがよく分かるので全く癒されない。

 せっかく美形に挟まれていると言うのに。もう、何でこんな事になっているの。両腕が塞がれているくらいでは何とも思わないので、喧嘩はやめてください。


 冗談めかして「私の為に争わないで―……なんちゃって」とか言ってみようかと思ったが、美形たちからの圧が凄くて言葉が紡げなかった。


「では、リンゾウは後ろで見ているが良い! ただし、妾から目を離すでないぞ!」

「それはずる――ンンッ、それはリンゾウ君が決めるものだ。リンゾウ君、魔物に気を付ける以外は好きにして良いぞ!」


 我先にと洞窟に飛び込んでいく二人。続いて私と団員さんたちも洞窟内に入る。


 強力な魔物を封じ込めていると言う洞窟だったはずなのだが――ガルラの魔法が炸裂し魔物を焼き払ったかと思えば、ジークフリードさんの剣が縦横無尽に飛び回り残りの魔物を片っ端から串刺しにしていく光景は、圧巻としか言いようがなかった。

 結果、最後の難関だと気合を入れた団員たちの決意もむなしく、二人の活躍により、とんでもない速さで洞窟内の魔物は駆逐されたのだった。


 ちなみに、討伐数は僅差でジークフリードさんが勝ったらしい。大雑把に焼き払おうとするガルラに対し、確実に息の根を止めていくスタイルのジークフリードさんが、彼女の取りこぼしすらもサクッと片づけていったためだろう。



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