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45、星獣ガルラ 前編



 本日の予定。

 まず、火口付近で静かに佇んでいるガルラに挨拶し、その奥に存在する洞窟の結界を一時的に解いてもらう。

 洞窟には強力な魔物が多く、普段はガルラによって外に出られぬよう封じられているらしい。だが、数が増えればガルラの負担が増す。なので、たびたび第三騎士団が魔物の数を減らしに遠征しているそうだ。


 一度数を減らしても魔物は再び増えてくる。

 きっと何か魔物を生み出す仕組みが隠されていると思われるが、幾度となく遠征を繰り返してもその仕掛けを見つける事が出来ないでいる――と、火口到着前にジークフリードさんから教わった。


「君のおかげで普段とそう変わらない状態で挑むことができそうだ。ありがとう。後の魔物討伐は俺たち騎士団に任せて、休んでいてくれ。ガルラの傍なら安心だ」

「分かりました。皆さんの帰りを待っていれば良いんですね? 了解です。助かります」


 正直、他の団員さんたちと違ってドリンクの加護があるとはいえ、リンゾウの中身はしがない食堂の料理番である。疲れは確実に溜まっていた。

 彼の申し出は願ってもない話。断る理由なんてない。


 ドリンクで加護を付与した皆はヤル気満々のようで、私が出る幕もないだろう。だから後は見守るだけ。

 そう、思っていたのだけれど。


「だ、団長ッ、自分たち何かしてしまったんでしょうか!?」

「大丈夫だ。落ち着け。取り敢えず皆、俺の後ろに……!」


 まるで意思を持った荒れ狂う竜巻。

 目も開けられないほどの暴風に、団員の皆は言うとおりジークフリードさんの後ろに下がった。私も例外ではなく、彼の後ろに隠れながら元凶を仰ぎ見る。


 ――星獣ガルラ。


 中央から羽の先端に向けて、赤から青へのグラデーションが美しい巨大な鳥だ。鶴のように長い首をすらりと伸ばし、遥か上空から私たちを見下ろしている。頭部からは金色のふわりと柔らかそうな冠羽(かんう)が揺れていた。一種の神々しささえ感じさせる。とても雄大で見惚れるほどに綺麗だ。


 普段は大人しく火口入り口に佇んでいるというガルラ。しかし今回は何故か、大きく羽ばたきながら私たちの行く手を阻んでいた。ぶわりと吹いたひときわ大きな風に、私は思わず目をつむる。鎧を着ていても辛いものは辛いのだ。


「ガルラ、落ち着け! 何が――くっ」


  ジークフリードさんの声も暴風のせいで届かない。


 一体なんだというのか。

 言われた通り水魔法の適正がある人間は連れてきていないというのに、この暴れよう。

 普段と違うところがあるとすれば私の存在だけだ。もしかすると、気付かないうちに何か気に触ることをしてしまったのだろうか。


 ――考える。考えるけれど、思い当たる節などあるわけがない。星獣の思考なんて分かりっこないもの。困った。

 ガルラから殺意も敵意も感じられないのが唯一の救いだ。


「――く、わわっ」


 私は飛ばされないよう膝を地面ついて踏ん張る。今だけ鎧の重量を戻してほしいくらいだ。「大丈夫か?」と気遣わしげな視線と共に、ジークフリードさんの腕が伸びてきて私の肩を抱いた。


「――ッ、あ、りがとうございます」


 大丈夫。分かっている。

 例え力強く胸板に押し付けられたとしても、私が飛ばされないよう支えてくれているだけ。勘違いはしない。だから静まれ心臓。空気を読まずバクバクと高鳴る心臓を鎧の上から押さえる。


 マーナガルムの森では恐怖が勝っていてそれどころではなかったけれど、今回は幾分か心に余裕があるので、つい意識してしまう。ああもう、ドキドキするな自分。


 落ち着きを取り戻そうと深呼吸をする。そんな時、ふと声が聞こえた。

 キィキィという甲高い鳴き声に紛れて聞き取りにくいが、妙に艶のある女性の声だ。騎士団には私を除いて女性はいないはず。どういう事だろう。耳を澄まして声の出所を探る。


『良い! 炎の加護持ちで固めてくるとは、実に良い演出だ! 憎いのぅジークちゃん! 妾は嬉しいぞ!』

「はい?」


 今のは一体。

 方向や内容からしてガルラのような気もするけど――こんな軽いノリなのかしら。この神々しさすら覚える星獣様が。

 どう考えても嬉しくてはしゃいでいるようにしか聞こえないわ。というかジークちゃんって何。ちゃんって。ちょっと距離感近くないですか。


「こちらの声が聞こえていないのではらちが明かん。悪いが、強硬手段に出させてもらう――剣よ!」


 ジークフリードさんが手を空に向かって掲げると、炎の剣が出現し腕の動きに連動して空に登っていく。それらは空中で一本の巨大な剣へと姿を変え、垂直に墜ちてきた。

 あろうことか、ガルラの目と鼻の先に。


『ジ、ジークちゃん……?』

「ガルラ、少し落ち着け。危ないだろう?」


 言い聞かせるよう一文字一文字丁寧に、しかしながら底冷えのする低い声でガルラに語りかける。危ないのはジークフリードさんの剣もでは――とは、とても言い出せぬ雰囲気だ。


 ハロルドさんが「あの兄弟は怒らせると本当怖いよ。どっちも」と遠い目をしていたのを思い出す。その片鱗を見た気がした。

 彼の場合、怒るというより叱るに近い気もするけれど。


 自分が今までどれだけ甘い対応をしてもらっていたのか、ほとほと実感した。同時に、本気のお叱りモードだけは絶対に回避しようと強く心に誓った。うん。



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