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28、魔力チェック



「というわけで、はい。リンもどうぞ」


 ふわりと降ってきた聖樹の葉を掴み私と梓さんに手渡す。瑞々しい鮮やかな緑は、うっすらと金色の光を纏っていた。


「え、私もですか?」

「使えるかどうかは分からないけど、一人でデリバリーまでこなせると楽になるしね」

「ハロルドさんがですよね、それ」

「ふふ、じゃあ説明はじめるね」


 話題を逸らしたな。でも確かに、使えるのなら便利になるし、なにより子供心に憧れていた魔法だ。少しワクワクしてしまうのも仕方ないだろう。


 ハロルドさんは聖樹の葉をくるくると指先で回しながら説明を始めた。


 この木は聖樹と名付けられているだけあって、木全体に微弱ながら魔力が通っているらしい。地脈から吸い上げているのか、それとも他のどこからか魔力を吸い取っているのか。原理は分かっていないが、こういった特殊な木が世界には何本か存在し、聖樹と呼ばれているそうだ。


「それじゃあ本題だね。本体から離れてすぐなら、この葉にも魔力が通っている。これに力を込める……というか、ぶつける? 感じかな。魔力を通すのは精密なコントロールが必要だけど、これは全て葉が処理してくれるんだ」


 「ごちそうさまでした」涼やかな声と同時にライフォードさんがバスケットに布を掛ける。

 私たちがハロルドさんの解説を受けている間に、この人はサンドウィッチを全て平らげてしまったのか。すまし顔でなんて食欲なの。


「私がお手本を見せましょう。ハロルドは属性が多すぎて見ても参考になりませんしね」

「まぁね。天才とはそう言うものだからね! ……あっ」


 ライフォードさんは、ハロルドさんの持っている葉をひょいと取り上げて力を注ぐ。すると表面に朝露のような雫が付き始め、しかる後に全てが凍りついた。まるで精細な氷彫刻だ。

 葉の中心を掴むと、パリパリと繊細な音を立てて崩れ落ちた。


「この世界は基本、火、水、風、土の四種の魔力が存在します。私は水を扱えるので葉が濡れ、その後凍りつきました。これは水魔法の上級も修めているがゆえです。普通は葉が濡れるのみですね」

「へぇ、火なら燃えるとか?」

「そうです。風なら舞い上がり、土なら腐り落ちる。聖魔法はこの方法でははかれませんので、安心してぶつけてください」


 「分かった。まずあたしがやってみるわね」梓さんはライフォードさんが見せた通り、葉に力を注ぎ込む。

 すぐに効果は表れ、彼女が掴んでいる周辺から葉の色が茶色く変色し始めた。土魔法の適性があると腐り落ちる。その通り、葉はやがて端の方からボロボロと崩れ、地面に落ちて土に混ざった。


「土属性? で良いのかしら」

「おめでとうございます、聖女様! ええ、ハロルドもたまには良い事をしますね。まさか通常の魔法にまで適性があるとは。明日からはそちらも訓練に取り込みましょう。確か、アデル・マグドネルが土のエキスパートでしたか。彼に頼んでおきます」

「アデルって、現第二騎士団長のアデル君? 良いわね。あの子なら話しやすいし」


 梓さんとライフォードさんは今後の訓練について話し始めた。凄いな、梓さんは。聖女としての能力だけでなく、魔法までも使える素質があるなんて。


「よ、よし。私も」


 もしかすると私が巻き込まれて召喚されたのは魔法の適正があったから、かもしれない。聖女の力が分散されて二人に授けられた。その二人を助けるため呼ばれたのならば、納得ができる。

 少しの期待を胸に私は葉に力を込めた。


 全身から力を集め、指先にぶつける感じ――で、合ってるのよね?


「ふんっ! ……あれ? えいっ! とう!」


 おかしい。いくら掛け声を変えたところで、私の持つ葉はなんの変化も起きなかった。いつまで経っても瑞々しい緑のまま。そして時間が経過し、葉が纏っていた黄金のオーラも薄れて消えた。


「魔法を使える人間はそう多くありません。肩を落とす必要はありませんよ、リン」

「……はい。そうですよね、人生そんな甘くないですよね……」


 魔法が使えない魔女って。笑い話だわ。


 こうなってくると本当に何で私が巻き込まれて召喚されてしまったのか、分からなくなってくる。強力な能力なんて必要ないから、せめて自分の身を守れる程度は欲しかった。

 必要とされなくても良い。私は私のために生きる――なんて啖呵を切ったけれど、やっぱり、少しだけ梓さんが羨ましい。


「リン」


 優しげな声が落ちてきて、ひときわ輝く聖樹の葉を手渡される。


「可能性はかなり低いけど、こっちも試してみる?」

「ハロルドさん、これは?」

「ちょっと特別な葉だよ。普通のものより魔力が潤沢に行渡っていて、特殊な魔力も感知できるんだ。聖魔法以外だけどね」

「特別な魔力?」

「例えば転移魔法。あれはどの属性にも属さないでしょ? ああいうのは特殊な魔力を持っていないと使えない。もっとも、特殊なだけあって使える人間はとても希少だけどね」


 「特殊な魔力を持っている可能性が……?」私が問うと「最初に言ったけど、可能性は低いよ」と念を押された。


「四大属性のどれかを持ちつつ、特殊な魔力も持つ人間が殆どだ。特殊な魔力だけを持つ人間は、いないと言っても過言ではない。……まぁ、僕は大体何でも使えるけどね! さすが僕、天才!」

「……ハロルドさん、ちょっと頬摘まませてください」

「良いよ。それで君の気が晴れるなら」


 ハロルドさんは私によく「ずるい」と言うけれど、ずるいのは彼の方だと思う。いつもは意地悪なくせに、こういう時だけ優しくなるの、本当にずるい。


「もう、ありがとうございます。こうなったらずぅーっとハロルドさんを頼りますから!  覚悟しててくださいね! おんぶにだっこですよ!」

「光栄だね。いくらでもどうぞ」


 少しセンチメンタルになってしまったけれど、もう大丈夫だ。

 私はこれまで通り、レストランテ・ハロルドの料理番として頑張っていけば良いんだもの。困ったら遠慮なくハロルドさんを頼ろう。


 気負いはなくなった。私は先程よりも軽い気持ちで葉に力を注ぎ込む。やはりと言うべきか。特に変化はしなかった。


「やっぱり、ダメですよね」

「いや、ちょっと待って。この葉のオーラ、なんか変じゃ――リン! 手を離して! 早く!」

「え? 離すって……」


 いつもとは違うハロルドさんの剣幕に押され、私は反射的に葉から手を離した。瞬間、パリパリと、葉の周囲に火花が散ったかと思うと、纏った黄金のオーラが膨張し出す。オーラ? いいえ、違う。これは――。


「電気?」


 突如一閃。


 遥か遠く。雲の中から一直線に墜ちてきた雷。それは私が直前まで持っていた葉に直撃し、黒焦げにした。待って。ハロルドさんの判断が一瞬でも遅れていたら、これ、感電死してたんじゃないの……?


「あの、ハロルドさん……これは一体……?」

「はは……なんだこれ……本当に君は、驚かせてくれるなぁ……」


 ハロルドさんは唇をひきつらせながら、地面に転がる黒焦げの葉を見た。相当な威力だったのか、地面までも少し抉れている。

 ざわめき一つ起こらない。ただ周囲の視線は、呆然と私一人に注がれていた。



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