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25、白の聖女



「よしっと。歯ごたえないわねぇ」

「グッド。お疲れ様です、聖女。まさかあの魔物すらお一人で倒してしまわれるとは。私の出る幕などありませんでしたね」


 森の奥からライフォードさんと部下の騎士団員さんたちが姿を現す。納得だ。護衛もつけずに、単身聖女様が森で魔物狩りなんてするわけない。ええ、聖女パンチは凄かったけれど、それはそれだものね。

 私たちは渋るハロルドさんを引っ張って、彼らの前にでる。


「ジークフリード。リンの護衛をと言っていたが、ここだったのか」

「ああ、素材採取を……ちょっとな……。う、腹が痛い」


 私が変な植物を食べて凄い状態になったこと十数回。そのすべてが一瞬のうちに記憶として駆け巡ったのか、ジークフリードさんは胃の辺りを押さえた。


 ライフォードさんは「だ、大丈夫か? 何があった?」と、彼の背をさする。しかし、普段なら跳ね除けられるところを、無条件で受け入れているジークフリードさんに更に困惑が増した様子だった。

 あんなに狼狽えるライフォードさんは初めて見た。罪悪感が凄いわ。面白そうな食材は何種類かゲットできたので、これからはもう少し吟味して口に入れる事にしよう。


「リンさん! やだリンさんじゃない! こんな所で会えるなんて!」

「わわわ、梓さん! 凄かったですね!」


 ライフォードさんの横を抜けて駆け寄ってくる梓さん。

 正面からぎゅっと抱きつかれ、少しだけ身構える。聖女パンチを見た後だったので、凄い力で抱きしめられるものと思っていた。しかし、予想に反して梓さんの力は普通の女性並みだった。


「あれ、普通ですね」

「あらやだ見てたの? 大丈夫よ。あれは聖女のパワーってか、聖魔法? ってのを体に纏わせて身体強化を行っているの。聖女パンチはそれを手だけに集めたって原理。そりゃあれくらい威力出てくれないとね!」


 「全部リンさんのおかげよ」梓さんはふんわり微笑んだ。なぜいきなり私が出てきたのか。尋ねると、どうやら『特製ドリンク』を毎日摂取できるおかげで、肌を気にせず外での訓練に身が入るらしい。デリバリーで毎日送っている甲斐があったわ。

 ハロルドさんは「そんな、僕が一役買っていたなんて……」と頭を抱えているけれど、気にしない事にしよう。


「でも聖女って言うからもっとこう、祈ったりするんじゃないんですね」

「ああ、それね。あたし的には戦いやすくて良いのだけど……」

「相変わらず物騒なのね、黒の聖女様は。最初ゴリラが戦っているのかと思っちゃいました」


 突如響いた声。鈴が転がるような愛らしさと、吹けば飛んでしまいそうな可憐さが同居している、なんとも保護欲をそそられる声だ。


 振り向くと、ふんわりとした茶髪にとろんと垂れた瞳が印象的な美少女が、大勢の人々を引き連れて立っていた。

 質の良い生地に、美しい細工が施された白いドレスを着用している。森に似つかわしくない格好だが、その清純さは一目で聖女だと分かる姿だった。


 黒の聖女と白の聖女。修道女に似た格好の梓さんと目の前の少女を見比べると、確かに言い得て妙だな、と思う。


「な、何であんたがここにいんのよ!? ってかゴリラって殴るわよ」

「やっぱり野蛮! 怖い人! それに私だって聖女です。そろそろ実践訓練を、って言われたでしょう? ……あれ? あなた、どこかで見たような?」


 くるりと丸まった大きな瞳に見つめられる。


「私は……」

「うーん、思い出せないや。ごめんなさい。その程度だったのね、きっと」


 「はぁ?」と濁った太い声が出そうになったが、既の所で飲み込む。

 落ち着け私。彼女と私は最初に城で出会ったきりなのだから。覚えて無くとも何ら不思議はないじゃない。少し癇に障る言い方だったけれど、子供なのだから私が大人にならないと。ええ。うん。


 青筋を隠しながら微笑むと、いきなり手を掴まれ後ろに隠される。ジークフリードさんだ。


「下がっていた方が良い」


 有無を言わせぬ声に、私は自然と頷いていた。何だろう。――するとその時、聖女の隣に進み出る人がいた。


「聖女よ、戯れはその辺に」

「うーん、仕方ないなぁ。分かりました」


 忘れていた。


 彼女がいるのだから、この人がいるに決まっているじゃない。私は瞬発的に更に後ろへと下がる。

 第一王子ダリウス・ランバルト。彼は私などには目もくれず、白の聖女の傍らに立ち、ライフォードさんジークフリードさんを含める周囲の騎士団を見回した。


 透明度の高い銀髪が、パープル色の瞳にかかる。


「騎士団長が揃いも揃って仲良く談笑とはな。先程の魔物は入り口付近にいるレベルの敵ではない。星獣の結界から漏れ出した可能性がある。速やかに調査し、国へ知らせるべきだろう」


「失礼ですが、王子。本日は聖女の護衛を目的で隊を組んでおります。森の奥を調査となればそれ相応の準備と書類の提出が必要となってくるでしょう。ましてや、実践訓練を積み始めた聖女を連れて行く場所ではありません」


 ライフォードさんが歩み出る。


「ふん。お前の所の聖女なら問題あるまい。対してこちらの聖女はまだか弱い。あのような魔物が出ると分かった以上、長居は出来ん。それで良いな? 聖女」

「はい。もちろんですよ、ダリウス。ただ――」


 白の聖女様はジークフリードさんの目の前まで歩み寄り、服の端を握りしめた。


「ジークフリード様も一緒に来てください。良いですよね?」


 断られるわけがない。そんな自信に満ちたりた微笑みを湛えて彼女は宣言する。私は今度こそ「はぁ?」と腹の奥底から声を出した。



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