3話
「とりあえず松明たのむ。」
「おけ」
松明をつけて明るくする。いくら夜目とあっても、色がついた方がいい。というか、人間として夜目の感覚が慣れていなく、なんともいえない居心地の悪さを味わっていたのだ。
「そういえば、宝物庫から出るとき気がついたんだが、ここ出口なくないか?」
「む、そういえば」
松明で壁を照らす。物の見事に全面壁面であった。尚、天井も然り。
「「「。。。。」」」
「まぁなんとかなるっしょ!」
楽天的な琢磨であった。
「とりま、俺も魔法とか使ってみたいんだけど。」
「む?確かに。魔道具は確認したが、魔法は確認してないな。ならば俺も“戦技”を確認するとしよう。」
「じゃあ15秒後揃えてブッパよろ。俺らシールド張ってっから。」
さっきのアイテムボックスで魔力の感覚を掴んだ輝御は琢磨たちと少し離れ、狙いとしている壁の反対の壁に背をつけた。隣には隆輝もいる。
「“ダークメガパワーシールド“」
呟きと同時に、2人の周囲を闇が薄く覆った。
闇系上級防護魔法“ダークメガパワーシールド”
エミリア・オンラインにおいて、魔法の名前は安直の一言だ。
防御技の”メガパワーシールド”に、闇系対して効果上昇をつけるための”ダーク”を付けただけの魔法名。プレイ当初は、プレイヤー全員が呆れたほどである。しかし、上級防護だというだけあり、かなりの防御力を誇る。このような安直な名前の魔法が他にも多々ある。というより、安直な名前の魔法しかない。因みに無詠唱である。
「じゃ、行きますか!我が名において命ず、闇よ、敵を穿つ力となれ。“ダークランス”!」
「はぁぁぁぁあ!“竜斬り“!」
濃紺の闇で出来た槍と、凄絶な剣撃が飛んでいく。そしてすぐに壁に着弾した。
この時キオは、
(琢磨無詠唱できるっしょ。まぁ詠唱カッコイイから言いたい気持ちわかるけどね。)
とか考えていた。
ズドゴおおおおおおおお!
「うぎゃっ」
「うわっ」
そして、風圧に飲み込まれる技後硬直中の2人。後ろの防御内の2人は全く影響がない。
「げっほごほ。砂がぁ口の中に、、」
「ゔぅぁあ。まさか石が風に乗ってくるとは。」
2人は、砂が喉に入ったようで、咳き込んでいる。
「お前ら。自分の宝物庫開いて水でも取ってこい。」
「「お、おう」」
隆輝ではなく、輝御に言われて、なんとも言えぬ顔をした2人だったが、
「ん?あれ、壁の奥、なんかいない?」
「ガルゥルル」
「うなり声が聞こえるな。」
「舞っている砂が邪魔だ。見え辛い。」
「グラァ!」
「お?うわっ!」
そこにいたのは、狼みたいな獣であった。しかし、目は赤く光り、背中から紫色の石が突き出ていた。
その獣は、目の前にいた堅治ではなく、琢磨に襲いかかっていた。
「いてててて、ちょ、助け、犬にも噛まれたことないのに!」
「、、、、意外と平気そうだな。」
「いやいや、意外と痛いからね?なんか牙ものすっごいし、顎の力も結構やばいから!」
「ガルゥゥルルガルゥゥルル」
狼は、琢磨に噛み付いたまま唸っている。なかなか噛みちぎれなくてイライラしているらしい。
そこに、防御魔法を解いた輝御と隆輝が来た。
「こいつ魔物か?十中八九魔物だよな。なら“テイム“したらどうだ?異世界初魔物だし。」
“テイム“
調教師のスキルだ。レベルに応じて、動物をペットに出来る能力。しかし、レベル上限に達すると、隠しスキルである、“魔物調教”が付与され、野生の魔物まで調教出来るようになる。尚、4人はこのスキルを得るため、実装当初パワーレベリングで、半日で全員がレベルマになっていた。そして、ある地域の魔物を狩り尽くした(テイムし尽くした)ことでちょっとした有名人だった事がある。
「や、やってみる。“テイム”」
直後、狼は噛み付くのをやめ、頭を垂れた。
「クゥンクゥン」
そして琢磨に甘えた。
「「「「か、可愛い」」」」
猫派な輝御と堅治もやられた。実は、シェアハウス時に、何か飼おうと言っていたのだが、これ以上生活当番を増やしたくないとの理由で、断念していたのだ。
「そういえば、あいつらはどうなんだろ。」
「あいつら?」
「俺らがゲームの時に飼ってた奴ら。」
「「「!」」」
隆輝ではなく、輝御が気付いた。ちなみに、琢磨は狼をしきりに撫でていた。
琢磨以外の3人は、無言で宝物庫を開ける。ちなみに、琢磨は撫でながら、狼が入ってきた穴から外に出ていた。
3人が宝物庫から取り出したのは、魔封室。テイムしたペットを魔力で封印する手のひらサイズの小屋だ。尚、これも品質によって容量が変わる。一応言っておくが、4人とも最高品質である。
「ふっふっふ。出でよ、我が眷属、スケルトンジェネラル!」
「楽しみだなぁ。来い、俺のクロちゃん!」
「ワイバーン」
「「いや、ワイバーンはやめとけ狭いから!」」
「ぬ、じゃあハーピー」
輝御の小屋からは、豪華な武具と防具を装備した骸骨戦士が。
堅治の小屋からは、蒼く光る目の、体長2メートルの黒豹が。
そして、隆輝の小屋からは、一瞬緑の目をした竜が顔を出したが、すぐに引っ込み、代わりに160くらいの身長の、豪華な羽と、鋭い爪を携えた女の子が出てきた。
名前が安直なのはツッコミは無しだ。前、あるプレイヤーが運営に文句を言ったところ、キャラBANされた。それ以降、ネーミングについては何も言わないのが暗黙のルールとなったのである。
「オハツニオメニカカル。ワガアルジヨ。」
「ゥゴロゴロ。」
「主人様の前に参上いたしました。何卒御命令下さい。」
因みに、テイムした魔物とは意思疎通が出来たりする。ゲームではNPCで味気なかったが、、、
「「「異世界最高!」」」
ひとしきり、眺め、愛で、楽しんだ後、3人はふと気付いた。
「「「琢磨どこ行った?」」」
その頃琢磨は、
「「「「「「「クゥンクゥン」」」」」」」
先ほどの狼の群れを根こそぎテイムしていた。
「猫も嫌いじゃないけど犬も嫌いじゃないんだよね〜。」
「あ、いた!」
「あいつ、あんなに獣好きだったか?」
「異世界で目覚めたんでしょ。」
「で、吹き飛ばした壁から、廊下に繋がっていて、そこから辿った広場的な所に来たわけだが。」
「説明ご苦労」
「どうする?」
そう、あの六畳から先の一撃(実際は二撃)で空いた穴は洞穴内の通路に繋がっていて、そこから琢磨の匂いを、堅治のペットの“クロちゃん”が追った結果、広場、というより、広めの空間にたどり着いた。
「この子たちによると、この先がダンジョンの最奥らしいぞ。」
「この子たち?ああ、狼か。というよりここダンジョンだったんだな。」
琢磨が知ったことを話したことにより、ここがダンジョンだと知った3人。
そして、ダンジョンだと聞くと、このパーティは黙っては居られない。
「攻略だな。」
「「「だな。」」」
「ギョイニ。」「御意」
後ろの一体、一人、一匹も賛成のようだ。
そして、琢磨が魔封室に狼たちを入れるまで待ち、それから最奥へと向かった。
「あそこが最奥。いかにもって感じだな。」
「確かに。いやぁしかし胸が高鳴るな!」
「リアルハントとは、楽しみだなぁ」
「(ニヤッ)」
宝物庫の扉ほどではないが、厳かな雰囲気を醸し出す扉が一行の前に見えて来た
その前には、円形の足場がある。円形の外は断崖絶壁。いかにも、闘技場という作りである。
通路を出て、4人は円形の足場に踏み入れる。
そのタイミングで、魔法陣が光り始めた。
「おらワクワクすっぞ。」
「そのセリフやめぃ」
出て来たのは、体長4メートルくらいのオーガだった。手には鋼の棍棒。体には血濡れの防具を纏っている。
「まずは、、、“鑑定”!」
“鑑定”
商人の隠しスキル。フレーバーテキストある“アイテム”以外でも説明書きが現れるスキル。
罠や敵モンスターにも使える万能スキルのため、4人全員が所持している。
“全て”に説明文を与えるこのスキルが判明した当初、「運営頑張ったな」の文字が掲示板に多発した。
“奈落の洞穴 ダンジョン主“ジェネラルオーガ
重戦士(呪い付き)
Lv70
HP4700 MP980
筋力2100(+900)
敏捷700
体力1200
知力27
魔力456(+900)
魔耐1170(+400)
運26
オーガの上位種。
オーガ→オーガリーダー→オーガジェネラル
因みに、商人のレベルをMAXにすると、鑑定スキルも進化してステータスも現れるようになる。調教師、召喚士ガチ勢が従魔とする魔物の個体値を調べる時に多用された。
グオオオオオオオオオオオォォオ!!!
叫び声がこだまする。
「うるさっ!」
オオオオオオオ、オ、、、、、、、
叫び声が途切れた。そして
ズルり。
オーガの頭が横にズレ、そのまま下に落ちた。
「「「え?」」」
ズドォン
オーガが倒れた。
倒れた先にいたのは、隆輝だった。
「敵を前にして叫ぶとは。こいつバカだな。」
「「「か、カッケェぇぇ」」」
暗殺者、ここに極まれり。