27話
鬱蒼と生い茂る森の中、ここは、野宿のために貼ったテントから少し離れた場所。
ナイフを投げた相手を追いかけると、待ち伏せのように現れた冒険者っぽい格好をした奴らがここにいた。格好は冒険者なのだが、雰囲気が違う。隠しきれない殺意が、彼らが敵だと教えてくれる。
なにかに驚くキオを置いてここにきたゴリアテとユックリーンは、この冒険者風の敵と交戦していた。
敵、襲撃者は4人ほど。様子を見ながら少し見合い、斬り合ったが、彼らは少々素早く、戦闘慣れをしていて、動きに無駄がなく、隙が少ない。
だが、彼らに対するこの二人は、怪物。いくら腕が立つと言えども、彼らには遠く及ばない。
「どっっっっっせい!!!」
襲撃者の一人を狙ったゴリアテの一撃。ゴリアテは半分くらいしか力をいれてなく、わざと(・・・)手加減し、襲撃者が避けられるように(・・・・・・・・)仕向けた攻撃。
その一撃で地面は陥没し、衝撃が辺りを撼わす。
化け物じみた一撃は衝撃的で、つい襲撃者はゴリアテに意識を集中させてしまった。
「やっぱり、ザコ。」
バカみたいな一撃を感じてしまったなら、そちらを見てしまうのは仕方がない。ただ、もう一人いることを、忘れてはならない。
ババババッ!
襲撃者の意識がなくなった瞬間に、ユックリーンは身体能力のみで4人を一瞬にして昏倒させる。
「この程度か。つまらない。」
「お前さんが昨日の夜に言っていたのはこいつらだろう?ふぅむ、また確かに弱かったが、この世界ではこれくらいが普通なのではないか?」
「それにしても弱い。」
「だがこの世界、いやこのステータスについてこれる者などそうそういないだろうに。我々が本気を出せばこいつらを即殺してしまうだろう。それでは情報が得られぬではないか。」
「むぅ。」
襲撃者を一瞬で無力化した二人はその場で少し話していたが、そこへ、切羽詰まった声が聞こえる。木の間から出てきたのはキオだ。その顔は真っ青で、焦りに焦っている。
「お前ら!魔法が使えん!」
それはキオの、何時もではあまり聞かない情けない声だった。
「そんな声出してどうしたキオよ。お主らしくない。」
「情けない。ダサい。」
「だって、このファンタジーで素晴らしい世界で!魔法が突然使えなくなっちゃったんだぞ!焦るだろ!!!」
必死なキオの様子に、二人は憐れみすら浮かんで来る。
そんなにも魔法が大事か…
「…ん?魔法が使えない?となると、、、、、」
「どうしたゴリラ。」
「やばいぞ、ハスミンがやばい。あいつ魔法使えないとなるとクソザコナメクジだ!」
「「!!」」
3人はすぐにもとの場所に戻ろうとする。しかし、
「ここを通すわけにゃあいかねぇなぁ〜」
ヘラヘラ笑う蛇のような男が3人の前に現れる。その後ろから5人ほど、これまた冒険者風の殺気ダダ漏れマンが現れる。一人が弓、二人短剣、残り二人が剣だ。蛇男はククリナイフを大きくしたような剣を持っている。
「確かにおめえらはつええかもしんねぇけどヨォ〜この数じゃあ足止めるしかねぇだろ。」
ヘラヘラヘラヘラ、煽り口調でわかったような口を利く蛇男。対する3人は俯きつつ無言。その様子を見てにやけが加速する蛇男。
「お仲間さんが殺されるまで遊ぼうぜぇ。ま、死んじまうかもしんねぇけどなぁ!」
見た目通り、蛇のような動きで手前にいたキオに襲いかかる。
後ろの五人もそれに合わせて動く。彼らは連携し、ゴリアテとユックリーン目掛けて襲いかかった。
それに3人は、、、、
「「「図に乗るな、三下ァ!」」」
顔を憤怒に震わせ、慣れてない手加減という不完全なリミッターを完全に外した。
襲撃者、彼らに訪れる数秒先の未来が、確定した瞬間である。
キオは蛇男の動きに合わせ、気力なく垂らしていた腕を振り上げ、右ストレート!
蛇男の頭が爆ぜる。頭の無くなった身体は、倒れ込んでくるが、それもまたキオの回し蹴りによって、爆散しただの肉塊へと至った。
剣を持った襲撃者C、Dは獲物を振りかぶり、ゴリアテに襲いかかる。
しかしゴリアテは、手に持った剣を横に一閃!
その動きの速さは残像が残るほど。襲撃者C、Dは腰のあたりからズルりと真っ二つに裂ける。
短剣持ちの襲撃者A、Bが両側からユックリーンを挟み襲いかかる。後ろから襲撃者Eが弓を構えている。
ユックリーンは隠していたクナイを投げつけた!その後、短剣が迫るギリギリのところで一歩下がり敵のリーチを狂わせる。
クナイは襲撃者Eの眉間に深々と刺さった!クナイってここまで刺さるの?ってくらいの深々とした一撃だ。
ユックリーンはそれを見もせず、襲撃者ABに反撃をかける。
カンストされた俊敏さで目にも見えない足払いをかける。だがしかし、力加減を間違えたようだ、襲撃者二人の脚はどこかへ吹っ飛んで行った。
一瞬で両足を失った襲撃者は狼狽えるがそれも一瞬。ユックリーンは両手で襲撃者の胸をぐさりと刺し、その命を終わらせた。
3人はたった数秒で終わった攻防に息を吐く。いや、攻防と言っていいのだろうか、それすらも怪しい。
あたりに広がる濃厚な血の匂い。むせ返るような死の匂いを、彼らは不思議と不快には思わなかった。それどころか、高揚感すら感じてしまう。これが戦闘、これが生死をかけた戦い、全てを蹂躙する快感。内なる狂気が燃え出す。
平和だった前の世界、日本との本当の意味での決別を、彼らは感じた。
こうしてキオらは、はじめて人を殺めたのであった。