26話
俺達は、異世界に来てから何度も魔物の命を狩ってきた。ただ人の命だけは刈り取っていない。俺達がいくら好戦的だからって、人は殺してはいない。
人殺しに関しては正直一切忌避感などは感じない。
今のところは。(・・・・・・)
その場面に直面したとき、俺達は果たして躊躇わずに殺せるのだろうか。
ここは命が軽い世界で、正当防衛で人を殺しても良く、暗殺者なんかが活躍する酷い世界だ。
頭では理解している。感情も忌避していない。だが、身体は動くのか?
「人殺しか。日本では大罪だな。」
「殺人鬼。」
「躊躇えば、こちらが大切なものを失うだろう。それが物語の定石だ。」
「ふ、やってしまっても大切なものは失うだろうな。」
「この職だ。覚悟は出来ている。」
大切なもの、、、なるほど確かに。精神的にだが、一度やってしまえば、この世界に順応してしまったということになる。そんな俺達は元の世界の生活には戻れなくなる。元の世界に相応しくない人間になるだろう。
いい答えだ。ここにハスミンがいなくてよかった。全てぶち壊すあいつがいたら、こんな話など、出来なかっただろう。そして、この覚悟も出来てなかっただろう。
「ならば、俺も覚悟をしよう。その時が来たら、躊躇わないと。この世界にて狂王らしく、歯向かうものは全て潰す。我が行くは狂気に塗れた王の道。王らしく、自分のやりたいことを全て押し通す!」
「確かに。狂王らしくとするならばそれがいい。それに、お前さんらしい。」
「前の世界より生き生きしてる。」
それをお前が言うかユックリーンよ。俺から見たらお前の方こそ生き生きしてるわ!
「ふっ、しんみりとなどバカらしい。せっかくの楽しい時間だ。もっと有意義に、これからやってみたいことを話そう!」
「それもそうだな!」
「俺はもっと強い奴と戦いたい。」
「「ハスミンとでもやってろ。」」
ワイワイと、一人の泥酔魔術師を除いて、俺らの楽しい夜は過ぎていった。
「奴ら動きはどうだ。」
男は尋ねる。今、男たちがいるのは王都近郊の森の中。キオたちが野宿している場所より少し離れたところにある洞穴の中だ。ちょっとした斜面を土魔法で抉った簡単な作りだが、姿を隠すには丁度いい。
「今は晩酌でしょうかね。呑気に酒なんか飲んでやがる。」
隊長に報告する隊員。その顔には、酒が飲みたいとはっきり書かれている。任務中は禁酒なのがこの隊のルールだ。
「酒か。」
「あいつらかなり飲んでますよ。あれは明日動きたくなくなるでしょうな。」
羨ましそうな、悔しそうな表情。良くもコロコロ変わる顔だと思う。
早く仕留めてしまいましょう。そう、無言で語りかけてくる。
「ならば明日の朝に仕掛けるか。」
「わかりました。皆に伝えておきます。」
速攻で知らせに行こうとする隊員。だが、それを止め、最後まで男は言葉を聞かせる。
「襲撃に合わせて例の魔道具も使え。確か術姫の光魔法は酔いを醒ますことが出来たはずだ。」
「そうですね。わかりました。合わせて伝えておきます。」
そわそわと落ち着かない、やる気十分な態度。これはモチベーションがかなり高そうだ。
「では、準備を頼む。これが終われば褒賞が出るだろう。それでたんまり酒を飲めばいい。」
「っ!了解です!」
明日の朝仕留め、早く本国に帰ろう。それで彼女とワインを飲むのだ。
男はそう決め、部下が出ていった扉を見つめるのだった。
「見張りどするー?」
「スライムでよくねー」
「りょー」
あの後もチビチビと飲み続け、ほろ酔いとは言い難いくらいに酔った3人は、なにやら怪しい影が進行してるとも知らず、従魔のスライムに見張りを任せ、爆睡した。
「スライムまくら、、、サイコー。。」
朝
「うぼっ!」
スライムまくらがズボっと沈んだ。これにより、俺の頭はスライムに取り込まれる形に。これは事前に決めていた行為だ。いくつか試して、一番素早く起きれるやり方で、表す意味は、敵襲。決めた時は絶対ないだろwとか思ってた。まさか本当に来るとは。フラグは立てるものではないな!
スライムに離してもらい、辺りを見渡す。
「うぼあっ」
ゴリアテの方のスライムもズボったらしい。
ユックリーンはズボる前にゴリアテの声で起きた。
このスライムは“サーチスライム”と言う魔物だ。緑色のゼリー状、ただ、てっぺんが尖ったあの形ではなく、調理器具のボウルをひっくり返したような形をしている。
その名の通り探知能力が高く、獲物を先回りして強襲する形で狩りをする。
スライムということで、わりかしザコだが、探知能力と隠密性の高さに惚れ込み、4人とも3体ほど従魔にしている。従魔で編成を組む時、こいつがいると探知が安定するのだ。
この世界で出してみると、なかなかに肌触りが良く、気持ちの良い触感だったため。まくらとして使わせてもらっていた。
さて、敵襲ということで、敵がどんな奴なのか考えてみよう。
魔物かな?ここら辺の魔物はこの3日間でかなり狩り尽くしたはずだ。黒桜式パワーレベリングは周囲の魔物を全て一掃してしまうため、少しずつ場所を変えながらこの三日間やってきた。
それなら人間が襲ってきたのだろうか?ユックリーンの言ってたザコ暗殺者が来たか?
……うむ、その可能性が高いだろう。
となると狙いは…姫か?
そこに思い至った時、視界の端がキラリと光る。
ナイフ!
咄嗟に避ける。ナイフは地面に刺さり、その剣身を露わにしている。
そこには、なにやら液体が塗られていた。
テンプレ通りどうせ毒だろう。
さて、こちらに喧嘩を売ったのだ。潰される覚悟は十分あるのだろう。
そう思い、無詠唱で魔法を使おうとしたのだが。。。
!?
出ない。。。。魔法が、使えぬ。
これは、どういうことだ!!!