24話
ちょっとした時の後。適度に恥ずかしがり、皆平常運転に戻った。
まぁユックリーンのウキウキは止まってないけども。
そんな中、
「ウオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォ………」
森の奥から、腹に響くトンデモな大声が森中に響き渡った。
これはゴリアテの声だな。随分野生的な声。一頭コングのあだ名は伊達じゃない!このあだ名はゴリアテが中学の頃呼ばれてたあだ名だ。ゴリアテ自身も気に入ったらしく、一発芸大会なんかではこのあだ名で一人ダンスを踊っていた。
とか思っていたら、地響き。
…響渡る?
あれ?ゲームん時は一定範囲内だけだったんだがなぁ………
“戦技:挑発咆哮”は使うときに円のエフェクトが出て、その範囲内の敵のみに効いた。
だからまぁこんな大雑把なパワレベ方法でも全然上手くいっていた。
ドドドドドドドドドドドド………
だんだん近くなって来る物音。ゴリアテの姿はまだ見えない。
ドドドドドドドドドドドドギャオーースギシャーードドドドドドド
魔物の声らしきものも聞こえる。
「お、見えてきた」
ハスミンからは見えてきたらしい。
よし、気合い入れよう。異世界での戦闘は割と楽しい。ヒッキーだった自分がこんなに動けるのかと自分に自信が出てくるのがいい。楽しみだ。
「あれ?多くね?」
ん?多い?
ドドドドドドドドドドドド
こちらからもゴリアテが見えてきた。なにやら叫んでいるようだ。そんなに叫んだら声潰れちゃうでしょうが。喉は大事にしなさいな。
「……た!連れてきすぎた!連れてきすぎた!!」
…うん、そんなこと言ってる場合じゃねぇ。叫んでくれてありがとう。後ろの魔物の数が異常だわ。
き、気合い入れていこう。
…気合いでなんとかなる数じゃねぇな。元気だそう!元気があれば何でも出来る!!
「ハスミン!土壁内で少し間引け!あれだとこっちがつっかえる!」
「りょか!!」
ハスミンは数多の魔法を使いこなせる。だから、適度に間引いてくれるだろう。
さ、こっからだ。
「バトンタッチ!」
ゴリアテが俺の前をとんでもない速度で走り去って行く。
そして、それを追いかけて来る魔物を…
“戦技:峰打ち”!!の、乱れ打ち!!!
「うりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃああああああああああ!!!」
全力で身体を動かすってキモティイイイイイイイイイイ!
「ロフト!打ちまくれ!!」
ゴリアテが叫ぶ。せやで!ロフトお前がトドメを刺さなきゃ意味がないんだ!ガンガンぶっとばせ!
ロフトにたくさんの魔物が飛んでいく。
兎、イノシシ、熊、虫、キノコ、草、オーク、ゴブリン、たまにオーガ、その他たくさん。
個体名など知らん。一個ずつ鑑定している暇がない。だって、とんでもねぇ数いやがるから。
俺とユックリーンが嬉々として峰打ちして飛ばしている。
ゴリアテは奥で暇してやがる。
暇してやがる?おい、俺らがこんな動いてんのに突っ立ってるだけとは何事だ?
…なんかイラってきた。ゴリアテに向けて弱めの魔法を、
「うわっ、アブなっ!いきなり何をするのだキオ!」
ち、避けやがった。
尚、魔法を打ちつつもちゃんと峰打ちはしている。これが並列思考?
それから数分。まだ魔物が途切れることはない。
どんだけ連れてきたんだよゴリアテよ…
思うに、ゲームと同じ範囲だと思っていたのが失敗だったのだろう。
この世界は現実。円のエフェクトなんてそんなもん出るわけがない。
現実で、挑発能力の乗った咆哮が響き渡れば、、、そりゃまぁこれくらいの数来ちゃうかぁ〜。
ゴリアテ、声優志望ってのもあって、もともと肺活量あったしなぁ〜
狼人族転生でさらに強化されたのかもしれないしな。
ま、ゴリアテには次から気をつけていただこう!
自己完結してから数分、ロフトから根をあげる叫びが聞こえて来た。
「も、もう無理でス!!」
もうへばったのか。根性ないなぁ〜まぁゲームと違うから、クリックし続けるんじゃなくて、バット振り続ける必要があるからキツイのはわかるけども、ステータス補正あるんだしもうちょいいけるとは思ったんだがなぁ。
まぁしょうがない。弟子の尻拭いも師匠の役目。さっさと終わらせちゃいましょう。
俺は、ここら辺に散らばってるのをやるとして、
「ハスミン!ユックリーン!ゴリアテ!やっておしまいなさい!」
「「「おう!」」」
1分も立たず。残っていた魔物は全滅した。
あいつら、、年甲斐もなくはしゃぎやがって。俺の分も残しとけってんだよコノヤロー!
ユックリーンが、俺のやろうとしてた周辺の魔物をサクサクと、俺が動くより早く倒してしまったために、俺の分はなかった。
俺だってトドメ刺したかった!
…戦闘狂って人のこと言えねぇわw
「Sランク冒険者って、バケモノばかりなんですの…?」
「……わかりません。」
ロフトと姫さまは、速攻で魔物を掃討してしまった4人を見て、そんな言葉を零した。
―――☆―――
「隊長、本国より支援物資が届きました。」
「支援物資?」
男は訝しんだ。これまでで本国からそんなものが送られてきた事などないからだ。何故今回に限ってそんなことをするのだろうか。支援などいつもは最低限度の物資と金銭のみのくせに、一体全体どんな風の吹き回しだ?
「はい。私も不振に思ったので、聞いて見たところ、魔道具の実験も兼ねてとのことです。」
そういえば、最近魔導技師を一人囲ったと聞いたな。多分そいつが作ったものだろう。
魔道具を作る魔導技師は、各国が丁重に囲っているので、あまり確保することが出来ない。しかし、皇帝はどこで拾ったのか、一人の魔導技師を連れてきてお抱えの技師として重宝しているのだとか。あの現皇帝に見初められたという時点で有能なのだろう。有能な魔道具は戦争で重宝する。それの実験をしようというのは、まぁ確かに俺たちのような外国で仕事をしてるのには適切だろう。下手に失敗して自国で爆破されても困るしな。
「なるほど、それで、どのような物なんだ?」
「それが、周囲一帯を魔法の使えない空間にする魔道具らしいです。」
「なんだとっ!」
魔法の無効化は、帝国が求めて来たものの一つだ。帝国は腕の強いものは多いが、魔法師の数は不足がちだ。それを埋めるための魔道具を作り出すとは。これは次の戦争は勝ちにかなり近いた。
それに、この場面でこの魔道具ほど役立つものは他にない。何故なら、術姫にはもう腕のいい護衛などほとんどいないからだ。あの騎士団長を潰した今、術姫本人の魔法だけがネックだったが、それを消せるならば障害と言えるものは何一つない。
「本国は素晴らしい贈り物をくれたようだ。術姫は取ったも同然。仕掛けるタイミングを見極めろ。隙があったらすぐにでもやるぞ。」
「はっ!」
男は笑みを浮かべる。
帝国の現在の皇帝は、はっきり言って暴君だ。だが、なまじ力と才能があるために誰も逆らえない。男も現皇帝には嫌気がさしていた。希望外の転属、無茶な命令、最低の支援。だが、今回の支援だけは感謝出来る。これによって、俺は大切な部下を一人も欠かさず、帝国に帰れる。
敵の主要人物を潰したことで、俺たちは大いに褒賞をいただけるだろう。
そうすれば、彼女と……
「ふふふ、ははははははは!」