19話
ロフト案内のもと、王都へと向かう。
何故王都へ行くかと言うと、ロフトは主人に仕える騎士なので、その主人の許可が必要だと思ったからだ。決してお姫様が見てみたかった訳ではない。断じて違う。
尚、面白いからギプスとバットは装備させてる。
ロフトは鎧の下に大リーガー養成ギプスを着てるので、ギクシャクとした歩きになっている。
それに、騎士なのに左手に黄金バットを持っているのでなかなかシュールだw
あの後、バットの振り方など、中学まで野球をやっていた俺が少し教えたのだが、なかなか大変だった。飲み込みは早いのだが、剣を振るのとはイマイチ違うので、違和感があるのだそう。
ロフトは右打ちで、まさかの小笠原打法だ。だが、やはり初心者らしいぎこちない動きだった。
(まぁ初っ端からブンブン振ってたら違和感半端ないんだけどねw)
そんなこんなで、ロフトとたわいも無い会話をしながら歩いていると、
「あ、そろそろです!」
高い石造りの外壁が見えてきた。
門には兵が2人。ロフトのぎこちない動きを見て訝しんでいる。
ただ、流石騎士団長(笑)様。門兵さん顔パスであった。
俺たちは一応止められ、身分証提示を求められた。
ただ
「Sランク冒険者⁉︎」
「し、失礼しましたっ!!!」
速攻で通された。
しかし、ロフトまでポカーンとしてて案内してくれない。どした?
「つ、強いとは思ってましたが、まさかSランク冒険者の方だったとは…」
あれ、言ってなかったっけ?
3人の方を見る。
「「「そういや言ってなかった。」」」
…さいですか。
街を歩きながら、城を目指す。
街は、レアンコスマの街とほとんど変わらない。
木製の家やレンガの家、石の家など、様々な様式の家が並び立ち、そして多種多様な人種がせっせと歩いていく。
獣人を見てモフりたいと思うのまでが、一種の流れ。。。うむ、テンプレだ。
うーむ、一つ言うなれば、レアンコスマの時より奴隷の数が多いだろうか。
あの触り心地良さげなモッフ獣人さんが、風呂に入れて貰えてないのか、ゴリアテ頭皮並みにゴワッとしてる。もったいない。
失礼、今は比較的柔らかいわ。狼人種だしな。
さて、そんなことを考えてたら、はい到着。お城。
「ふむ。俺がマイクラで作った城より遥かに立派だぜ。モノホンはやっぱちゃうなぁ〜」
「いや、ゲームと一緒にするなよ。」
「てかあれブロックゲーじゃん。」
「城に失礼」
…言いたい放題だな。ま、いっか。
ロフトの取り次ぎにより、王にはすぐに会えるとのこと。
城の中を優雅な気分で歩いて行く。
廊下に掛かるタペストリーのなんと素晴らしいことか。いやぁこういう造形嫌いじゃないのよ。むしろ大好き!俺も狂王として、城の一つでも欲しくなってしまった。パク…作りますかね!
「ここが王の自室です。」
そう言って、ロフトはノックをし、入室の許可を求める。
「入れ。」
その言葉に従って、ロフトが入る。それに追随して俺たちも入る。
そこには、衰えながらもしっかりとした初老男性と、足を引き摺りながらも男性の横にぴっしりと立つ騎士風のおっさんがいた。
「王よ、勝手ながら王の自室に客人を招いた事をお詫び申し上げます。」
「良い。それにロフトよ。私はもう今は元老院議員の1人でしか無い。王などと呼ぶな。」
「あ、す、すいません。」
そうだった。ロフトが余りにも自然に王、王って呼ぶから忘れていたが、この国は勇者の一言で王政じゃ無くなったんだった。
「それでロフト、親父と王にお客人を紹介してくれないのか?」
騎士風のおっさんがニカって擬音が付きそうな笑顔で言ってきた。それにハッとした顔になったロフト。
「こちらは、」
「いい、自己紹介くらい自分でするさ。」
ふ、ロフトよ、私の名乗りを聞け。
「私はS級冒険者、黒より黒き黒桜が主、キオだ。元ミラス王、お初にお目にかかる。こいつらは私の眷属。仲間だ。」
仁王立ちでニヤリとしつつこのセリフを俺は吐いた。
キマッタ…
後ろの3人は…俺の眷属ってところにジトっとした目線を感じたが、俺の仲間との説明を受け、3人並んでドヤ顔している。その姿はまるで黒い三連星!ちょ、俺も入れて!
肝心のミラス王はポカンとした顔になっていた。だが理解したのかハッとなると、大声で笑いだした。
「はっはっは!面白い者たちだ。それにS級冒険者とは。」
「雰囲気から強者だとは思っていたが、それほどか。」
ロフトは1人オロオロしている。まあ俺の話し方が不敬とも言えるものだったし、それなのに王が大笑いしているからどうすればいいのか戸惑ってるんだろう。
「ゴリアテ。ロフトを連れて続きをしてこい。こいつがいると気が逸れる。動きが笑える。」
「あいさ了解。」
ガッと首元を掴まれ。引き摺られていくロフト。
そして、ゴリアテに続き、ユックリーンとハスミンもついていく。
「ふむ。ロフトに何をするつもりかの?」
ミラス王は聞いてくる。
「その前に聞いておきたい元ミラス王。俺は貴方をなんと呼べばいい?王とは呼ばれたく無いのだろう?」
「ふむ、そうであった。ワシらの自己紹介を終えてなかったな。まぁお主らも他3人の名前を聞いてないんじゃがな。ワシはヘイゼン・ミラス・スレイプニル。この国の元老院議員の1人じゃ。ヘイゼンとでも読んでくれれば良いよ。」
「俺はアルゴー・ペイン。ロフトの養父だ。ちょっと前まで騎士団長をやってたんだが、帝国の刺客に足をやられちまってな。」
ヘイゼンにアルゴー。それにしてもスレイプニルってカッケェな。オーディンの馬がそんな名前じゃなかった?あれ、グラブルだけだっけ?
アルゴーがやられたのは足だが…ありゃ足首から先が無いですね。この世界の回復魔法は欠損は回復できないのかな?ハンネくんは欠損しなかったから確認してなかったわぁ〜けどまぁあの具合だとできそうに無さそうだなぁ〜。
「ヘイゼン殿にアルゴー殿か。わかった。今後そのように呼ばせてもらおう。あの3人だが、ハンネを引き摺って言ったのが我らが黒桜旅団の副団長、ゴリアテだ。そして、あのイケメンエルフがハスミン。雑魚処理担当だ。そして最後がユックリーン。斥候だ。」
「む、旅団というと、旅団規模の冒険者なのか?」
あ、旅団って軍事単位にもあるんやった。ゲームで一時期それくらいの人数が居たこたぁあるけど…
「いや、旅をする団体ということで旅団だ。今のところ4人パーティだ。」
「なるほど。」
と、少しばかり会話を交わしていると廊下がだんだんと騒がしくなって…
バッターンと扉が開く。そこには、金髪縦ロールにティアラを刺した、ドレスの少女がいた。
ふむ、可愛らしい娘だな。まぁヤンチャそうだけど。
「お父様!へんな人たちにロフトが連れていかれましたわ!」
おん?お父様?てことはヘイゼンの娘さん、つまりお姫様だな!
「おお、イザベラか。心配しないで大丈夫だ。その3人はこの人物の仲間、Sランク冒険者黒桜旅団のメンバーだからな。」
イザベラって名前なのか。へー。
「貴方、いったいロフトに何するつもりですの!?変なことしたらタダじゃおきませんわよ!」
お、お姫様がこっちに突っかかってきた。タダじゃおかないってどんだけロフト好きなんだよw
まぁええわ。このまま依頼の話に持ってこう。
「そうだった。そのためのお話をするのだった。ヘイゼン殿、アルゴー殿、10日ほど彼を貸してはくれないか?」
「ほう、何故だ?キオ殿。あいつは一応騎士団長の肩書きを持ってる。相応の理由が欲しいな。」
アルゴーが答える。口は笑ってるんだが、、目が笑ってない。意外と心配症か?アルゴー。
「ふ、何、あいつが追っていた獲物をあの3人が横取りしてしまってな。埋め合わせをしようと思ったんだが、あいつがナヨっとしててイラッと来たのさ。だからあいつを少し鍛えようかなと…」
「「「あー…」」」
どうやら3人とも心当たりがあるようだ。
「そうなのですよね。ロフトったら自身が全くと言っていいほど無くて、いつもいつも覇気のない顔してるんですの。きっと卑屈なのがいけないんですわよね。それがなければいい子ですのに……ブツブツブツブツ」
姫様は1人の世界に入っていった。ブツブツ1人でロフトのこと言ってる。ほんと、付き合っちゃえよお前ら。
「ふむ。Sランク冒険者とはかなりの実力を持つと聞く。ロフトを鍛えてくれるというならありがたい話じゃの。じゃがまぁ、ワシが決めるより親が決めた方が良かろう。アルゴー、お主が決めてやれ。」
「王、私の心中などとっくに分かっているでしょう。このパーティは私より多分強者だ。そんなのに鍛えて貰えるならロフトとて本望だろうさ。よろしく頼むぞ、キオ殿。」
「ええ、ええ任してくださ」
「認めませんわ!」
む、お姫様に遮られてしもた。認めないって何がじゃ。
「それでは私とロフトが離れ離れになってしまうわ!それなら私も連れて行きなさい!」
な、なんだと!?
「あの子が強くなるんですもの、主人となる私も見守る義務がありますわ!」
おいおいこの嬢ちゃん何言っちゃってんの!?…愛する者が近くにいる方がやる気出るか?
「それに、私これでも魔法には自信がありますの。自分の身くらい自分で守れますわ!」
「いかん!この前帝国の刺客による襲撃があったばかりなのじゃぞ!その刺客もまだ倒し切っておらん!今は様子を……」
「お父様!ロフトが成長しようと言うのです!それを見届けるのも主人として大切なことだと思いますが!」
「むぅ。じゃ、じゃが…」
ヘイゼン過保護か!
「大丈夫ですよ王、彼は俺よりも強者です。此処にいるよりも彼らといる方が安全でしょうよ。」
「お父様?私が守られるだけの姫ではないことはお父様が一番よく知っていらっしゃったのでは?これは考えを改めなければいけないかもしれませんね。お父様が私の一番の理解者だと思っていましたのに…」
うわぁ〜娘スキスキフリスキーに効きすぎちゃうよそれ。このお姫様、ヘイゼンお父様の扱いがよくわかってらっしゃる。イザベラちゃん、恐ろしい子!
「わ、わかった!いや、ワシは最初からわかっておったぞ!…キオ殿、娘をどうかよろしくお願いします。」
頭下げられちゃったよ…
「わかった。ヘイゼン殿、イザベラ嬢は傷一つつけずお返ししよう。」
これで主人と親の許可は頂いた。若干一名オマケがついたが、まぁ許容範囲かな。
じゃ、早速ロフトに黒桜式パワーレベリングをしてやろう!