16話
「うわっとと。マジかよ…」
ヴァルキュリアを呼び出した途端、先ほどの衝撃的な宣言の後、彼女は襲いかかってきた。いきなりの反応だったが、かろうじて避け、今はユックリーンが嬉々として相手をしている。
「死になさい!」
「倒し甲斐のある相手…楽しいわ」
ヴァルキュリアの持つレイピアと、ユックリーンの短刀が交錯する。目まぐるしく位置を変え、激しい攻防。どこにも意識を避けないとんでもない速さの対決。俺らは外野で眺めている。
「なんで襲ってきたんだろうなぁ」
「そりゃお前さんあれだろ。」
「あれ?」
「キオお前ストーリー忘れた?ヴァルキュリアを手に入れるまでの経緯。」
ああ、思い出した。
ヴァルキュリアは、ストーリーの裏中ボスである。ストーリーでの表ボス(契約済みなのでこの後召喚するつもり。)を倒し、エンディングの後、天界にてあるアクションを起こすと、裏ボスとして登場する。そのアクションというのが、
「よくも天界を汚しましたね!あれほどの暴挙、許しはしません!」
そう、天界を汚すこと。つまり、アイテム“こやし玉”を999個(パーティ換算)投げ続けるということである。これをすることにより、ヴァルキュリアが現れ、裏ストーリーが開始される。なので天界を汚したプレイヤーは許さんとなっているのだろう。
ちなみに、彼女を倒すと、さらにストーリーが進み、表ボスは私の命令で動いていたのだウハハーと完全なる裏ボス女神が出てきて戦いになる。そしてクソ強い女神を根気よく殴り続け、体力が1割切るとムービーが流れ、勝利となる。ムービー勝利なので、契約は不可能だった。
「お前の主人は俺だろうに。話を聞かんかいおバカ。」
「誰がおバカですか!私を馬鹿にするなんて絶対ゆるしません!」
あ、意識こっちに向けたな。
「隙」
「キャッ!」
ずべしっ!
一瞬の隙をついたユックリーンがヴァルキュリアを組み伏せた。
「は、離しなさい!」
「頑張って抜け出してみな。」
「ぐぬぬぬぬぅぅぅ!」
あ、捕まった。
「まぁいいや、ユックリーンもいい感じに発散出来たっぽいし、ここらで終了。」
「くっ、殺ry…」
誤解を説いてもいいが、このままの方が面白そうだから、そのまま解除。ヴァルキュリアは光の粒子となって俺の中に戻る。
さて、今のMP残量は?……3分の1くらいか。もとのゲームの時と同じくらいだ。異世界に来たからMP消費量減ったとかあれば良かったんだがなぁ。それで、この残量で呼び出せるとしたら…MPポーション飲んでちょうどってくらいか。
「こいつだな。」
「ん?どうした?」
「MP残量確認だな。俺にはわかるぜ(ドヤァ)」
「戦い足りない。」
んぐっとポーションを飲み干す。MPがぐんぐん回復する感覚がある。ただ、腹に溜まるなぁ〜
「お前ら、去勢されないように気をつけろよ?出でよ我が眷属“キュベレー”!」
大地がざわめき、空が慄く。目の前には蠱惑的な笑みを浮かべる美人なお姉様。獣のような長いツノを携え、手にはふた振りの長刀。しかし着ているのは滑らかなドレス。その場に満ちる空気が変わる。
神々しくも、狂気的な雰囲気へと。
「こんにちはご主人。私を呼ぶのはもっと後かと思ったわ。もしかして、いかがわしいことでもしたくなっちゃった?」
「初めましてだなキュベレー。お前みたいな美人にお相手されるのは願ってもないんだが、あいにく今回はただの挨拶だ。」
キュベレー。
地域ボスの中でもかなり特殊な魔物。いや、神。高難度エリア、“大地の裂け目”のボスで、魅了、恐怖、混沌、絶望などの状態異常をひっきりなしにかけてくる厄介な相手だった。それに、調教師のように高レベルのモンスターを周囲に侍らせていた。契約するのは随分と大変だが、手に入れると、
テイムしやすくなる、状態異常にかかりにくくなる等のボーナスが付く。
確かにボスの時のセリフが魅惑的なお姉様だったが、異世界になっていざ生身を拝んでやはえいけしからんたまらん。イイネ!
「けれどあたしの特殊能力は知っているでしょう?」
キュベレーの特殊能力“魅惑に掛かった雄を去勢する“
これは、神話から引用したんだろうが、喰らうと去勢済みとステータスに表記されてしまうので(プレイヤー初期化以外では消えない)男性プレイヤーはみんな魅了耐性をつけて倒しに行った。中には例外もいて、耐性を付けず、去勢されたキャラもいたが、そういうのは大抵中の人が女性だったりする。
「覚えてるよ。だが戦ってる訳じゃないんだから魅了攻撃はしてこないだろう?」
「あら、信頼されてるのね。そうね、あたしは貴方の眷属だから貴方の命令以外では攻撃しないわね。」
おっけ、なら安心だ。どこぞのハーレム狙った男が去勢されずに済んだ。
「それで、あたしを呼び出したのは、さっきの2人と同じ理由でいいのかしら?」
そうか、俺の行いは第3者視点のように見聞き出来るからわかってるのか。
「まぁそうだな。簡単な顔合わせみたいなものかな。」
「それはいいのだけど、“ワダツミ”と“バハムート”、“デイダラボッチ”はやめときなさいな。あの子らは人化出来ないから。」
「え、マジで!?」
マジか。てっきり全員出来ると思ってた。キュベレーマジ感謝!
「それは有難い情報だ。ありがとう。」
「どういたしまして。バハムートはまだいいけど、ワダツミとデイダラボッチはこのまま召喚してたら絶対に事件が起きてたでしょうからね。貴方がそれを起こしてしまう前に忠告するのも眷属の役割でしょ?」
軽くウィンクして微笑むキュベレー。美人のウィンクは童貞な俺には刺激が強い。筈なんだが、特に反応しないなぁ〜。まぁ眷属に欲情するような阿呆じゃないからいいんだけどさあ。
「ホント助かったよ。騒ぎ起こしたくないからこんな森の中にいるんだからな。」
「どういたしまして。」
「それじゃここらでおいとましてもらおうか。また多分呼ぶだろうから、その時は頼むな。」
「分かった。待ってるわね。」
「解除」
光の粒子が俺の中に戻る。
「どうだった?」
「キュベレー。妖艶なお姉さんよの。」
「それなー。ぐぬぅ、アルラウネといいキュベレーといい、キオはもう既にハーレムなのでは?」
「あの刀はいつ見ても業物。実物観れる分今の方がよくわかる。あれは、良いものだ。」
2人でハーレムなのか?分からん。あとユックリーンは、
「なんで業物ってわかるんだ?鑑定でもしたのか?」
「違う。多分目利きスキル?とかかも。なんとなくで凄いものだってわかる。」
「「「ほえ〜」」」
こういうところがゲームキャラになったって実感湧くよなぁ。俺もなんか負の感情に敏感なんだよねぇ〜。なんとなくわかるって感じなんだけども、多分これもスキルだかなんだかなんだろうなぁ
「アルラウネ、ヴァルキュリア、キュベレー。そして3体は人化できないから抜くとしたら、あと3体か。それにしても懐かしいなぁ。ヴァルキュリアの後の裏ボスは厳しかったなぁ。」
「「「せやなぁ〜」」」
懐かしいねぇ〜確かに。呼び出してると、ゲームの頃を思い出す。
4人でワチャワチャしながら挑んだり、生放送で企画して挑んだり、ネットで調べて挑んだり…いつも4人だったなぁ〜なっついわぁー
ま、それでも過去は過去だ!
「俺らは今ここで、異世界で生きている!
ということで、俺のMPも尽きたし、回復を待つまで、野宿の用意しますか!」
「「「おっけえ〜い」」」