13話
いい宿だ。値段も良心的だし、メシもうまい。だがしかし、一つ不満だ。風呂が欲しい。旅の間は森で野外魔法シャワーで済ましてきたからか、猛烈に湯船に浸かりたい気分だ。風呂、風呂、、、、あれは、、、いいものだ!
まぁ無い物ねだりしてもしょうがないので、お湯につけた手ぬぐいで身体を拭いている。部屋は大部屋を四人で借りたので、全員一緒だが、今更こいつらの視線など気にしない。拭くといっても上半身と太もも以下だ。股関節部は流石に恥ずいので拭かず、4人で湯船を一刻も早く手に入れることを約束し、今日は寝た。明日ユックリーンに湯船作ってもらおうかなぁ〜
とか思ってた時期もありました。
「作れないぞ。」
「「「なんですと!?」」」
次の日の朝メシの時間に、ユックリーンに作ってくれと言った反応がこれだ。
ユックリーンは湯船を作れないらしい。なんでや?きいてみっべ。
「材料がない。」
んん?材料?アイテムボックスに入ってないのか?
「入ってない。“拠点チェスト”に入れっぱなし。」
「「「なん…だと!?」」」
拠点チェスト
各プレイヤーのマイルームとギルドホールに置かれる、通称“倉庫”。容量は最高峰アイテムボックスの約3倍。課金によって更に上限上昇の拠点システムだ。
ユックリーンは、持ち歩いていた貴重金属以外はほとんど倉庫に預けていた。しかし、異世界転移によって、倉庫の中身は完全に消失。この世界には持ってこられていないわけだ。
「湯船なんかにアダマンタイトやダマスカス鉱を使うわけには行かないでしょ。ミスリルですら贅沢だ。陶器で作るのが一番だけど、設備がないし、鉄で作るのが妥当だな。」
Oh、マジかよ。確かにアダマンタイトやらは勿体無いわ。しゃぁないなぁ〜鉄を手に入れるかぁ〜サイモさんに聞かないとなぁ。
「むぅ、風呂はお預けか。」
「せやなぁ」
脳筋と魔法バカもガッカリしていらっしゃる。
「まぁ鉄が手に入ったらすぐ作るよ。五右衛門風呂だったら少量で済むだろうし。てかハスミン土魔法で作れば?」
「土で風呂はやめてくれ。」
「ゴリラがこう言ってる。」
「潔癖め。」
と言いつつ俺も土で風呂よりは鉄で五右衛門風呂の方がいい。日本での衛生状況に慣れちゃってるとね。
「じゃ、そういうことで冒険者ギルドに行こうか。」
「せやな」
「ほーい」
「了解」
冒険者ギルドに入ると、ギロッとした視線を受けたが、その全てが、俺らの姿を確認して恐怖に彩られた。昨日の模擬戦は強烈過ぎたようだ。
カウンターに行くと、列がバッと横にずれ、何もしてなくともカウンターに直通だった。
うーん、怖がられ過ぎじゃね?
カウンターのお嬢さんにはヒッと怖がられてしまった。割と傷ついた…
「ギルマスに御目通り願いたい。繋いでくれるか?」
「は、はひっ!」
涙目ですっ飛んでったよ。なんもしてないのに……するつもりもなかったのになぁ
サイモが来たのはそれから2分くらいあとだった。うん、速え。
「とりあえず俺の部屋に来てくれ、立ち話もなんだからな。」
昨日と同じ階段を使い、ギルドマスターの部屋へ行く。部屋には昨日と違い、なんてことはなかった。変わらん。どれだけ劇的な新人が来ようと1日では変わらんか。まぁ小説でもそんなのはほとんどねぇよな。
「さて、熱くなったのはわかるんだが、ちゃんとギルドカードを受け取ってから帰ってくれ。まぁだから昨日の今日で来たんだろうがな。」
あ、ギルドカード完全に忘れてた。そういえば作るとか言ってたわ。いや〜忘れた忘れてた。こいつらも忘れてたって顔してる。俺だけじゃなかったね!
「その反応、まさか忘れてたのか?」
あ、バレテーラ
「あはは〜」
「無念…」
「楽しいイベントがあったからねぇ」
「どうすんのとは思ってた」
ここは笑ってごまかすつもりの俺、かっこよく呟くゴリアテ、開き直るハスミン、覚えてたユックリーン!覚えてたんかい!言えや!
「なら何故顔を出したんだ…まぁ依頼でも探しに来たんだろうが」
「まぁそれもありますけど、一番はじめにサイモギルマスに謝るつもりだったんですよね。昨日のは結構迷惑かけた自覚ありますし、後始末任せちゃいましたし。」
素直に言ってみた。すると、間抜けな顔をしてサイモは固まった。
「謝る…か。随分殊勝な心掛けじゃないか。こんな冒険者は…珍しい……」
そう言って彼は苦笑した。
「どうかした?」
ハスミンが戯けた(おどけた)表情で聞く。その顔はニヤニヤとしている。その顔を見て、サイモもニヤリと笑った。
お、なんか吹っかけてくるのかな?なんでも来いやー(棒)
「Sランクパーティに丁度いい依頼があったんだ。謝ると言うなら受けてくれ。」
いいね、来たね、依頼だね!冒険者っぽいねぇ〜
サイモはニヤニヤ笑いを崩さず、挑戦状を叩きつける若者のように言った。
「依頼はダンジョン攻略だ。東に村があるんだが、その近くにダンジョンが発見されたそうだ。名は“奈落の洞穴“かなり深いダンジョンなんだが、この国の人間では最下層まで到達できないだろうと言われている。だが、お前たちなら……どうした?」
サイモは途中で喋るのをやめてしまった。何故なら、俺たちのニヤニヤ顔が、途端にがっかり顔に変わったからだ。どうやら露骨にガッカリしすぎたらしい。
「そこ、俺らが封印されてたところ…」
「んなっ!?」
ユックリーンのボソリとした呟きを聞いて、サイモは絶句した。
「ついでにクリアしたダンジョンだね。」
俺が追撃。サイモは表情を失った。
「………………おーい、帰ってこーい。」
「ハッ」
お、帰ってきた。意識どっか言ってたなこりゃ。妹が寝ぼけてた時以来かなこの顔。ゴツイおっさんだけど。
「え、攻略済み?え……はぁ?…そうかぁ……そうかぁぁぁ。」
最後にふかぁぁいため息を残し、サイモはうな垂れた。そこへ、、、
ドタドタドタドタ、、、、、バーン!
「サ、サイモさん大変です!北の大平原の奥の森でオークキングの軍勢が攻めて来たとの情報が!」
「なにっ!オークキングだと!?もう発生したのか!」
扉をがつんと開けて入ってきたのはギルドの職員さんだった。なにやら不穏な雰囲気である。しかしオークか。肉…美味かったなぁ〜この世界の魔物の肉って異様に美味いんだよね。調味料は少ないから味は薄めだけど。
「くっ、二週間後には殲滅に向かう手はずだったのに。それに軍勢ということは…」
「はい、オークウォーリアーなども多数いたとのことです。」
「これは由々しき事態だな。狙いはやはりこの街か?」
「この街です。街の住民に被害が出る前に早急に対応を!」
「うむ、しかしオークの軍勢を相手取れるのはハンネや王都の冒険者くらい…」
「「あ…」」
なにやら話し合ってた職員とサイモは、俺たちの方を指差して固まった。人を指差すなんてマナーがなってませんな。 まぁ俺らは俺らで四人で話しててなんも聞いてなかったんだが、、、
「「いたわ。これ解決出来る人材」」
「「「「オークキングって美味そうだよな!」」」」
☆
ということでやってきました。だだっぴろーーーーい北の大平原。奥にうっすらと森が見える。
あの後、正式に緊急依頼を受け、ここに参上した。どうやら、オークの集団が街に進軍中。その規模数百。あのうっすら見える森の奥にオークの集落があるらしく、王都の冒険者と合同で殲滅するつもりだったのだが、その前にオークキングが発生し、敵さんの方に先手を取られたそうだ。
今回はサイモギルマスと俺ら四人の五人パーティで出向いて来ている。まぁサイモギルマスはオマケみたいなものだけど。けどまぁ自前の大斧を構えて緊張した顔だ。どうやら戦う気らしい。
俺たちの目の前にオークの大群が現れる。二足歩行の豚。異世界の魔物。それが殺意を目に浮かべ、この街に攻めいらんと進んでくる。
「おうおう、うじゃうじゃいるじゃないですか。これは豚肉パーティだな!サイモさん、あの肉、半分くらいなら俺らにくれますよね。俺らまだまだよく食べる若い世代なんでいっぱいくださいね!」
「あ、ああ。殲滅さえ出来たならばそれくらい容易い」
「うっひゃあああ肉だ!安定の豚丼!あ、米がねぇや。豚バラホットドッグ!」
「肉祭り、楽しみだな。」
「おれ豚肉ファイヤーボール焼き定食で〜」
「冷シャブ」
俺らの戦意は最高潮!肉祭り、甘美な響き。待ってろオークキング、お前は俺たちの食材にしてやる。
ブモオオオオオオオオオオオオオ!!!!
食材って考えてんのバレたかな?オークの大群が一斉に雄叫びを上げ、走り始める。
「ならばこちらも答えてあげよう、我は黒より黒き黒桜の王狂王エノモトなり!貴様らは我らの腹に収まるがいい!CrazyShowtime!」
「「「CrazyShowtime!」」」
「な、なんだそれ!?」
俺らのルーティンみたいなものです。それじゃぁ行ってみよう!って、他三人はとっくに飛び出してたよ。俺も遅れないように、召喚士として(ここ重要)蹂躙しよう。
「来い、エルダートレント達よ!」
召喚士として自分の身体から、ではなくこっそり魔封室から、エルダートレント999体を出す。このエルダートレントはただのトレントではなく、春限定桜花verだ!なお、前のやつとは違う魔封室です。
桜の花を身に蓄えたトレント達が出現する。その数999体。これにオーク達は驚く。ついでに街の人と
「なんじゃこりゃああああ!」
サイモギルマスも驚いた。
「さあて、出でよ、我が眷属“アルラウネ“!」
こんどこそ召喚士として自分の魔力と同化した存在を召喚する。MPの減りは…少ないな。まぁアルラウネではこの程度か。
アルラウネ。植物系の魔物ではあるが、自我を持つ。ストーリーの中ボスとして出て来たが、見た目が好みだったので手に入れた。ただ、ツタ無限増殖によって、魔封室に入れられない設定だったので、召喚士として契約したのだ。ちなみに、外見は妙齢の美人で、下半身が赤い花になっている。というより植物に上半身が生えてる。服装は植物で出来たドレスを身に纏っている。
「なんなりとお申し付けください、我が主人」
ウゴオオオオオオオオオオオ
アルラウネの言葉に合わせ、エルダートレントたちも一斉に跪く。1000体のモンスターが一斉に跪くのは壮観だ。サイモは開いた口が閉まらないようだ。
「今日は肉祭りをするんだ。折角の平原だったのでお前たちで花見をと思ってな。折角の軍勢相手だし、“アレ”がやりたい。」
「ほう、肉祭り、ですか。それは良いですね。食材はあそこで泣いている畜生でよろしいですよね。そして、“アレ“ですか。わかりました。」
ん?泣いている?振り向いてオークを確認してみました。あ、ヤバイ3人が暴れててもう3分の1が終わってる。
「よし、全部やられるのも癪だ。やるぞ!」
「ハッ!」
ウゴオオオオオオオオオオオ!!
俺はアルラウネに魔力を送る。アルラウネは赤い花からツタを伸ばし、全エルダートレントの枝と繋ぐ。これで俺の魔力をエルダートレントたちに送る。
「千の桜よ、我が魔力を喰らいて躍り狂え!“千本桜・花吹雪”!」
魔力を帯びた桜の花弁が空に舞う。そして一斉にオークに群がる。強風に煽られたように、自然の摂理を無視した形で飛んで行く。飛んだ花弁は鋭利な刃物のようにオークを切り裂く。その姿は竜巻のよう。桜はオークの断末魔を巻き込み更なる激しさを増し、そして、全てを飲み尽くし、戦場に立つ影はなくなった。
あまりにも唐突で、全ての者を魅了した桜は、空の彼方へと消えて、残ったのは食材と認識されたオークの死骸のみだった。
「「「ただいま。」」」
「おつかれー」
「キオ、アレやるなら先に言ってくれ。巻き込まれるところだった。」
「すまんすまん」
そこに三人がかえってきた。手にはオークの死骸。ただ、ふつうのオークよりふた周りほど大きい。多分オークキングであろう。
「いやぁこいつ森の奥の方にいてさー、意外とチキンだったんだよね。俺ら見て逃げ出しやがったからさぁ魔法でちょちょいってやったところにユックリーンが首をチョンってね。」
ハスミンがなんでもないように語る。
「お、お前たち何者だ?」
サイモは怯えたように聞く
「俺ら?」
俺ら四人は、顔を合わせ、ニカっと笑い
「「「「黒より黒き黒桜旅団!」」」」
明日で、1章終わりだ…