11話
サイモが手を振り上げた瞬間、ユックリーンの姿が消えた。直後聞こえてくる打撃音、
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド、、、、、、、、、、、、、
お相手の四人が空を飛んでます。それもものすごい速さで上下に。
集中するとかろうじて見えてくる。ユックリーンは高い敏捷に加え加速魔法、スキルで
加速した音速越えの動きで、相手をバスケットボールのドリブルのごとく上下にドムドムしてる。相手が地面に触れる前に空中に打ち返し、天井に着く前に下に叩き落とす。それも死なないように、腕、足のみで胴体や頭には一切当てずに。
目の前の圧倒的な状況に俺たち以外は呆然としている。しかしいち早く立ち直った男がいた。サイモだ。
「や、やめっ!ハンネを戦闘不能と判断する!」
ドサっとハンネ達は地に落ちる。ユックリーンに殴られ続けた手脚は肉片となり、体は血塗れで見るも無残な姿と成り果てた。その隣に音もなく着地したのは、血を全身に浴びた暗殺者の姿。
「ご苦労様。それで奴らどれくらいで気絶した?」
暗殺者、ユックリーンに俺は声をかける。内容はハンネ達がいつ気絶したかの確認。
「取り巻きは5、6くらいでかな。ハンネは10は持ったんじゃない?」
ちなみに、ユックリーンは一人につき1000回以上殴ったらしい。そう考えると随分と早くに落ちたものだ。つまり、
「足りないな。黒桜を侮辱した罪はその程度では終わらせられん。」
「なっ、まだやるのか!?こいつらは戦闘不能だ!許可することは出来ん!」
サイモが焦った様子で訴えてくる。たしかに、職員4人で必死に回復魔法をかけているような相手に追い討ちをかけようとしているのだから焦りもするだろう。だがしかし
「ならば戦闘可能な状態にすればいいだけですよ。“エリアハイヒール”」
俺は上級範囲回復魔法を使ってハンネたちを癒す。これでさらに痛めつけることができる。
「なっ!?」
対するサイモは絶句だ。まぁ4人で回復してる重傷を一瞬で治してるしなぁ〜。
「ハスミン、奴らを起こせ。」
「はいはーい、“ウォーターボール”」
ハスミンが水初級魔法を奴らの顔面に当てて目を強制的に覚まさせる。
「ん、、、ここは?」
ここは処刑場です。
「はっ!試合は!?」
あたりをキョロキョロと見回し状況を確認しようとするハンネくん。あ、試合終えたユックリーンは洗浄魔法で水に覆われてるんで変な物体かもしれない。
「目を覚ましたようですし、さぁ次に行きましょう。次は、、、、」
俺は奴らには構わず次をしろとサイモに目で訴える。観客はドン引きだ。サイモも。ハンネの目は水ダルマになったユックリーンに注がれてる。
「俺行くわー」
立候補はハスミン。さて、どんな風に叩きのめしてくれるんだろうね。楽しみだわぁー
「ダメだ、許可できん!これ以上は試合なんかじゃない、ただの見せしめだ!」
必死に中止を訴えるサイモ。だがそこに異議を唱えるものがいた。
「まだ僕は戦える!こんなので終わってたまるか!そうだ、奴が一番強いんだな、それで俺たちを弱らせてから残り三人を戦いやすくしてるんだ!」
ハンネくんです。誰のおかげで回復しているのかもわかってない様子。血走った目でサイモに迫っている。ちなみに取り巻きは先の一方的な試合に恐怖したらしく、ユックリーン(たった今水ダルマ終了)を怯えた目で見ている。彼女らの周りの水たまりはハスミンのウォーターボールだけのものではないだろう。水ダルマの水は消滅したので混ざってません。
「僕が負けるはずがない!さっさと再戦させろ!」
「ほらハンネくんもこう言ってるんだからさー、早く始めましょうよー」
ハスミンがサイモに言う。口調ひどく楽しげで、口元はニヤニヤと嗤っている。その姿は人に化けた悪魔のよう。観客は1人残らず、背筋に冷たいものを感じた。俺らは心の中でいいね!を押した。
「くっ、この一戦だけだ!それ以上は認められん。ハンネ、文句があるなら奴を倒してから言え。」
「そうだそれでいい。僕の栄光の道を邪魔するんじゃない。僕はこんなところで負けていい存在じゃないんだから。」
ハンネクゥン、君の栄光の道はすでに途絶えた!お疲れ!
「それでは、始め!」
サイモの号令で試合が始まる。
それと同時にハンネは吶喊する。
(奴は魔法職!ならば後衛のはず、接近して一気にかたをつける!)
見た目にしては冷静なハンネくん。急速にハスミンに向かって急速に接近する。そして
「はぁっ!」
一閃。しかし、
「その程度の速度で俺に勝てると思ってるの?」
ハスミンは軽々と避けたようだ。まぁあの程度避けてもらわなきゃ笑う。まじ爆笑しちゃうかも。
「まだまだぁ!」
ハンネは飛びかかり、連撃を与える。しかしその悉くを避けられる。
「くっ、ちょこまかと動くなっ!」
「お前ごときが(シュッ)俺に(スッ)勝てると思ってるんですかねぇ!」
避けながらハスミンは言う。その口端はだんだんと歪んで行く。じわりじわりと上がる口角、比例して高まる魔力。
突如バックステップで距離をとった、そして勝負を決めに行くべく動き出す。
「黒桜を侮辱した罪、その身で味わってもらうよぉ!飛ばせ電撃“スパークボール”!」
ハスミンの指先からハンネの胸に向かって拳サイズの稲妻の塊が高速で飛んで行く。ハンネは避けられず、まともに喰らう。
元の世界の俺だったら無理だろうが、今の俺なら余裕で躱せたな。それにあんな初級魔法だったらレジスト出来ると思われ。
「ぐぅっ、この程度か、ならば耐えられる!」
ハンネはニヤリと笑い、仕掛けるために剣を握る手に力を込める。しかし、
「そうそうこの程度、で終わるわけないよねぇ!響かせろ“ライトニングボール”!」
次にハスミンが出したのは雷撃の塊、これもハンネの胸部に吸い込まれて行く。しかしダメージは先とは随分と違う。俺らだったら余裕で耐えるけど。
「ガハッ!」
ハンネは吹き飛んだが、壁に激突する寸前で耐えた。しかし、今の一撃でかなりのダメージを受けたようで、足元がふらついている。よく見れば目も虚ろだ。剣を杖にして、気合いにて立っている状況と言っていいだろう。そこにハスミンは追い討ちをかける。
「これで最期、死なないでね〜、“ドラゴンライトニング”」
雷で作られた龍がハンネに向けて飛ぶ、龍はその顎門を開き、ハンネを一瞬にして飲み込んだ。あれは俺らでもヤバイな。結構ダメージ食らうかも。けどいい感じに手加減されてるからそんな食らわないか。
「があああああああああっ!」
雷の龍に全身を焼かれたハンネの断末魔が響く。そしてその声が止まり、そこには黒く焼き焦げた人型の物体が残った。
「やりすぎた?いや、生きてんな。ならだいじょうぶだ。“リジェネレイト”」
ハスミンが再生魔法を行使する。回復魔法ではなく、再生魔法。
(こっちなら過剰に回復させないし、また勝負ふっかけられることもないしねぇ)
そういうことだ。回復魔法と違い、再生魔法では、ゆっくりと時を戻すように傷が塞がって行く。故に、一定のところまで回復させてそこで終了することが出来る。ハスミンは、もう一度勝負を挑まれることなど面倒だと、こちらの魔法を使ったのだ。意外と考えてんじゃんハスミン!
「こんなもんかな。」
命に別状がない範囲でハンネを治す。そして見ていた三人の元へと戻った。
「楽勝だったわ。あ、審判さん、これ俺の勝ちっしょ?」
「あ、ああ、ハスミンの勝利!よって黒桜旅団の勝利とする。だが、やりすぎだ…」
サイモの言葉は、後ろの方が声が小さく、目を伏せ呟いたようだった。
そのサイモの声を聞き、キオは一歩前に出て、告げる。
「これでわかっただろう?黒桜とは我らが心、絆、魂。それを汚すものを、我々は誰であろうと容赦はしない。今回はサイモギルマスの前だったから生かしておいたが、次もそうであると思うな。これをゆめゆめ忘れるな、同業者。その命、大切にするがいい。」
野次馬となっていた冒険者たちは息を飲む。誰もが凍りつき、指一本動かさない。
俺たちでは、私たちではこいつらに敵わない。手を出さないようにしよう。彼らがそのことを心に決めたのは、四人が訓練場から出ていき、緊張が溶けてからだった。