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史上最強のパンチ  作者: ひなえSky
プロローグ
4/5

チュートリアル


「ふむ、チュートリアルか、とは言ってもどんなのだい?」


人ならざる佐治田さんが腕組して首を傾げた、こうして見てもやはり人間にしか見えないのだが

眼前に広がる光景がそれを否定する。


「さっき自力で帰れたら、って言いましたけど、そもそも自力で幻想の世界とやらから帰れるんです?どうやって?」


先程は慌てふためいていたが、落ち着いてみても、やはり思い返す事は同じだった。

何の前触れも無くカフェから、この森のど真ん中にいた、それだけ。

もう少し掘り下げてみればあの眩すぎる光が出る手前で、何かの扉が開くような音がしていたが、きっとそれが原因。

だからと言って、あっと言う間にここに居たと言う事実は変わりないのでどんな手段を取ってどうやってここに来たのかは全くわからない。

なので思い切って俺は佐治田さんへ聞いてみた、すると佐治田さんは少し悩んだように見える。


「……ふむ、ヤスオくん。キミ、ゼロクラX買っても先に攻略情報を調べてプレイしようと思ってた?」

「……む……失言でした、スミマセン」


佐治田さんの言葉を聞いて、俺は思わず謝ってしまった。

確かに未知の世界に立っているのだから、恐怖はあるが、佐治田さんがさっき言った通り

「自力で帰れれば」と言う言葉を聞いて残る事を選んだのは自分自身なのだ。

少し甘えきっていた自分を恥じた。

そんなこちらの心情を知ってか知らずか、佐治田さんはにっこり笑ってみせる。


「いやいや、それを謝ると言う辺りは流石ゲーマーだね、まあ、一応私もチュートリアルになるかどうかわからないけど、簡単な説明はさせて貰おうか。それを聞いてからでも選ぶのは遅くない」


佐治田さんの提案はありがたいものだった。

残るにしても帰るにしても情報が微塵も無かったのだから。


「さて、この世界については先程簡単に言った通り、いわゆる剣と魔法のファンタジーだ。とは言え当たり前の話だけど、ゲームと違って死んだら復活は出来ないからね」

「うん、まあ……死んでも所持金半分で復活なんて無いですよね……」

「むしろ魔物の血肉になって終わる事の方が多いんじゃないかなぁ」


ハハハ、と笑う佐治田さんだったが、今から正にその世界で生活しようかと言う俺には笑い事じゃなかった。


「あの、俺単なる学生なんでファンタジーで何の取り柄も無いと思うんですが、なんか特殊な力とかって貰えたり……?」

「無いよ」

「デスヨネー」


サラッと告げる佐治田さんに俺は乾いた笑いが出た。

そもそもこの世界に連れてきて貰った時点で、十分特殊な事なのだからあまり期待はしていなかったけど。

明らかに落胆する俺を見て、佐治田さんは「あっ」と声を上げた。


「ああ、でも、地球に居た頃より身体がかなり軽いとは思うよ」

「え……?あ、そう言えば言われてみれば……重力が違うんですか?」

「いや、重力は変わらないけど、あの世界は色んな物(・・・・)にしがみつかれてるからね、ここはそれが無いから今の状態こそヤスオくんの本来の状態なんだよ」


佐治田さんに言われて初めて俺は、自分の身体がとても軽いことに気がついた。

身体に感じる重さが少ないと言うか、なんと言い表せばいいかわからないが、今なら垂直に飛んでも軽く自分の身長くらいは飛べそうだ。

生憎とその後に佐治田さんの言った言葉の意味はわからなかったが、ともかく今の状態は別に無理をして出してる力とかじゃないって事かな?


「あ、言葉……言語って通じるんですか?」

「多種多様な生態系が入り乱れてるから、そこは覚えるしかないかな、まあ冒険者とかなら共通語も覚えてるだろうけど」

「ぐぬぬ……」


結局わかった事は、ホントに自力でやってくしかないと言う事だった。

理解はしているものの、幾らなんでも無茶だ、学校で習ってる英語でさえ赤点ギリギリだぞ。


「確かに私はヤスオくんに特殊な力を与える事は出来るけど、物事には対価が必要なのはどこだって同じだろう?」

「……対価って言っても……俺に出せるモンなんて…………あ」


佐治田さんも別に何かを欲してそう言ったわけじゃないと思うが、今自分に渡せる物の中で価値あるものなんてこれしか思い浮かばなかった。


「佐治田さん、コイツと取引してください!」

「……な、なんだって……?」

「ゼロクラX限定版の予約購入券!限定アバター付きで、コイツの入手難度は凄まじいですよ!」

「むむむ……」


突き出した右手に握られた一枚の紙、それが人ならざる者を唸らせる程の力があるなんて誰が信じるだろうか。

正直言った自分でも信じられなかったが、佐治田さんは凄まじく悩んでいた。


「……わかった!ヤスオくんの想いに胸が打たれたよ!」

「どちらかと言えば物欲では……」

「細かいことは言いっこ無しだ!」


佐治田さんは目を瞑ると、右手の人差し指を突き立ててくるくると回して見せた。

一瞬ぽかんとそれを見ていた俺だったが、それが何かの儀式か魔法だったんじゃないかと気づく。

だけど、別に何も変わった様子は無いと思うんだが。


「よし、ヤスオくんこれで共通語が使えるようになったよ」

「え、全然実感わかないんですが」

「まあ、今は見た事も無ければ聞いたことも無い言語が頭に浮かんでも混乱するだろう?ちゃんとその時になれば理解出来るようになるよ」


半信半疑ながら俺は佐治田さんへ券を手渡すと、思い出したように続けて1万円も取り出して渡す。

それを見て今度は佐治田さんが不思議そうに首を傾げた。


「うん?これも受け取っていいのかい?」

「ええ、暫く俺には必要無いですし、それに、カフェオレの代金まだでしたからね?」

「あ、そう言えばすっかり忘れていたよ」

「頂いた物への対価は必要ですからね」


どこかで聞いた言葉を俺から受けて、佐治田さんは笑っていた。


「ハハハ、だとするとカフェオレの代金としては暴利すぎるな、私もヤスオくんに死んで欲しいわけではないからね、折角だし特殊能力と言うヤツをあげよう」

「え、なんか貰えるんですか?」

「『鑑定』と言うスキルだけど、使い勝手は難しいと思うからこの山で練習するといい」


特に狙ったわけではなかったのだけど、どうやら鑑定スキルが貰えるらしい。

でも俺が知る限り、ゲームの鑑定と言えば武器の値段を調べたり、宝箱に罠が調べられてないか、程度にしか使ってなかったと思うんだが。

いやまあ、世界の相場を知らない俺にとってはあると嬉しい物か、適正の値段で取引も出来るだろうし。


「一応、この山は比較的穏やかな場所でね、全く魔物が出ないと言うわけでは無いが、修行するにも暫くここで基礎修練を積んだ方がいいだろうね」

「え、人が住んでる気配一切なさそうなんですけど」

「うんまあ、オススメだよ、とだけ言っておくさ」


人ならざる者であり、俺をここに連れてきた佐治田さんが言っているのだから、オススメに便乗した方がいいんだろうけど。

どう考えてもサバイバルのサの字も知らない俺が、人気のない山にいきなり放り出されても生き残れる気がしないんですが……。


「……えーと、じゃあチュートリアルは」

「うん、じゃあチュートリアルは、山で修行しろって事で」


オススメが強制になった。

スキップも可能だろうけど、多分ろくでもない事しか起きない気がする。

でもまあ、死んで欲しいわけではないと言っていた佐治田さんを信用するか……。


「ではヤスオくん、今更戻る気もないだろうし頑張ってくれたまえ」

「……えーと……なんか聞きたいことはいっぱいあるはずなんですけど」

「まあ、また会う時もあるさ」


お別れは突然に、引き止めたい想いも当然あったが自分で選んでしまった道なのだ、いつまでも頼ってはいられない。

笑顔で手を振る佐治田さんにつられて、俺も手を振り返すと、佐治田さんは再びこつ然と姿を消してしまった。

後に残るのは、風が木々を揺らすだけの静けさ。

なにはともあれ、俺の異世界生活が始まったのだ。


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