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悪役令嬢と金の髪の王子様  作者: 東 万里央
「悪役令嬢と金の髪の王子様」
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09.最後のつとめ

 それから毎日を屋敷でぼんやりと過ごす中、私はこれまでの六年はなんだったのだろうと考えていた。ダニエル様を思うたびに胸が痛んだ。そう、私は未だにダニエル様を忘れられずにいたのだ。


 記憶にあるダニエル様の、あのひたむきで真っ直ぐな眼差しが大好きだった。その眼差しをもう一度見たくて、ずっとそばにいた気がする。けれども、あの目が私に向けられることはなかった。


 やりきれない思いが胸をよぎる。もう戻りはしないとわかっているのに、どうしても過ぎ去ったあの日々を、心が忘れさせてはくれない。私はなんてバカなんだろうか。


 何気なく窓から空を見上げる。晴れた空に鳥が飛び、木々の花の蕾はほころびかけている。もうじき春がやってくるのだ。あの日から閉ざされた私の心とは真逆だった。


 今日が部屋に引き籠り何日目なのか、分からなくなって来たある日のことだった。部屋のドアが珍しくもノックされたのだ。


ーーお父様だった。


 お父様は窓辺の椅子に腰掛け、ぼんやりする私を痛ましげに見下ろす。


「サンドラ、またお前に頼みができた」


 すまないとお父様が溜め息を吐いた。


「条約の調印式に、お前もダニエル様と出席して欲しいのだ」


「……」


 なぜと驚く私にお父様が説明する。アルザンとの講和条約の調印式には、「今回の功労者」である王太子のダニエル様と、その妃が代表として出向かなければならない。そして、ダニエル様の婚約者は公にはまだ私だ。


 男爵令嬢に過ぎないリリアンを、王太子の妃とするには手間がかかる。まず身分を王太子にふさわしいものとするため、リリアンを高位の貴族の養女にするつもりらしい。ところがどの貴族も難色を示し、受け入れ先がないのだそうだ。


 そこで陛下はお父様にお前の娘を出席させろと命じた。妃ではなく婚約者に過ぎない現在ならば、いくらでも後からのすげ替えはできると考えたのだろう。お父様もつじつま合わせとダニエル様の補佐として、調印式の会場にまでついて行けと言う。陛下は私達親子をとことん利用し尽くすつもりなのだ。


「辛い役目を背負わせてしまうが、私もお前もこれで外務大臣として、ダニエル様の婚約者としてのつとめは終わりだ」


ーーこれで終わり。


 その一言に私の肩がぴくりと動く。


 これが婚約者としての最後のつとめだと言うのなら、私はやはりやらなければならないのだろう。陛下のためでも、お父様のためでも、ダニエル様のためでもない。私たちの国に暮らす国民のためだ。


 平和と春を誰よりも待ち望む国民のためにならと、私はなけなしの力と誇りを振り絞った。


「……お父様、かしこまりました」


 立ち上がり再び窓の外を眺める。


「穏やかな春をこの国にもたらしましょう」

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