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悪役令嬢と金の髪の王子様  作者: 東 万里央
「悪役令嬢と金の髪の王子様」
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07.婚約破棄の真相

 それからの五年間は目まぐるしく過ぎて行った。


 お父様は外務大臣として開戦派の筆頭に立ちつつ、講話派の有力貴族との妥協点を探って行った。お母様やお兄様は持ち前の話術と美貌を武器に、貴婦人方を通して講和派の輪を広げて行った。


 私も書物での勉強だけではなく、他国からの使者や留学生、商人らに直接情勢についての教えを請うた。第三者の判断を知りたかったのだ。そしてお父様の言った通りにアルザンには勝てないとわかった。


 講和条約を結べたとしても、アルザンが条約を破らず、侵攻しないのかどうかも分からない。それでもその何年間かにまた対策が立てられるはずだった。


 対策のためには軍事と経済を立て直さなければならず、立て直すためには知識と人脈が必要だ。私はお父様に頼み込まれ、軍人や商人との交渉の場に、できる限り出向くことになった。


 これは本来ダニエル様の役割と義務だ。ところがダニエル様はこれまで帝王学を学んではいない。三年前に認知されるまでは、アイリーン様の私生児でしかなく、陛下にただ甘やかされ育ったからだ。そのために政治の駆け引きが苦手らしく、いつも約束をすっぽかしてしまう。私が代理人とならざるを得なかったのだ。


 そんなダニエル様にやはり違和感を覚えながら、それでもいつかはわかってくれるだろうと信じていた。私はダニエル様を叱咤し、時には引きずり出し、立派な為政者になっていただきたいと尽力した。自分の時間や休む暇はほとんどなかった。


 私たち一家がこうしておのおのに動く中で、隣国では開戦派であった旧王が病死している。新たに即位した王は亡き王妃様の兄上に当たる方で、開戦はアルザンにとっても得策ではないと考えていた。


 双方の思惑が一致したのだろう。ダニエル様と私が婚約をして五年後、ようやく講和のための交渉の場が整えられた。

 

 束の間でしかないのかもしれない。それでもようやく平和が訪れるーーその矢先の破棄と断罪だったのだ。


 ねえ、ダニエル、ダニエル様ーーなのにどうしてあなたは私をそんな目で見るの? どうしてあなたの隣に別の人がいるの?


「アレクサンドラ、なぜ黙り込む。やっと罪を認めたのか」


「……」


 何を言っても嘘だとしか断じられない状況で、一体何を言えばいいのだろうか。


「そもそも僕は君と婚約なんてしたくなかった。開戦派の筆頭の娘など忌まわしい。やはり君は叔父上と同じように、戦いや虐めが好きな好戦的なタチだったんだな。だが、僕は平和を愛する男だ。これからはリリアンとともに、ようやくもたらされたこの国の平和を守って行く」


 私が開戦派? 好戦的? 一体何を言ってーー。


 だが、それらの形容詞も次のセリフ以上には衝撃を受けなかった。


「父上もこの件については了承済みだ。アレクサンドラ、大人しく身を引くのが君のためだぞ」


 ざわ、と会場の客人らがどよめく。ご婦人を口説いていたお兄様も呆然としていた。私は馬鹿なと玉座に座る陛下に目を向ける。陛下は気まずげに目をそらすばかりだ。


 私はその時ようやく悟った。


 ああ、そうか。当座の平和が約束された今、私は、私たち一家は陛下にとっても、ダニエル様にとってももう用済みなのだ。


 陛下は初めからそのつもりだったのだろう。父を表向きには開戦派に仕立て上げ、裏向きには講和派として奔走させる。そして最後には功績を全て取り上げ、ダニエル様のものとしてしまう。王太子としての泊をつけるためだ。


 お父様は現在、条約の交渉のため隣国に出向いている。だが、帰国後は恐らく開戦派の筆頭として更迭され、私ともども政治の表舞台から葬り去られるーーそれが筋書きの締め括りだったのだろう。


 陛下の唯一の計算違いはこの茶番だと思われる。ダニエル様が講和の条件が詰められる前に、我慢できずに全てを公にしてしまったからだ。


 何と言うことーー。


 私は頭がくらりとなるのを感じながらも、それでも誇りを持って倒れるのを踏み留まった。


「陛下、今のダニエル様のお話は誠にございますか」


「……」


 陛下は何も言わない。それが答えなのだろう。


「この場でのお返事はいたしかねます。とりあえずは退出させていただきますわ。父に相談しなければなりませんもの」


「待て、アレクサンドラ、逃げるのか!!」


 ダニエル様が喚いているが構わない。私は静まり返った会場を、ヒールの音を響かせながら後にした。

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