06.王子への違和感
ダニエルと私の顔合わせは、王太后であるお祖母様、伯父様である陛下、そして、お父様の立ち会いのもとで行われた。まだ身内以外には極秘だったために、公式にではなくお祖母様のお部屋でだ。
あからさまに上機嫌の陛下に対して、お祖母様とお父様は複雑そうな表情をしていた。そんな中で私はダニエルと再会したのだ。ダニエルは陛下の隣につまらなそうに立っていた。陛下がダニエル様に前に出るよう促す。
「ダニエル、あの子がアレクサンドラだ」
私も父に肩を叩かれた。
「アレクサンドラ、あちらがダニエル様だよ。ご挨拶なさい」
私はドレスの裾を摘まんで頭を下げた。何と言えばいいのかとしばらく迷う。ダニエルとは「初めまして」ではないからだ。
「アレクサンドラと申します。現ウエストランド公、ユーインが第二子になりますわ」
ーー頭を上げ、ダニエルを見た瞬間に違和感を覚えた。
透けるように美しい金の髪と、澄んだ青い目は変わらない。可愛かった顔立ちは男の子らしく、背は三年分すらりと伸びていた。
姿形は確かにダニエルだった。なのに、何が違うのだろうと首を傾げる。
一方ダニエルは立ち尽くす私に近づき、「君がアレクサンドラ?」と尋ねる。初めて会うかのような態度だった。私の顔、身体を無遠慮に眺める。
「ふうん、思ったよりずっと美人だね。ブスじゃなくて良かったよ」
いくら王子とは言え、あまりに不躾な態度にお祖母様とお父様が驚いている。
「ダニエルーー」
私は思わずダニエルの手を取っていた。
「ダニエル、私よ、サンドラよ。約束を覚えていない?」
「約束? 何のこと?」
ダニエルは私の顔をまじまじと見つめた。
「女の子の友達はたくさんいたからなあ。君に会ったことがあったんだ?」
私はショックに目の前が真っ暗になった。私にとってはかけがえのない思い出は、ダニエルにとっては多くの中の一つだったのだ。
それでも仕方がないわと自分に言い聞かせる。きっとお母様を亡くして後ろ盾もない中で、寂しさを紛らわすためだったのだと。
「ダニエル……いいえ、ダニエル様」
私はどうにか笑顔を作った。
「これからよろしくお願いしますね」
この人がいつでも泣けるように、私は誰よりも強くなろう。この人が生き残れるように、私は誰よりも力を尽くそう。例え忘れられてしまっても、私が好きであればそれでいい。
それでいいーーはずだった。