表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢と金の髪の王子様  作者: 東 万里央
「悪役令嬢と獅子心の黒太子」
25/27

07.決して許さない

 手当てが迅速だったからなのか、アンドリューは一命を取り止めることができた。とはいえ意識が戻らず油断はできない。いつ目を覚ますのかもわからなかった。


 私は用意された宮殿奥の寝室で、アンドリューにつきっきりとなり、夜もほとんど眠らずに看病を続けていた。そろそろ疲れが出始めた三日目の夜、レオンハルト様が見舞いに訪れるまでは。


 レオンハルト様は寝室に入るなり、私とアンドリューに深々と頭を下げた。


「お前たちにはすまないことをした」


 開口一番に謝罪の言葉を口にしたことに、私は驚くのと同時に感心してしまった。レオンハルト様には傲慢な印象があったが、いざという時には頭を下げる潔さも持っているようだ。間違いなく将来アンドリューの好敵手となるだろう。


「大変な舞踏会になってしまいましたね」


 私は立ち話もなんですからと、窓辺に置かれた椅子を勧めた。レオンハルト様は素直に腰を掛けると、長い脚を組みアンドリューに目を向ける。


「昨日の件だが、やはりお前の言ったとおり、ギリンがワインに含まれていた。何者かが舞踏会の前に混入させていたらしい」


 厨房のワインの樽からもギリンが発見されたそうだ。


 「だが」とレオンハルト様は顔を上げ、今度は向かいの席に腰を掛けた、私の目を逸らさずに見つめた。


「表向きには食中毒ということにしておいた。幸か不幸か昨日は気温が高かったからな」


 私はなるほど、そう来たのかと目を瞬かせる。


 毒が含まれていたと認めてしまえば、エストラントが警備の責任を問われる。また、同盟国の要人を暗殺しようとしたのだと、国そのものに疑いがかかることにもなるだろう。


 かといって疫病だと発表してしまえば、貿易立国のエストラントには致命的だ。産出品が売れなくなってしまうだろう。


 だが、食中毒ならば噂を打ち消すのに最適で、厨房の管理だけの問題なのであるから、最低限の面子も保たれるというわけだ。恐らく料理長が責任を取るかたちになるのだろう。


「むろん治療の手は尽くすつもりだ」

「……」

「治療費に慰謝料も上乗せする」


 私はレオンハルト様の話を聞きながら、何者かの悪意を強く感じ取っていた。よりによってエストラントの戦勝記念の、レオンハルト様の祝賀会に毒を仕込むなど、どこの誰が計画したのだろうか。


「アレクサンドラ、この件は内密にしておきたい。協力してくれるか」


 私はゆっくりと顔を上げると、「かしこまりました」と答えた。「ただし条件があります」と、間髪を入れずに付け加える。


「これから調査を行うのでしょう? 私もそこに加えていただきたいのです」


 何かをしていなければ気が狂ってしまいそうだった。アンドリューはこのまま目を覚まさないかもしれない。そうした不安をごまかしてしまいたかった。


 レオンハルト様は目を見張っていたが、やがて「そのように取り計らう」と頷いた。


「お前の気持ちはわかるからな。何せ俺たちは同類なのだから」


 またもや勝手に同類だと言われてしまい、私は抗議の声を上げようとした。だが、直後にはっと息を呑んで取り止める。


 レオンハルト様も重体の知人がいるのではないかと、その人は大切な方なのではないかと思いあたったからだ。そう言えばレオンハルト様も会場で、銀髪の男性を抱き起こしていた。


「あの銀髪の方はご無事だったのでしょうか?」

「ああ、無事だ。だが、やはり目を覚ましてはいない」


 レオンハルト様はぎり、と唇を噛み締める。


「あの男はコンラートだ。俺の従兄に当たる」


 コンラート様は現国王の王弟の子息であり、レオンハルト様より一回りなのだそうだ。兄弟のいないレオンハルト様には兄も同然であり、将来王位についたあかつきには片腕にと望んでいる。同じ剣術の師についた兄弟子でもあるらしい。


 レオンハルト様は膝の上の拳を強く握った。


「首謀者は、決して許さない」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ