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悪役令嬢と金の髪の王子様  作者: 東 万里央
「悪役令嬢と獅子心の黒太子」
23/27

05.Shall We Dance?

 レオンハルト様はなんてことを言うのだろう。あの方は人目というものを気にしないのだろうか。


 私はアンドリューの佇む壁に向かいながら、それとなく近くにいた人々の様子を伺った。あの口説き文句を耳にしていないか確かめたかったのだ。皆何事もなかったかのように談笑しているが、聞こえなかった振りをしているのかもしれない。


 私はほっと溜息を吐いた。あの方は、レオンハルト様はどうも苦手だと感じる。そうして気を張っていたからだろうか。私はアンドリューのもとに戻ると、つい顔を綻ばせてしまった。


 やっぱりこの人のそばが一番ほっとする。


「お帰り、アレクサンドラ」


 アンドリューは空のグラスを給仕に渡すと、私を見下ろし「どうだった?」と尋ねた。


「……? どうって?」

「レオンハルト殿さ。君を口説いていただろう」


 図星の指摘に私は気まずい思いになった。だってと私は心の中で言い訳をしてしまう。だってまさか本当に口説かれるなどとは、夢にも考えていなかったのだから。


 けれども、いくらなんでもあの声は壁までは届かない。アンドリューは「それ見たことか」と言いたいだけだろう。私は気まずさもありつい、「何もなかったわ」と言い張った。


「アンドリュー、心配し過ぎよ」

「ふうん、そうかい?」


 ブルーグレーの瞳がきらりと光る。


「気づいていた? 君が嘘をつく時には、いつも唇の端を噛むんだ」


 私ははっと口元を押さえたが、すぐに嵌められたと覚った。


「……意地悪ね」


 赤くなりつつ頬を押さえる。アンドリューは苦笑しながら、「わかっただろう」と私の肩を叩いた。


「君は魅力的なんだよ。それも、とんでもなくね。そろそろ自覚してほしいな」

「……」


 私は釈然としない思いに駆られながらも、今後はとにかくできる限り、レオンハルト様には近付かないと決めた。もっとも簡単かつ平和な解決法だろう。


「わかったわ……」


 アンドリューは落ち込む私に、「じゃ、俺の番だね」と手を差し伸べた。「ダンスだよ」と悪戯っぽく笑う。


「アレクサンドラ嬢、どうか俺と踊っていただけませんか?」


 腰を少し屈めて目を閉じて、私が手を取るのを待っている。


 あなたは私をどんなふうに誘ってもいいのに、こうして今でも#淑女__レディ__#にしてくれるのね。


 私はくすりと笑って「喜んで」と答えた。指の長いその手を取り二人中央へと進み出る。


「あなたと踊るのは久しぶりね」

「最近、忙しかったからな」


 私たちが微笑み合うのに合わせ、楽団が二曲目の演奏を始めた。アンドリューがリードしてステップを踏み出す。ところがその動きは三小節もしない間に、なんの合図もなく止まってしまったのだ。


 どうしたのかとアンドリューを見上げると、顔色がみるみる青ざめていく。


「アンドリュー? どうしたの?」

「……」


 アンドリューは何も答えない。そして次の瞬間がくりと跪き、喉を抑えて倒れてしまったのだ。


「アンドリュー、アンドリュー……!?」


 アンドリューだけではない。先ほどワインを飲んでいた壁の花の招待客が、様々な場所でくずおれているのが目に入った。エストラントの貴族もいれば、留学中の他国の王族も、アルザンの外交官もいる。


 まさか、あのワインに毒が入っていたの!?


 各国の要人を無差別に狙ったとしか思えなかった。私は「しっかりして」とアンドリューを抱き上げる。


「しっかりして、アンドリュー……!!」

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