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悪役令嬢と金の髪の王子様  作者: 東 万里央
「悪役令嬢と金の髪の王子様」
14/27

14.許されざる者

 ダニエル様が目覚めたのはそれから数日後――。


 これ以降は私はその場にはおらず、すべて王宮の侍女やお父様から伝え聞いた話だ。ダニエル様は初め何が起こったのか、まったく理解できなかったに違いない。眠る間に全てを失っていたのだから当たり前だ。

 

 まず、部屋が代々の王太子に与えられるそれから、一般の王族のものへと変わっていた。リリアンも次期王太子妃としての豪奢な客間から、やはり格下の別室へと移動させられてしまった。それらの仕打ちに抗議をする間もなく、陛下よりこれまでの「褒美」として、 北方伯に封ずる旨を書状にて知らされた。


 北方は寒冷地であり作物が育ちにくい。針葉樹の木材や毛皮が特産品だが、領主としては実入りが少なかった。数代前に前北方伯の家系が断絶してからは、なかなか領主の成り手がおらずに、猟師や木こりの村々だけが点在している。


 その地に、一ヵ月以内にリリアンを連れて移動せよと、書状には淡々と書かれていたのだそうだ。末文には国王の御璽が押印されていた。


 ダニエル様は何もかもが納得できなかったのだろう。書状を受け取るが早いか使者を怒鳴りつけ、召使が止めるのも聞かずに陛下の執務室へと向かった。


 この時、陛下はお父様、アンドリュー、重鎮の数人と今後の予定について話し合っていた。そこにダニエル様が説明を求めて乱入してきたのだ。けれども、ダニエル様は衛兵に槍で十字に阻まれ、陛下に近付くことすらできなかった。


 王太子は次期国王だが、それ以外の王子は臣下に過ぎない。約束のない陛下への直々の謁見など、例え親子であれ、もはや許されるものではなかった。


 ダニエル様は槍の柄を掴み、血を吐くような声でこう叫んだのだそうだ。


「父上、何故です。何故なのです!? 心から愛した女は私の母だけだと、お前だけが息子だと、そうおっしゃっていたではございませんか!! アンドリューなどいらぬと、お前さえいればよいと、そう慰めてくださったではございませんか!!」


 その瞬間、アンドリューの肩が一度だけ確かに震えたのを、お父様は見逃さなかったと言う。


「ダニエル……」


 陛下は一瞬顔を苦し気に歪めたけれども、声を押し殺して冷たく命じた。


「ダニエル、控えよ」


 執務室に伸し掛かった沈黙を破ったのは、陛下でもダニエル様でもない、第三者の高く澄んだ声だった。


「陛下、アンドリュー様! お願いします。私は北方になど行きたくはありません!!」


「……!?」


 思い掛けない人物の登場に、その場の全員が目を見開いたらしい。


――男爵令嬢のリリアンだった。


 やはり北方へ行けとの命令を聞き、客間から駆け付けてきたのだろう。リリアンは衛兵に止められながらも、必死にその肩越しに訴える。リリアンの目はなぜかアンドリューを捉えていた。


「わ、私、この人に、ダニエル様に脅されていたんです。お助けください、アンドリュー様」


「リリアン……?」


 ダニエル様は信じられないものを見る目で、口を開けてリリアンを見つめていたのだそうだ。


「言うことを聞かないと、実家を取り潰すと言われたんです! 本当はこの人と結婚なんてしたくなかったんです!!」


「何を、言って」


「……その小娘を黙らせろ」


 陛下がため息とともに命じるのと同時に、衛兵が素早くリリアンを拘束した。リリアンは髪を振り乱しこう叫んだのだそうだ。呆然とするダニエル様になど、見向きもしなかったのだと言う。


「な、何よ。何なのよ。こんなの、みんなやってたことじゃない。みんな手のひらを返していたじゃない……!!」


 一人は暴れながら、もう一人は魂が抜けたようになって、衛兵らに廊下を連行されていった。




――私はこれらの話を聞きむなしい思いに駆られた。


 そう、リリアン、あなたは間違ってはいない。貴族らは皆やっていたことだ。


 けれども、力のない者にその発言は許されない。

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