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悪役令嬢と金の髪の王子様  作者: 東 万里央
「悪役令嬢と金の髪の王子様」
12/27

12.ベルフォールの民

 アンドリューが第一王子だと証明され、打って変わって謁見の間が静まり返る。皆、アンドリューをどう捉えるべきなのかが分からなかったのだろう。


 条約を締結したとは言え、未だに油断できない敵国の血を引く王子。それでいてベルフォールの黄金時代を築き上げた、リチャード大王そのものの凛々しさ。


 これまでは陛下とダニエル様に傾いていた、皆の心の天秤が激しく揺れ動いているのが、その表情からありありと分かった。


ーー重苦しい沈黙を破ったのは、元開戦派の貴族だった。


 青ざめながらも敬礼を取り、アンドリューの前に進み出る。


「確かに、殿下、あなた様はアンドリュー王子だ。ならば改めてお尋ねしたい」


「……」


「殿下は何をお望みで帰還されたのだ?」


 アンドリューは上着を羽織ると、真っ直ぐに貴族を見据えた。


「無論、俺があるべき場所に戻るためだ」

 

 再び場に緊張が走る。あるべき場所とは王太子の地位なのだと、元開戦派の貴族らが悟ったからだ。だが、誰も異を唱えようとはしない。


 それほどアンドリューはお祖父様に似ていたのだ。古参の重鎮らが陛下の御代となっても、敬愛してやまないお祖父様にーー。


 次に張り付めた場の空気を破ったのは、アンドリューの斜め後ろに立ったお父様だった。斜め後ろは臣下が忠誠を誓った君主にのみ取る位置だ。


 お父様の声が朗々と響き渡る。


「皆の者、この件については陛下もご承知である」


「……!?」


 息を呑む音があちらこちらから聞こえる。私もそんな馬鹿なとお父様を凝視してしまった。ダニエル様を溺愛する陛下が、今更アンドリュー様を認めるはずがない。


「貴殿らの推測通りにアンドリュー様は一度暗殺されかけている。身体の傷跡はその時付いたものだ。更には流行病にかかったのたが、幸いそちらは軽く済んだ。だが、その後陛下はこうお考えになられたのだ」


 お父様は一度言葉を切った。


「あの当時、アンドリュー様は常に命を狙われていた。そこで身の安全を考え、再び公の場に立てる日になるまで、流行病を口実に誰も知らぬ地でかくまうことになったのだ。その間、ダニエル様を王太子代行として立てた……。陛下、そうでございますね?」


 「そうでございますね?」に力が込められる。お父様の目は隠そうともせずに陛下に向けられていた。その視線を受けて陛下の肩がびくりと震える。


「馬鹿な……!!」


 ついに我慢できなくなったのか、元開戦派の貴族が三人飛び出した。リリアンの取り巻きだった、宰相の息子に宮廷魔術師、騎士団長の子息だ。三人は必死にアンドリューに抗議した。


「た、例え、例えばリチャード様と瓜二つであろうと、貴殿にはアルザンの血が流れている。そのような王子を王太子と認めるわけには……!!」


 アンドリューは少しも動じなかった。


「確かに俺の血の半ばはアルザンのものだ。だが、思い出して欲しい。この場にはアルザンの血を引かない者はない」


 騎士団長の子息が「何だと!」といきり立った。


「我らを愚弄するか!! 我々にアルザンの忌まわしい血など一滴も流れてはいない!!」


「いいや、貴殿も間違いなくアルザンの血を引いている。同時に、アルザンにも我が国の血を引く者がいる。なぜならかつて我が国とアルザンは一つの帝国だったからだ」


 アンドリューの言葉にその場の全員が押し黙った。


 そう、確かに千年前、この大陸はある一つの偉大な帝国に治められていた。ベルフォールにもその遺跡が残されている。帝国は長い年月の間に衰え、分裂し、その中で生き残った国のいくつかがアルザンとベルフォールなのだ。


 二国の人種や民族はさほど変わらない。にも関わらず、双方が帝国の後継者を名乗り、長年いがみ合ってきた。


「皆に問いたい。ベルフォールの民たる資格とは何だ? 血か? 姿か?ーーいずれでもないはずだ」


 アンドリューは片手を心臓に当て、ブルーグレーの目を閉じる。


「俺はベルフォールに生まれ、この生涯はベルフォールのためにあると誓った。この国のために生き、この国のために死ぬのだと誓った。その誓いが俺をベルフォール人たらしめている」


 誰も何も言わない。言えないのだ。皆がアンドリューの気高さに飲まれていた。

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