表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
斬竜手段の求め方  作者: 七星かいと
第一章 起部『チュートリアル』
4/41

第三話

 そんなこんなで食事を済まして余剰アイテムをアイテムボックスに片付けた後。次に向かったのは街の西側――様々な生産設備がある、通称職人街だ。まだ正式運営が始まってないからか賑わっているというわけではないが、プレイヤーかNPCか判別できないながらもちらほらと人の姿が見える。ちなみにスズランはマスコットモードに戻ってドランツの肩に座っている。


「じゃあ、まずは木工に行きましょう! とは言え他のプレイヤー様たちがチュートリアルを受けている途中だと教える専門職の方がいらっしゃらなかったりするので、その場合は後回しか、正式運営が開始されてからドランツ様自身で訪ねていただく必要がありますが、よろしいですか?」


「ああ、それなら仕方ない。別に最初から全ての生産を極めていこうとは考えていないし、ぼちぼち必要に応じてやるようにするさ」


 わかりました、と頷くスズランの案内で職人街を行く。服屋だったり雑貨屋だったり防具屋だったりと色々な店が一店舗ずつ並んでいるが、空き家も結構な数がある。シャッター商店街ならぬ、空き家職人街というかなんというか。何故そんなことになっているのかスズランに聞くと、どうやらここの空き店舗は早い物順にはなるがプレイヤーが所有権を取れる家屋らしい。


「プレイヤーの方々で生産スキルを持っている方が生産系の職業を取ると、こういう空き店舗を購入できるようになります。もっとも、職人街にある店舗なので生産設備が後付できたりもすることから結構高価な物件になってるはずですよ」


「つまり暫くはここに店を構えることが出来るプレイヤーは少ないってことか。まぁ、一つの目標として店を構えるってのもありっちゃありだよなぁ」


 自分が打った刀なんかを売れる場所があるのは正直嬉しい気がする。現実だと包丁やらナイフやらは売り物として作っているが、刀はそれこそ自分が使うようでしか作らないのが我が家の伝統だ。我が家作の刀が世に出回ってる場合、それは間違いなく失敗作である。それも、弟子に振らせる事もできないような最底辺の出来で、だからこそ刀鍛冶仲間内で真実を知らない流派からはあまりいい声を聞いたことがない。知ってる連中は苦笑いしか浮かべないが。


「あ、到着しましたよ。ここが木材屋さんです。木工のスペシャリストさんがいますよ!」


 おじゃまします、と挨拶をしながら店内へ。カウンターで彫刻刀を使いながら何かを掘っている女性が、ここの店主なんだろう。


「あらどうも、いらっしゃい。とは言えまだ正式運営前だから商品は売れないけどね。それで? 今のタイミングでここに来たということは、木工のチュートリアルを受けに来たということでいいのかな?」


「ああ、うん。そうなる……なります。受けさせてくれるんですか?」


「そりゃ勿論、それもお仕事の内だからね! 私はヒラガ。まぁ、気軽に職人さんとでも呼んでほしいな! ああ、口調も別に丁寧じゃなくていいからね!」


「じゃあ、職人さんと呼ぶことにするよ。で、木工ってこの世界ではどういう風にすればいいんだ?」


「そうだねぇ。じゃあ、逆になに作ってみたい? 木工についてはそんなに設備とか関係ないから、ある程度は好きに作れるよ」


 職人さんの言葉に少し考える。なにを作りたいか、と言われればそれは勿論刀の柄や鞘だったりするわけだが、それはまた後回しでいいだろう。というか、それをつける刀がなければ話にならない。


「じゃあ、木刀で」


「え? ドランツ様、木刀は先ほどの物を差し上げるとお伝えしたじゃないですか。本当に、木刀でいいんですか?」


「ああ、とりあえず自分でも作ってみたい。刀は鍛えた事があっても木刀を作ってみたことはないからなぁ」


「木刀ね、了解了解。じゃあ、作る材料としては木にのこぎり、鉋、ヤスリかなー。とりあえず、ほい、木材ね」


 職人さんが店の奥に行き、持ってきたのは一本の角材だった。長さはニメートル弱といった所だろうか。


「木工は基本的に現実世界と同じように道具を使って手で木を削ってくわけだけど、木工のスキルを持っている場合についてはうまい事補正がつくんだよね。とりあえず、まず作りたい物を思い浮かべながらその角材を見てごらん。きっと、おおまかにどの長さにすればいいのか、どこを切り分ければいいのかがわかるはずだ」


 言われて角材に目を凝らす。今から作ろうとしているのは、普段自分で使っている刀と同サイズの木刀だ。長さは大体七十センチメートルほどを想定している。この長さと太さの角材ならば同時に4本程度は作れそうだ。そんな事を思いながら角材を眺めると、うっすらと光のラインが浮かび上がり、角材を四等分するための切り場所を明示していた。


「なるほど、これが木工スキルの効果なのか……」


「お、ちゃんと見れたようだね。後はそのラインに従って切ったり削ったりを繰り返していくわけだ。最後の仕上げになるヤスリ掛けなんかでもスキル補正がつくんで、削り過ぎたりはしないと思うよ」


それは便利だ。現実世界ではその辺りどうしてもさじ加減が難しくなるので、こういったシステム補助はほんとうに有難いと思う。さて、ではまず角材を4等分にするところから始めていこうか。





「うーん、こんな感じでいいものか」


 初めて作り上げた木刀四本を目の前に置いて、その出来を見る。ちなみに鑑定してみた結果はこうなった。



 初心者の木刀 ランク一

 木工初心者が作った木刀。

 攻撃力五 耐久力三○ 武器種別:刀 攻撃属性:打撃 特殊能力:無し



 弱い。というか脆い。やはり木で作った武器だからか、耐久値がそれなりの値しか無い。全て一律でこれなので、作成の質としてはいいのかもしれないが判断がつかない。


「うん、中々の出来じゃないかな? 初めて作ったにしてはいい感じだと思うよ。というか攻撃力が五も付くのは予想外だったね! 普通今の材料で作ったらニくらいになるんだけど……今回はしっかり刃の部分ができてるからかな。とりあえず木工についてはそんな感じで木材を使ってなにか作る度に経験値が溜まってく認識でいいよ。材料となる木材に関しては、周囲の森から伐採してくるも良し、この店で購入するも良し、という感じかな。道具は購入もできるし、ここで貸し出しもやってるよ」


 もちろん貸出料とるけどね、と職人さんは笑う。まぁ、当然だろう。


「木工のスキルを育てていくと、最終的にどんなことができるようになるんだ? 今のところ、普通に日曜大工範囲であれば最初から出来そうな気はするんだけど」


「そうだねぇ。最終的に、というのが幾つか方向性あるんでなんとも言えないところではあるけど、武器としてなら極上の打撃武器が作れるよ。チュートリアルに参加してるって事は、ここに来るまでに一回は戦ってるんだろう? その時使った武器に、金剛不壊って特殊能力がついてた筈だけど、それを自由自在につけれるようになる。特殊な方法を使えば鍛冶で作った武器と合わせることでその特殊能力を付けることも出来る。まぁ、どちらにしろそれができるようになるのは熟練の先、極みに達してからだろうけどね」


 なるほど。これで、目標の1つが定まった。木工を極めて、金剛不壊を持った武器を自在に作れるようになること。道は長いだろうけど、だからこそ挑み甲斐がある。

 余談だが、木工スキルを一〇〇まで上げると木工職人見習いの職業を得ることができる。そうすれば、もっと効率よく色々なアイテムを作れるようになるのだとか。


「わかった、ありがとう。極めて見たくなったよ、木工の道」


「そりゃよかった。まぁ、先達として言えることと言えば、かなり道は厳しいよ? そう簡単にはレベルが上がらないし、材料調達も大変だしね」


 話を聞くと、さっき説明されたように自分で採取するか買うくらいしか素材を集める手段がないらしい。それも基本的に販売単位が丸太一本とかの単位になるため、金がかかるのだとか。

 例外として植物系のモンスターを倒した時のドロップで素材が出ることがあるらしいが、アインザム周辺には普通の森がないので次の街までは購入しか出来ないと説明が追加された。

 初心者に優しくない仕様だな……。


「それでも、目指す価値はあると思ったのさ。んじゃ、ここはこれくらいにして……鍛冶に行こう、スズラン」


「…………」


「スズラン?」


「…………すぴー」


 呼びかけても声がしないので視線を下げると、いつの間に用意されたのか小さな椅子に腰掛けて寝ているスズランがいた。


「……まぁ、いいけどさ。なぁ、職人さん。鍛冶屋にはどう行けばいい?」


 スズランを起こさないように手に抱え、先ほど作った木刀をアイテムボックスに入れながら質問すると、微笑ましいような表情を浮かべた職人さんが手を動かし、右の壁を指差す。


「すぐ隣りさ。あそこは五月蝿いからね。そのおチビちゃん、起こさないようにするなら預かっとこうか?」


「あー、まぁ、そうだな……。それじゃあ、お願いしようかな」


 了解さー、と返事を返してくれた職人さんにスズランを託し、隣にあるという鍛冶屋に移動する。


「ごめんください」


「ん、おお、いらっしゃい。何の用だい――ってもこの時間帯に来るってことは、チュートリアルを受けにきたってことか」


 開いている入り口をくぐり、中に入る。外からは見えなかったスペースをひと通り見回してみるものの、ドランツ以外にプレイヤーは居ない。店内にはこの店の主であろう壮年の男性が一人、カウンターに腰掛けていた。


「ああ、はい。鍛冶のチュートリアルを受けに来ました」


 先ほどの職人さんの時とは異なり、今度はスムーズに丁寧語を出すドランツ。鍛冶職人としての先達として、そこの主に敬意を無意識で払っているのだ。


「了解了解、んじゃぁ、教えてやろうかね。俺の事はまぁ、親方とでも呼んでくれ。それじゃあ、さっそく説明するか。工房は奥になるから、ついてくるといい」


 そう言うと、親方は『作業中、用がある場合は鈴を鳴らしてください』と書かれた板をカウンターに掲げ、店の奥へと入っていく。言われるままにその後ろをついていくと、鍛冶場へと通された。


「じゃあ、鍛冶についての説明だ。まず、基本的に鍛冶場の機能を使えるようになるには鍛冶師という職業が必要になる」


「鍛冶師見習いを超えるわけですか」


「そうだな。実際に火を使って鉄を溶かしたり、焼き入れなんかを行えるのもこの段階からだ。それまでは、疑似鍛造と呼ばれるやり方でしか鍛冶ができない」


「疑似鍛造……?」


「まぁ、説明するよりも実際にやってみた方が早いだろう。とりあえずほれ、ハンマーと材料になる屑鉄だ。まずは、屑鉄を目の前の炉に投げ入れろ」


 指示通りに鉄屑を投げ入れると一気に炉の中で火が猛り始める。しかし不思議とこちらへ熱が来ない。実家で鍛冶を実際に行っている身からすれば、正直違和感が酷いがゲームとして考えればこんなものなのかもしれない。


 どうなるのかと見ていると、親方から肩を叩かれ、炉から少し離れた位置にある鉄製のテーブルへと連れて行かれる。テーブルの上には銀色の作業台みたいなものが置かれており、その手前にシステムウインドウみたいなものが浮かんでいる。


「そんじゃ、次は形状を選ぶ。テーブルに武器の絵が描かれたアイコンの出てるウインドウがあるだろう? それの中から、作りたい武器のアイコンを選べ」


 当然、刀を選ぶ。すると作業台の上に、刀の形状をした真っ赤な何かが現れた。


「それが、疑似鍛造で使用する武器魂と呼ばれるもんだ。それをハンマーでぶっ叩く事で炉の中に入れた材料が鍛えられ、武器として生成される。原理はまぁ、単純に言えば精霊やら魔法やら技術の力だってことになるんだが――深くは聞くな」


 たぶん、親方もよくわかってないのだろう。とりあえずこれを普段鍛えているみたいに叩けばいいのだろうが、熱を感じないし実際に赤熱した鉄が目の前にあるわけでもない。さて、どこを叩けばいいのだろうか。そんなことを思いながらハンマーを握って武器魂の前に立つと、一か所に丸く黒い印が浮かび上がって徐々に色が青へと変わりだした。


「武器魂に出てきた印があるだろう? それは叩く場所とタイミングを教える物でな。作る武器の難易度が高くなれば高くなるほど叩くタイミングが難しくなるし、回数も多くなる。まぁ、鍛冶師見習いになるまではそんな難しくはならないから大丈夫だと思うが」


 ――音ゲーか!

 若干頭を抱えたくなったが、とりあえず黒い印が青に染まりきったタイミングでハンマーをその印へと叩きつける。すると叩いたすぐ隣に再び印が出てきて、また黒から青に染まり始めた。


「そうそう、いいタイミングだ。叩く力やタイミングによって、最終的に出来上がる武器の性能が変わってくるからな。頑張れよ。んじゃ、俺はカウンターにいるから、それが打ち終わったら呼びにきな」


 そう言って鍛冶場から出て行った親方はとりあえず気にしない事にして、徐々に印の数や色が変わるタイミングが早くなってきた武器魂をガツンガツンとハンマーでぶっ叩いていく。普段は自分のリズムと感覚で刀を鍛えているので、それが狂わされるこの状況は正直やりずらい。集中力を高めなければ失敗しそうだ。


「まぁ、実際に鍛冶に携わってる人間として、失敗はしたくないけどな!」


 そんなこんなでテンションを上げながらハンマーを振り続ける事十数分。武器魂が眩く発行したかと思うと、銀台の上から姿を消していた。


「お? あれ、これで終わり……か?」


 きょろきょろと周囲を見ますと、炉の隣にあった銀色の箱が白い煙を伴って開く。


「……凝ってるなぁ」


 昔にアニメで見た発明品の登場シーンみたいだった。ともあれ、空いた箱に歩み寄り中身を確認すると、そこには一振りの刀が置かれていた。


「この世界で最初の一振り、か……。まずは鑑定だな」


 呟き、鑑定を発動。



 数打ちの刀 ランク一

 ごくごく普通の刀。大量生産に向いており、質はさほど高くはない。

 攻撃力五〇 耐久力三○ 武器種別:刀 攻撃属性:斬撃 特殊能力:無し



「数打ちか。まぁ、鉄の質も屑鉄ってぐらいだから良くなかったんだろうし、」


 しかしそれを使って普通の刀に仕上げられたのは僥倖だ。これなら、普通の鉄を使えばもっといい刀を打つ事もできるだろう。ともあれ、刀も打ち終わったので親方に声をかけに行く。


「お? もう終わったのか、なかなか早いな……。よし、んじゃ、打った刀を俺に見せてみろ」


「はい。まぁ、初作にしてはそれなりのを打てたかなぁ、とは思いますけど、満足には程遠い品ですね」


「あの屑鉄からそんなの打たれちゃ俺らがおまんま食いっぱぐれるわ! でもまぁ、ふぅん……。なるほど? あんな屑鉄からこれを打つかよ」


 ドランツが手渡した刀を眺めながら、親方は難しい顔でしみじみとうなずく。何か問題でもあるのだろうか。


「なぁ、お前さん。現実世界で鍛冶やってたか、あるいは疑似鍛造の方式に慣れてたりするのか?」


「え? まぁ、現実でも鍛冶はやってますし、音ゲーもそれなりに遊んだことはありますが、それが何か?」


「いや……。つーかそうだな、これだったらお前さん、とっとと鍛冶師の職業身に着けた方が良さそうだな。疑似鍛造より、そっちの方がいい刀を作れそうだ。まぁ、普通の鍛造が出来るようになった後も擬似鍛造はできるから、苦手な物を作ったりする時はそっちを利用するといい」


 ありがとよ、と礼を言いながら刀を返してくる親方の様子に首をかしげていると、鍛冶屋の入口がずばんっ、と開いて普通の人型となったスズランが泣きそうな顔で現れた。


「ドランツ様ぁー! 急にいなくならないでくださいよぅ、私は、私は捨てられたのかと思って不安でしたよ!」


「人聞き悪いことを言うな!? スズランが気持ちよさそうに寝てたから起こすのも悪いかなって思ったんだよ。一応、職人さんにここへ行くことは言づけてあったから大丈夫だと思ったんだけど……。まぁ、その分だとダメだったみたいだな」


 よくよく話を聞いてみると、どうやらスズランが起きた時に職人さんが丁度席を外していたらしい。行き成り誰もいない場所に投げ出されたスズランはパニックを起こして泣き、それを聞きつけた職人さんがドランツの場所をスズランに教えて今に至る、という訳らしい。


「なんだぁ? ずいぶんとサポーターの嬢ちゃんに気に入られてるじゃねぇか、お前さん。その分だと、この時間が終わった後も使い魔として関係を続けられるんじゃねぇか?」


「まぁ、何でかわからないですけど、懐かれましたからねぇ……。んで、その使い魔ってのはなんです? いや、意味は分かるんですけど」


「ああ、使い魔ってーのは、主となる奴と契約した存在のことだ。チュートリアルの最後、サポートしてるナビゲーターがお前たちを気に入った場合にのみ、その契約を申し出ることがある」


「……なるほど。でも、それって言っていいんですか?」


「かまいやしねぇよ、それくらい。目に見えて懐いてるんだから、どうせそうなるだろうしな。いきなり言われて面食らうよりは事前知識あったほうがいいだろ?」


「いや、そりゃそうですけど……。ほら、スズランが目に見えて膨れちゃって」


 ぷくぅ、と頬をふくらませるスズラン。ぽむっ、と音を立ててマスコットモードになると、そのふくれっ面も可愛らしい。


「ええっと……あ、そうだ。親方、聞きたいことがあるんですけど」


 気まずさをごまかすために、同じようにあちゃー、という顔をしていた親方へと話を振る。もっとも、聞きたい内容は最初から用意してあったものなので、強引にごまかすというわけでもない。


「質の良い鉄を得る方法ってどれくらいあります?」


 気になるのはそこだ。

 多分今回使用した屑鉄は鉄のカテゴリ内でも最低ランクの代物だと思われる。なにせ、頭に屑が冠されている位なのだから。


 良い刀を打つには当然良い材料が必要になる。それは勿論現実世界でもそうだ。この世界ではどうかわからないが、少なくとも良質の鉄――玉鋼を得るためには刀匠であることが必須であるし、品質が高いものは勿論高いし数も少ない。


 この世界に玉鋼という存在があるのかどうかもまだ分からないが、自作できるものなら自作してみたい。もっとも、たたら精鉄のようなやりかたをする必要がある場合、それこそ設備を作るところから始めなければいけない気がするが。


「んー、そうだな。まず第一前提として、この第一の街では屑鉄以外手に入らない。俺なんかは別口のルートがあるんで手に入れることはできるが、それは商品を作る材料であって売る事は出来ねぇ」


「となると、第二の街では手に入るんですか?」


「質が良い、と言えるものかどうかは微妙だがな。それでも、第二の街からは鉱石を買うことが出来る。第二の街周辺に採掘が出来るダンジョンもあるからな。自分で採掘してきても問題はない」


 なるほど、と頷くドランツとドランツが手にしている刀を交互に見やりながら、親方は試すような笑みを浮かべる。


「なぁ、お前さん。腕に覚えはあるのか?」


「え? まぁ、それなりに。この世界でどれくらい戦えるのかはまだ正直わからないけど、正直北門から出たところにあるフィールドだったら問題なく一人で進めるとは思います。本格的に旅するのは明日からだからなんとも言えないですけどね」


 実際、今日倒したモンスター程度であれば鼻歌交じりに突破できる自負は持っている。もっとも、周囲を大量の数に囲まれれば、そんなドランツと言えど死を覚悟する必要はあるかも知れないと認識はしている。


「なら、そうだなぁ。もしこれから特にやること無いんだったら、試しに『西の街道』に行ってみると言い。そこからニ〇キロメートル程度離れた場所に、『鉱生の森』っていう大森林がある。そこの外縁部は通称『鉄樹の森』と呼ばれててな。出てくるモンスターは鉄を主食にして、体組織も鉄化しているのが多くいる。西の街道もだが、鉱生の森に出てくるモンスターのレベルは正直北の街道に比べると天と地ほどの差があるし、第二の街近くにあるダンジョンと比べても雲泥の差だ。だが、今の段階でもしそこに足を踏み入れて問題なく探索できれば、見返りはものすごいぞ?」


 どうせチュートリアル中だから死んでもペナルティ少なくて済むしなぁ、なんてカラカラと笑う親方。その情報が正しいのかスズランへ視線を向けると、目を見開いて驚きの表情を浮かべた彼女と目が合う。


「ちょ、ちょちょちょちょー!? 待ってください待ってください! 親方様! 鉱生の森って言ったら、第五の街へ向かうためのルート上にある場所じゃないですか! あんなところ、初期装備のチュートリアルで行かせるような場所じゃないですよ!?」


「まぁ、そりゃそうだがよ。でも、良質の鉄が欲しいんだろう? お前さんは」


「ええ、欲しいですね。できれば早急に」


「だってよ。チュートリアルが終わるまで、行けるのはアインザムの周りにあるフィールドやダンジョンだけだ。その中で鉱石を得ようと思えば、行けるのは鉱生の森か第九の街方面にある『試龍の洞窟』ぐらいだぞ? いくら俺でも流石に試龍の洞窟に行けとは言えねぇしなぁ」


「あ、あ、あんな実装されてるけど序盤どころか終盤まで自殺の名所にしかならない心折設計のダンジョンにドランツ様を送り込めるわけ無いじゃないですかぁ!?」


「一体どんな場所なんだよ、その試龍の洞窟っていうのは……」


 酷い言われようのダンジョンに興味が湧くが、必死の表情を浮かべるスズランから絶対に行かないでほしいとお願いされたのでこれから行くのは止めておく事にする。とは言え、先に親方が言っていた鉱生の森には是非とも行ってみたい。それをスズランに伝えると、傍目で見てわかるほどに肩を落とした。


「ううぅ、ドランツ様がそうおっしゃるなら、まぁ……。試龍の洞窟に行くなんて言われるくらいなら、まだマシですし」


「まぁ、今の装備じゃ中々に厳しいだろうが、それでも物は試しだ。暇なんだったら行ってくればいい。さっきも言ったが、今の間ならまだ死んでもペナルティは関係ないしな。チュートリアルの時間が終わればリセットされるし、今の時間は丁度昼前位だから……。行って死んで帰ってくる頃には夕方になってんだろ」


「死に戻り前提ですか」


「そりゃそうさ。いくらなんでも、駆け出し未満の冒険者があそこを突破できるとは思ってねぇよ。行ってみろって言ってんのも、良質の鉄を取りに行く為の障害を最初に肌で感じ取っとけ、くらいの意味合いだしな」


「まぁ、そうですよねぇ。第五の街ってまだ実装されてないはずだし……」


「アン? 実装されてないわけじゃない。あることはあるぞ――行けないだけで。第五の街に行くには鉄樹の森を抜けた先、鉱生の森中心部にある大渓谷を渡らなきゃ行けないんだが、その大渓谷にかかってた橋がこの間『鉱龍ファフニール』っていう龍に叩き落とされたんでな。修理が終わるまでこの街からは行けないんだよ」


「ああ、なるほど。そういう事になってる訳ですね……」


 ご都合主義というか、なんというか。というかスズランと対応している時にも何度も思ったことだが、この親方もこの世界がゲームであると普通に認識している事実にドランツは内心で驚きを持つ。やはり、この世界にいるNPCは第九世代に近い気がする。


 職人さんもそうだが、普通にチュートリアルとか言葉に出していたし、決められたことだけをこなす対応のAIでは確実にないような気がするのだ。

 やはり何かの機会があればスズランにしっかり聞いてみようと、ドランツは心に決める。

 そしてはたと、先ほど親方が言っていた第五の街にいけない理由の原因について尋ねる。


「で、親方。その鉱龍ファフニールって、何なんです?」

お読み下さりありがとうございます。

数字の表記方法や地の文の改行等、見づらいとかご意見ありましたらよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ