それは水面下で進むもの
カランコロン
「っらっしゃーい」
フードをかぶっている怪しい人物が来店した、ここはパスタ屋。
謎の人物はカウンター席のマスターの目の前に陣取った。うつむいているうえにフードを深くかぶっているので顔が全くうかがえない。怪しい。
「ご注文は?」
『メニュー表つくりましょうよ……』
「いいんだよ。大体テキトーにやってるから」
『テキトーってなんですかテキトーって!!』
「うっせ。んで、なんにします、お客さん?」
「……」
「お客さん?」
「……」
マスターが話しかけても返事をしないどころか、先ほどからピクリとも動いていない。
「お客さーん? テキトーって言ってもちゃんと作りますから。その辺は心配なく……」
「……ねぇ、ここはどんなものを扱ってるの?」
少年のような少し高めの綺麗な声。
「ハ? あ、あぁ、パスタ屋だからな。スパゲティから、ラザニアとか、いろいろ扱ってるぞ」
「うーん、もっとふわふわしたものも扱ってない?」
「ふわふわ? 卵とかトッピングってことか?」
「うぅん、そういうのじゃなくて、噂とか、そういうの」
「……お客さん、俺にはあんたが何言ってるのか……」
嘘くさい笑みでやんわりやめろ、と言ってみる。
「情報とか、そういうの」
「……お客さん、悪いこたぁいわねぇよ。誰に何言われたんだか知らねぇが、ここにはあぶねぇ情報屋しか来ねぇからな? そういうのきかれたら、あんたがどうなるかなんて……」
「僕は、あなたに話しているんだよ、ねぇ、パスタ屋店長兼裏情報屋さん?」
「……」
マスターは厳しい顔にかわって、カウンター下から銃をだし、フードの人物の頭に押し付けた。
「お前、一体何もんだ?」
「……」
「何が目的だ、あ?」
「……」
「!?」
銃を突きつけられている、危険な状況にもかかわらず、その人物は顔をあげて、フードに隠れていなかった口を、満面の笑みの形にゆがめた。
「お、お前……?」
「♪おしゃべり雀は舌切り雀。とある王の怒りに触れた。しゃべりすぎは厳禁で、舌を切られて絶命す♪」
「ハぁ?」
「とある王は簡単に、雀の死体をゴミ捨てた♪」
「とある王って、トアル王のことだよな? ゴミ捨てた? 雀?」
「興味出てきた?」
「……さぁな」
「……もう一息かな?」
「……」
「♪とある王と前王妃との子、呪われ髪とさげすまれ、閉じ込め、誰にも見られぬよう、闇の中に隠された。その子の行方、今どこに? 生きてることはわかってる。けれども王子は今どこに?♪」
「王子!? そんなわけ……っ!!」
うっかり驚いてしまった。そんなことは情報屋にとって命とり。
「だけど知ってる僕は知ってる。あなたはそんな存在を求めてることも……♪」
「……!?」
「だってその方が、簡単に今の王を殺せるから。呪われているなんていうのはもうこの際どうでもいい。だって王子がいれば、代わりの王ができるから。今の王はいらないと、捨てることができるから♪」
「お前、何を知ってる……?」
「あなたの両親はトアル王に殺された」
「なんで!?」
「紅に染まる男女の体。あなたはそれにしがみついて泣くことしかできなかった」
「やめ……」
「いや、もう一人の存在を思い出して、あなたは強くなろうと決めたんだ」
「やめろ……」
「お姉さんかな。いつもは強いお姉さんだった。でも泣いていた。動けなくなるほど泣いて……」
「やめろ!!」
ばぁんっ!!
「……弟君? 人は簡単に撃っちゃけないって、何度も言ったよね?」
「あ、姉貴……!?」
カミスキの鎖鎌が、銃を弾き、弾は天井にのみこまれた。
「あ、あなたがおねえ……」
だんっ
「君も、弟君を傷つけるつもりなら、私も本気出して怒らないといけないねぇ?」
鎌の部分を思い切り目の前に突き立てる。
「え……」
鎌のことなんて気にせず、マスターを見る。怒りと悲しみと悔しさがまじりあった、嫌な表情。
「ご、ごめんなさい!! そんなつもりは……」
「じゃあどういうつもりなんだよ!!」
「ご、ごめん。交渉には強気で出ないといけないって言われたから」
「誰にだ!」
「盗賊!!」
「あいつかよ!!」
「とりあえず、ユキちゃんには後でお仕置きしないとだねぇ……」
「あ、盗賊と会ったのも、その時みたいだね?」
「……お前、反省という言葉を知ってっか?」
「あ、ご、ごめんなさい……」
「はぁ、まぁ、いい。お前は。今度会ったらあいつに全部ぶつけてやる……こんな情報まで洩らしやがって……」
「あ、それはやめて! 僕が今度の今度怒られちゃう!! って、違うよ!? 今のは僕が……」
「……ふんっ」
「それで、ユキちゃんがまわしたってことはぁ、どういうことかなぁ?」
「……」
「さっきの話も気になるが」
「……もう怒ってない?」
「……仕事はまた別だ」
「……本当にごめんなさい」
「いいから、何しに来たんだ?」
「うーん、反乱のお手伝いしてほしいなと思って」
「反乱?」
「うん。今の王様、最低じゃん? だからさっさと退位願おうかなと思って」
「……だいぶ軽々しくとんでもないこと言いやがるな」
「うふふっ、何だかユキちゃんみてるみたい」
「確かに、あいつも適当なやつだ……」
「盗賊、結構言われてるけど……まぁ、仲いい人がいっぱいいるみたいでよかった」
「とんでもねぇ! 仲いいとかいうなよ!」
「え」
「ただの商売相手だ」
「えぇ」
「うふふ、もう、弟君は素直じゃないんだから」
「うっせ」
「弟君は、実はねぇ……」
「バカ姉貴!! ナニ口走ろうとしていやがんだ!!」
「……」
じゃららららっ!!
「いって!!」
「お姉さまに向かって、その口のきき方はなぁに?」
「わ、悪かったっての!!」
「よろしい。うーん、新しく鎖かえたんだけど、これダメかなぁ。音がうるさいし」
「勝手にしとけ!!」
「はいはい~」
「……仲いいんですね……」
「そうか? それほどでもねぇと思うけどな?」
「いえ、うらやましい限りです」
「……なんでいきなりそんな敬語なんだ?」
「……いえ、別に……」
「?」
「えーっと、お話お話。どこから話そうかな……」
「まず最初に言ってた雀の話聞いてもいいかなぁ?」
「ああ、あれはメイドの話です」
「メイド?」
「メイドは王宮内外、何でもアリですけど、噂話が好きなものです。それをうっかり王に聞かれて……」
「舌切られて殺されたってことか」
「ゴミ捨てってことは、どこかに放置でもしたの?」
「さぁ? そこまでは。ただ、死体を蹴ったり、ごみのように扱ったことは確か」
「……ホントにダメ王だな」
「そう。そうなの。だから僕が動いたの」
「ハぁ?」
「さっきも言った反乱。王子がいればそれは容易。メイドを殺して何も思わないどころか、ごみ扱いするような王は、さっさと表舞台から消えてほしい、というのが僕の思い」
「んで、その王z……」「しかも!」「……」
「しかも、トアル王は、魔国に侵攻しようと、準備をしている」
「なっ!?」
「もう噂になってる。噂噂、みんなが言ってるあの噂。とある王が魔王不在の魔国を狙ってる。卑怯な手段で攻撃しようってう・わ・さ♪」
「そんなことして、完全に国交が断絶するぞ!?」
「……ねぇ、だから協力して。魔王にもパイプもってるんでしょ?」
「そら、まぁ、ないこたぁ、ねぇけど……」
「噂を撒いて。あの王は最低だって。魔族に敵意を持ってるのはみんな知ってる。だけどこのままじゃ、人間にも牙をむく。戦争になったりしたら、搾取される」
「だろうな。けどよ、そんn……」「さらに!!」「……お前、さっきから話さえぎってくるけどよ、なんか恨みでもあんのか?」
「……さらに!!」
「聞け!!」
「王弟の協力付だぁ!!」
「たたき売りみたいに言ってんな!!」
「弟君はツッコミだよねぇ」
「今そんなこと言ってる場合じゃないだろ!」
「そうだねぇ。……あの弱弱しい王弟が協力してくれたとして、どうなるのかな?」
「そうだね。でも、民草とは仲いいのが王弟だ。それに、ちゃんと仕事はしているし、ね」
「……そうか」
「なるほどねぇ」
「強くは言えなくとも、ちゃんと信頼を得ている。トアル王よりはよっぽどマシかもね」
「……そろそろ王子とやらにt……」「あぁ! そうだ!!」「……いい加減に話しやがれぇ!!」
「あははっ! 怒鳴ったくらいが勝ちだって言われたんだよね!」
「……あんのバカ盗賊ぅ……」
「弟君はいじられキャラなのかなぁ……?」
「あ・ね・き……?」
「こわいこわぁい」
「……」
「王子の話は不安定。呪われ髪だっていう噂」
「何があったかわかるのか?」
「うーん、実際に呪われているわけではないらしいけど、髪色が極端に薄かったんだ。両親ははっきりした髪色だったから、余計にビビられちゃったんだって」
「ふぅん?」
「今はどこに? って言ってたが?」
「うん、逃がしてもらったり、成長したら、自分で脱出が得意になったりして、ふらふらしていたらしいよ。軽く五年くらいは行方不明だったらしいけど、最近は戻ってきてるって」
「……閉じ込められたのに、行方不明で騒がれねぇのか? てか、いくつだ?」
「閉じ込めたら閉じ込めっぱなしだからね。食事なんてものも、思い出したら渡そうかなぁ、くらいのものだし、王にとってはなんとして忘れたいものでしょ。歳なんてわからない♪」
「……王子様も大変だねぇ」
「教育とかそういうのはちゃんとされてねぇだろ? 今更そんな王子のこと担ぎ上げても……」
「そうだね。だから王弟が次の王になるのがいいと思うのが僕。でも、王弟だと押しが弱い」
「そうだねぇ。でも、王弟を宰相に、王子を王に、ってした方が何かといいと私は思うよ?」
「いきなりそんな奴いました。そいつが王になります! で、納得するのか?」
「まだ未知数に賭けたくなるのが私。それに、王の娘はいわゆるオヒメサマ。宝石とかドレスとかにしか興味がないし。現王妃は頭はいいが政治向きじゃない。正統に王家の血を継ぐのはその辺だけだよ。薄くなってもいいなら当てはあるけど、それだといろいろ問題もある」
「今よりゃましだろ?」
「だけど“王”の価値がなくなる。そうなると」
「そうなると、王家が崩れていく。よって、国も崩れ始める。それもどうしても阻止したいよね」
「……分かったいいだろう。その依頼引き受けた。王子を次の王にするように反乱の手伝いだな?」
「……うん。でも別に、王子を王にするしないは国民が決めることだから、とりあえず、落ち着くまででいんじゃね? くらいでお願いするよ」
「適当だな……。んで、報酬は?」
「そうだね、王子の情報じゃだめなの?」
「依頼に含まれてんだろ? 内容は依頼の方で聞くしなぁ」
「んじゃ、髪を……」
「姉貴は黙ってろ」
「けちだねぇ」
「うっせ」
「どうしようかな。……あ、じゃぁ、君たちの家、は?」
「……家?」
「元々君たちの物だから、報酬ってのはおかしいかもしれないけど、返せるようにするよ」
「……いらねえ」
「……そう」
「家、まだあったの?」
「うん、誰も手を付けていないみたい」
「そう、じゃ、報酬、それぶちこわして燃やして」
「姉貴?」
「え、壊しちゃっていいの?」
「あ、あと、王様をすこぉし痛い目にあわせてくれればいいや」
「え、あぁ、それはいいけど……」
「姉貴、いいのか?」
「うん、弟君は、どうするの?」
「……俺もそれでいいや」
「い、いいんだね? わかったよ。じゃぁ、契約成立?」
「おぉ」「うん」
「では、お願いするね」
がたっ
「撒いてほしい情報は、王子がいること、彼は普通くらいにはまともだと思うし。それと、魔国に侵攻しようとしていること。そうなったら搾取されること。魔王がいいヒトなのはほとんどの国民が知ってることだからいいとして、とにかくトアル王は最低だってこと。みんなの不安煽って、爆発寸前までストレス溜めてほしい」
「そこは情報屋の腕の見せ所だねぇ」
「姉貴、よろしくな」
「まかせといてぇ」
「そのうちまた来るよ。そしたら反乱するぜ、っていう噂を撒いて。そしたら……」
「了解」
「……ご協力感謝します。では、失礼します」
からんころん……
「私もいってくるね、弟君」
「その前に作戦会議な」
「あ……」
「まずは……」
……




