魔王ニャンニャン記
『やっと、やっと、全員のターンが終わったところで、ここから本編(?)です』
『その日はとても寒い雨の日でした。人間界、トアル国では謎の大寒波に見舞われ、雪が降った地域もあったそうです。勇者の住んでいる地域は雨で済んだそうですが、わざわざ暖炉やもっこもこの暖かい服やストーブなどを出さなくてはいけないほどだったとか』
『魔界、魔国の方では逆に大熱波に見舞われ、外に出たら干からびる! くらいだそうだとか?』
「さすがにそこまでじゃねぇけど、あぢぃぃぃ」
遮光用に白マントを被った暑苦しそうな魔王がだれている。ちなみに下の服は普通の庶民的服装。
『魔王様、何処へ?』
「避暑」
『簡潔で何よりですが、目的地……』
「暑く無けりゃいい」
『……』
『そうして雨の降る、冷たい街に……』
「なーぉ」
「?」
「なーぉー」
「??」
「みゃー」
「!?」
ぼろい段ボール箱に黒い子猫。ベタな感じに、『拾ってください』
「なーお?」
猫、大きな銀の目で見上げる。
「ゆ、勇者ぁぁぁぁ!!」
「な、なんだ? ずぶ濡れじゃないか、どうしたんだ?」
いつもの騎士服勇者。だが、ゆったりしている。帯剣なし。髪もおろしている。
「こ、こここここ、これ!!」
魔王、勇者に子猫を差し出す。
「はぁ? ……!!」
「みゃーお」
ぷるぷる
「ど、どどどどーすんだこれ!?」
「どどどっど、どうしよう!?」
くちゅんっ
「かわいっ! じゃなくて!」
「風邪ひいてるのか!?」
「そ、そういえば冷たいよ!? めっちゃ震えてるけど、これ寒いから?」
ブルブルブルルルル
「あ、温めればいいのか? それともまず乾かした方がいいのか!? と、とりあえず中はいれ!」
部屋の中は暖かい。勇者の家は小さめで、一人暮らしにはちょうどよさそうな一軒家。暖炉と、床に魔法陣付のカーペットを引いて床暖房もしてあるらしかった。
「風邪ひいてたら薬とかもいるのかな!? 何をどうすればいいんだよ!?」
「私が知るか!!」
「誰か―ヘルプミー!!」
「あ、あいつは!? 盗賊! あいつ薬の扱いも知ってたし、猫相手でも治療とかできるんじゃないか!?」
「さすが謎の人!! でも、なんか俺ら主役よりもハイスペックじゃね!?」
「腹立つが、とりあえず猫が大事だ! 携帯携帯! 連絡連絡!! あぁ! 私あいつのメールアドレスしか知らねぇぞ!?」
「電話電話!! えっと、確か……」
ぷるるるる、ぷるるるる
『はいもしもし? 盗賊ちゃんです』
「あ、よかっ……」
『申し訳ないんですけどー、いま盗賊は電話に出られないかー、知らない人の電話番号だから出ないかー、電源を切ってるかー、めんどくさくて出たくないかだと思いますっ』
「はぁ!?」
『御用のある方は、とりあえずメッセージを残せばいーと思いますっ。ピーッとなったら言ってくださいね? ピー』
「これ留守電かよ!? 無駄な時ばっか出てきやがって、この役立たず!!」
『ちょ、そんな言い方はなんじゃなーい!?』
「盗賊!?」
『ちょっと薬の調合してて手が離せなかったのよ! 悪かったわね!』
「盗賊ぅぅぅ!!」
『え、なに!? 本気で何!?』
「猫が、猫がぁぁぁ!!」
『状況説明。意味わからないと状況は刻一刻と悪くなるばかりだよ?』
「かくかくしかじかで……」
『なるほどね。とりあえず、温めようか? お風呂いれて、ドライヤーで乾かして。ドライヤー、ある?』
「あるぞ!」
『そしたら……ううん、とりあえず、それで! 今すぐ行くから! 猫ちゃんきれいにしてあげてね?』
「もちのろんだ!」
『おーけー。あ、この前あげた石鹸なら使えると思うから使ってね。じゃ、支度するから、またねっ』
ツーツーツー
「勇者、お湯、お湯!!」
「そこに薬缶がある! 水はそっちの方な! 容器は……この桶で足りるか?」
「火炎魔法呪! よし、こんなもんか? んで、水と合わせてちょうどいい温度に……って、ひと肌位!? もっと熱め!?」
「少し温かいくらいの方がいいんじゃないか? たぶんだけど!!」
「よっしゃ了解!」
「あった、石鹸!」
パシャパシャパシャ
「なーぉぉぉ♪」
「猫は水嫌いって聞いたけど結構楽しそうだよな?」
「うむ。腹見せちゃって……懐いてるな」
「かぁいい!!」
「かわいいな」
和み
「ピンポンピンポンっ! ゆーしゃちゃん、きーたよっ」
「自分でピンポンいったぞあいつ……」
「インターホンないからなぁ」
「ノッカーも?」
「ノッカーはある」
「……なんだあいつ?」
「さぁ?」
「早く開けてよ! 寒いよ! せっかく来たのにさ!!」
「悪い悪い。今開けるから」
黒い防水マントに身を包んだ盗賊。下の服は黒い長袖のワンピース。小さいが、パンパンに膨らんだリュックを背負っている。
「そんな薄着だから寒いんだ! もっとコートかなんかを羽織ってこい!!」
「準備したら着替える間もなく急いで飛び出したのよ! ……くしゅっ」
「ああ、もう、お前もあったまれ」
「そうさせていただくわ」
ちゃぷちゃぷ
「なーお?」
「?」
「なーお!」
「……あの猫…………」
「どうした?」
「いや。……あったまったら早く乾かしなさいよ?」
「ああ、そうだな、もういいか?」
「みゃー!」
「お、いいらしい」
「ほんとかよ……?」
「まじまじ。俺のカンがそう言っている」
「すげぇなお前のカン」
「だろ!?」
フカフカタオルに包まれる黒猫。
「ドライヤーっと」
「フシャー!!」
「うわっ!?」
「ドライヤー嫌いなのか?」
「なーう」
「でも乾かさないとな……」
「音が嫌なんでしょう。魔法使いなさいな」
「なるほどそうか! えっと、熱風そよ風バージョン」
「な~♪」
そよそよそよ~
「気持ちよさそうだな」
「気持ちよさそうね」
「気持ちよさそうでよかった」
「よし、乾いた乾いた」
きらきらきら~
「きれいきれい」
「さて、と」
盗賊、黒猫を抱き上げる。
「ふむふむ?」
「やっぱ病気とかか!?」
「ないね」
「ないの!?」
「健康健康」
「ほんとかよ!?」
「うん。でもま、栄養失調気味みたいだから薬だしとくね。あとこれ猫用ミルク」
バックからビンとカップとスポイトを出してくる。
「普通のじゃだめなのか?」
「うん。なんかねぇ、お腹壊しやすいんだって。特に小さいから、気を付けたほうがいいかもね」
「わかった」
「えっと、カップ二杯分のミルクに、この薬二滴位ね」
「そんななのか?」
「私特製の薬だから、しかも原液。濃いから薄めてね。絶対にこのままなめちゃいけないよ?」
「了解。ちょっと待って、メモするから!」
「ほらほらお飲み~。ちゃんと猫舌温度だよ〜」
「なーご」
ピチャピチャ
「「「かわい~」」」
「なごむな」
「なごむね」
「なごむよ」
「みゃぉー?」
「「「うはぁ〜♡」」」
『こうしてゆったりした時間を過ごし……』
「あ、鍋火にかけっぱなしだたわ!! 私帰るねっ」
「おう。またなんかあったら頼むわ」
「助かった」
「うん、じゃあね。……あ、魔王」
「んあ?」
「この猫飼うのはマオちゃん?」
「ああ、そりゃな」
「んじゃぁ……」
すっと魔王に近寄り、耳打ち。
「猫にお願い事は厳禁だよ? どうなっても知らないからね?」
「あ、あぁ?」
「ふふっ。ゼッッタイだよ? 約束はしなくてもいいけど、それが身のためだ」
「分かった……?」
「んじゃ、ばいばーい」
玄関のドアを三回ノックしてから外に出る。
「は、えぇ!?」
外のはずが、どこかの室内だった。
ぱたんっ
「えぇぇぇ!?」
あわてて外を見るも、雨の屋外が広がるばかり。
「なんだったんだ!?」
「ああ、空間結合の魔法だろ?」
「魔界ではポピュラーなのか!?」
「いや、相当高位の術のはずだったと思うが……」
「ま、魔王はできるのか?」
「いんや、俺はどっちかてぇと攻撃系の魔法が得意。てか、剣とか肉弾戦のが好きかな。ああいう細けぇ計算とかやってらんねぇし」
「な、なるほど、向き不向きか……ん? だが、あいつ、広域殲滅魔法陣使っていたことが……」
「謎の人だからもう諦めろ」
「……」
「なーお?」
「よーしよしよし! かわいいなぁ、お前はっ」
猫をもふもふかわいがる魔王。
『本当に初めのころの面影ないですねぇ』
「そりゃお前もだろ? 貴方方は知っているだろうか? とか言っちゃってよー」
『黒歴史ですっ! 引っ張り出さないでください!!』
こうして夕暮れまで……
「もう、かえんねぇとなぁ。仕事が……」
「また抜け出してきたのか?」
「あの城暑くていらんねぇよ。暗いのはいいとして、じめっとしてるから蒸し暑くてかなわん」
「そりゃドンマイ。私のところは寒い方でよかったよ」
「くそぅ……」
「帰るなら早く帰れ。日が暮れるともっと冷えるぞ」
「そうだな。んじゃぁ」
鍵をドアに差し込んで、回す。そしてノックを三回。
「またな」
「オイ、ちょっと待とうか?」
「ん? なんだ?」
「お前、空間何チャラとかいう魔法使えないんじゃなかったのか!?」
「この鍵があの魔法の代わりだそうだ。モブB作。耐久度が低いがな。ちなみに盗賊作は、耐久度も高いしすげぇぞ」
鍵二個取り出し見せつける。一方は銀と青の細工鍵。もう一方は金と赤の小さな鍵。
「なんでそんなの持ってんだよ! 私だって欲しい! 二個持ってるなら一つくれよ!」
「盗賊に言えよ。お前なら喜んで作ってくれんじゃないのか?」
「なんか、同じパーティーメンバーなのに敵のお前にまず渡したとか腹立つ!」
「いや、知らねぇし! ばいっ」
「あ、待て逃げるな!!」
バタンッ
「盗賊のばっきゃろ~~!!」
魔王執務室。
「ふぅ。俺が知るわけねぇよな、なぁ?」
「なーう?」
「うふぁ~。かわいいなぁ、お前!!」
すりすり
「かわいいかわいい! お前を飼うってみんなに言ってこねぇとな……」
「飼うのは結構なのですが、仕事、溜まっているのですよ? 猫よりも優先すべきことがございますでしょう?」
「んげ……モブB……」
「朝っぱらから逃げ回ってくださいましたね? どれだけ臣下が困っていると思っていらっしゃるので?」
「そ、それは……」
「さっさと終わらせてください。今日の分が終わらなければ、夕食もないと思っていてください」
「なっ……!!」
「おい、先輩! そんな言い方ねぇんじゃねぇのか!? 魔王様に向かって!!」
「魔王様だからと言って甘やかしてばかりいれば国が傾く。それくらい分かれ」
「な、なんだと!?」
「魔王様もそれくらいわかっていらっしゃる。そうでしょう?」
「ああ。すまなかった」
「まあ、少しの息抜きくらいは大目に見ますが、さすがにここまで帰りが遅くなるのでしたら連絡の一つでもいれてほしかったですね」
「すまない」
「では、仕事頑張ってくださいませ。私は仕事があるので失礼いたします」
「おいっ! お前は……」
「お前は魔王様のそばについてちゃんと仕事するように見張っていろ」
「おいっ!!」
モブB歩き去る。
「ああ、仕事……」
「お、俺も手伝いますから!」
「アリガトな。迷惑かけて悪い」
「いいえ! そんな!!」
(魔王様がこんな落ち込んでいらっしゃる……アンの野郎……後で血祭じゃぁぁぁぁ!!)
「とりあえずコーヒーでもお持ちいたしますね」
「ああ、助かる。ありがとう」
(魔王様にお礼を言われちまったぁぁぁ!! 側近冥利に尽きるぜぇぇぇ!!)しっぽぱたぱた
「すぐにお持ちいたしますねっ」
「ああ」
モブA、バタバタと慌ただしく出ていく。
「……はぁ、仕事かぁ」
執務机、書類に埋もれる、の図。
「魔王の仕事も大変だなぁ……ああ、猫は気ままでいいよなぁ」
黒猫を抱き上げて目線を合わせる。
「俺も猫になりたいなぁ……一日でいいから代わってくんない? なーんてな……」
猫にちゅっとキスをして仕事に戻る。
「……なーお」
翌日、魔王寝室のベッド。
「くあぁ~」
あくびをして目をこする。
「今何時だぁ~?」
(あれ? まだ起こしに来てない? 初めてじゃね? おっしゃ!)
起き上がって前髪をかき上げようとしたら……
むにっ
「そうそうむにって……ハぇ!?」
目を開けて手を見る。……肉球。
つんつん。むにむに
「気持ちい~。じゃなくて!」
何度確認しても、自分の手に肉球。それどころか、真っ黒な毛が体中に……
「な、な、ななななな!?」
跳ね起きようにも体が思うように動かない。
「か、鏡! ったく! 歩きづらい!!」
慣れない黒い体に四足歩行。ベッドのフカフカした感触も、肌触りのいい毛布も、今は邪魔なだけだった。
『そうしてなんとか鏡の前にたどり着く』
「なんだこれ!?」
『鏡の中には昨日拾った猫の姿が。魔王がしてみた行動と同じ行動をすることから、おそらく、これが今の魔王の姿』
「ナレーター!? どうなってんだこれ!?」
『わたくし、本日は完璧なナレーターに徹しますので。空気として扱ってくださいませ』
「なんだと!?」
『魔王は焦った。とにかく、この状況を整理したかった。だが……』
「魔王様、朝になりましたよ!」
「モーブ! 俺もう起きてる! ちょ、この状況どうなってるかわからないか!?」にゃぁにゃぁ
「おや? お前は確か……昨日魔王様が連れてきた猫だよな?」
「通じてねぇのか!?」にゃっ!?
『そういえば、にゃぁにゃぁという声になっている気がする』
「どうしたんだ? 魔王様、猫が……って、あれ? いないな。魔王様がこんな朝早くからいなくなるなんて……」
「いる! いるってば、目の前に!!」にゃぁ!!
「そんなに騒いでどうしたんだ? 腹でも減ったのか?」
「チガーウ!! 確かに腹は減ったけど、チガーウ!!」にゃおーんっ
「なんだなんだ?」
モブA、困る。
『どうしても通じない、言葉の壁』
「も、もういい!!」にゃぁ!!
「あ、おい、猫!?」
部屋を飛び出す魔王猫。
『耐え切れなくなった魔王が逃げ出した』
『そうして誰かどうにかしてくれそうな人を見つけに行く……』
「あ……」
「あ……」にゃ……
「かわいい!!」
「スナイパー!?」にゃぁ!?
「かわいいー。おいでおいで」
しゃがみこみ目線を合わせ、手を差し出す。
「……」
「おいでおいで」
「……そんなのガキでもやらねぇよ」はんっ
「……なんだろう? 今、ものすごくバカにされた気が……」
「にゃーん」
「まあ、いいか。おいで~猫~」
「いかねぇっての!」にゃっ
逃げる。
「あ、まてぇ!!」
「わ、こっち来るな!!」にゃぁぁ
『まだ慣れない四足歩行で、全速力をだしスナイパーから距離をとる』
「待って!」
「待たない!」にゃぁっ
「待てぇぇぇぇ!!」
猛ダッシュ。少し怖い。
「いーやー!!」シャーッ
『こうして何とか逃げ切った魔王』
『その後もいろいろあり、城から出るのに数時間……』
「はぁ、はぁ……お、俺の城、あんな個性的な面々の巣窟だったなんて……」にゃぁ……
『どうやら、城を出てくるまでの数時間の間に、魔王は軽く人間(?)不信に陥ってしまったようです』
「これから、どうするか……」
『勢いで出てきてしまったものの、行く当てはなし。これからどうする魔王、どうなる魔王!? 後編へ続く!!』
「ハぁ!? え、これ前後編!? 俺今日はこのまま!?」
『いつまでだか知りませんがそうなりますね』
「にゃっ!?」
『魔王の猫化が進んでいる模様』
「にゃ、じゃない、なっ!!」
『おっと、今回はナレーターに徹しようと思いましたのに、うっかり親切に話してしまいました……。まあ、いいです。続きますので、チャンネルはそのまま!!』
「いつまで放置させる気だよ! 別に変えてもいいですからね、って、これはテレビじゃねぇ!!」
『……魔王様、放置プレイ……』
「変なこと言うなよ! はあ、もういいよ。とりあえず、勇者の家に行こう。あいつならかくまってくれるはず……」
『こうして魔界から、人間界へ歩くことになった魔王。いつもの道も遠く感じる……無事、たどり着けるのか……』