え……? モブAのショートターン?
「どもっ、俺は魔王様の側近をさせて頂いてるモブAだ! 以後よろしく頼むぜぇ!!」
『って、ハイ!? なんで、モブまでターン作ってんですか? モブのくせに!』
「黙れナレーター! 俺は魔王様からこのターンを頂いてるんだ! お前にどうこうする権利はない!!」
『なっ!? またあの人は……勝手なことをされると困ります!!』
「ま、いいじゃねぇか。減るもんじゃねぇし」
『減ります! なんか精神ポイント的なのが減っていきます!』
「それじゃ、回復可能だろ? ま、そういうことで、頼んだわ。今回は一人称小説タイプでいくから、ナレーターも休みっつーことで」
『私の仕事まで減ったぁぁあああ!?』
「んじゃ、今回は俺が主役! モブAのターンはじまりだぜぇ!!」
『ちょ、私の立場ぁ!?』
『ナレーターに代わって、これからナレーターまでするからなっ』
夕日が一番輝くオレンジ色に、瞳は炎の橙色。元気印のモブA。
「何ニヤニヤしてるんです? 気色の悪い……」
「うるせぇな! 大役を申し付けられて喜ばずにいられるかっての!!」
『この嫌味な感じの嫌な奴はモブBだ。俺よりも、五年ほども先輩で、悔しいが仕事もできる。完全にすごいやつ、なのだが、そんなことは言ってやらないぜ! 調子に乗るに決まってるからな!』
モブA とは正反対な冷たい夜明け前の群青色の少し長めの髪に、瞳は暗い氷の青。冷静な印象のモブB。
「何一人で百面相してるんだ? 気持ち悪いぞ」
「う、うるせぇ!!」
ちりんちりん……
『これは魔王様が使ってる呼び鈴だ。盗賊作、らしい……』
「魔王様がお呼びだ。さっさと行け」
「いちいちうるせぇ! 今から行こうと思ってたんだよ!」
「だったらいちいち口答えなぞしてないで、少しでも素早く動いたらどうだ? きゃんきゃん吠える時間があったらな」
「きゃ、きゃんきゃんだとぅ!?」
「いつまでここにいるつもりだ? 魔王様をお待たせしてまで私情を優先するつもりか?」
「ぐっ……う、うるせぇ!!」
「それしか言えないのかこの駄犬」
「後で覚えていやがれ!」
「陳腐で安い言葉だな。品位のほどが知れる」
「お前こそ、嫌味なしに言えないのかよぉぉぉ!!」
モブA、廊下を走りつつ捨て台詞。
「廊下を走るな、大声を出すな。……と、言っても聞いてないか。はぁ、あれを教育しろとは、魔王様も無理難題を仰います……」柔らか微笑。
「魔王様、お呼びでございましょうか?」
ちゃんと扉の前で息を整え、身だしなみも整えてから扉をノックする。
「おお。客だ。茶を淹れてくれないか?」
「かしこまりました。……って」
「ハロハロ? お邪魔してマース」
「邪魔してるわね」
「なんでお前たちが!?」
「仕事の報告」
「それ以外に何があるっての?」
「スナイパーはともかく、盗賊も?」
「ま、いろいろあったの。あぁ、私はもう帰るから。んじゃ、魔王、後よろしくね」
「ああ、助かった。また何かあったらたの……」
「報酬次第では考えてもいいわよ?」
「……」
「ともかく帰るわ」
「もうくんな!」
「いやぁ、今回は悪かったって。多少は反省してるよん」
盗賊、窓から飛び降り。
「……って、ここ三階!!」
「ああ、大丈夫じゃない? あいつ殺しても死ななそうだから」
「そういう問題じゃないだろう!?」
『ああ、やべっ! うっかり取り乱しちまった!!』
「あ、そうだ、モーブ? 盗賊帰ったなら茶はいいや。わざわざ呼んだのに悪かったな」
『あぁ!! 魔王様に名前呼ばれちまった!! 感激だぜぇぇ!! あ、ちなみにこのモーブってのは魔王様が提案してくださったのだ!! 名前ないと悲しいよな、と、とても素敵なお心で提案してくださったのだぁぁあ!! まあ、名付けたのが盗賊ってのが気に入らねぇが、それでも、楽しそうに、いいなっ、て言ってくださって、呼んでくださって、俺はもう幸せすぎるぜぇぇぇぇぇぇ!!』
モブAの頭に犬耳、腰のあたりにしっぽ。……ぶんぶん嬉しそうに振っているが、本人に自覚なし。気持ちが昂ると出てくる。もともとは獣人系の家系らしい。
「ちょ、あたしはー!? あたしにもお茶……」
「い、いいえ! 魔王様に会えただけでも……って、何言ってんだ俺!?」
「だ、大丈夫か?」
「あぁぁぁああ!! 魔王様に心配されちまった!! 嬉しいぜぇ!!」
「モーブ?」
「し、失礼しました!! 魔王様に心配をおかけするなど、あってはならない失態! 誠に申し訳ございません!!」
犬耳ショボン……
「き、気にするな……」
「あ、あたし戻るねー? 報告終わったしねー?」
「帰れ帰れ」
「俺も、お邪魔しないように退室いたしますが、何か御入用なものはありますでしょうか?」
「うーん、んじゃ、コーヒー。それから、ちょっと書類整理手伝ってくれるか?」
「は、はいっ、喜んで!!」
『仕事奪いかえしました、ナレーターです。このようにモブAは魔王様に心底ほれ込み、犬のように従順に、崇拝しております……』
『と、いうことで、もういいですよね!? これ以上モブにかまってられませんよ!? いいですねっ!?』
「俺まだ、魔王様の素晴らしさを語り切れてねぇ!!」
『そんなのどうでもいいでしょう!?』
「どうでもいい!? どうでもいいだと!? お前、魔王様に向かってなんてことを!!」
『あ、ああーもう!! うるさい上にめんどくさいやつですね!!』
「あんだとっ!?」
『なんですか、モブのくせに! ターンまで作ったんですからこれで満足してくださいよ! 元から予定しなかったのをわざわざ作ってやったんですからね!!』
「っ!!」
『も、もう終わりです!! あ、モブAのターンとは言いましたけど、もうBのターンは作りませんからねっ!!』
「……ほぅ?」
『あ……こ、前回のターンの盗賊ほどではありませんが、迫力が……!! あ、ちょ、こんなところで魔法使わないでくださーい!!』
「ご愁傷っ」
『キャーーー!!』
ブツっ……