仕方ないのでスナイパーのターン……
「仕方ないので、ってなんだぁ!!」
夜の路地裏。
『だって脇キャラ未満なのに、朝食の席で紹介してしまったからにはターン作らないといけないのかなーと思いましてね。まあ、仕方ないかなぁと』
「酷い!! あ、でも、盗賊まだやってないじゃない! やった! あいつよりも先だぁ!!」
『あー、それなんですけどね……あの人捕まらないんですもの……やろうにもできないってゆーか』
「なんだって? ……あ、もしか、し、て……?」
『それも合わせての、仕方ないから、ですよ。まあ、あなたは盗賊が来るまでのつなぎということで……』
「っぁ!?」
『……ところで一体何をしているんで?』
いつものフリルではなく、シンプルなトレンチコートに、ニーハイソックス。長いバックを肩に背負い、キャスケットを被って、グラサンをかけたその姿は……
『不審者みたいですよ?』
「誰がよ!?」
『あ、でもツインテは健在なんですね? あ、でもテールじゃないか。低いですもんね』
「二つ結びでいいんじゃない?」
『まあ、確かに』
スナイパー、塔の上に登り始める。ここらで一番高い時計塔。
『どこ行くんです?』
「塔の上の広間。ここなら誰も来ないし、高いから絶景ポイント」
『なるほど?』
塔の上にたどり着き、肩に背負っていた長いバックを下す。
『あー、もしかして?』
「スナイパーのお仕事よ。他に何か?」
狙撃銃を取り出して、大きな窓のような場所の角に着けて構える。
「スキル発動。さって、あいつはどこかなー?」
『説明しよう! スナイパーの特殊スキル、“拡大眼”だ!!』
「名前ダサい! もっとかっこよくして!」
『えー、じゃあ、“サーチアイズ”!! ……厨二乙www』
「あんたが考えたんでしょ!!」
『えー、説明説明っと。まあ、要するにスコープですね。暗視スコープとしても使えます』
「雑!」
『でも、簡単に言うとそうでしょう?』
「うっ……でも、もっとこう、何かあるでしょう!?」
『本人が視認できる範囲--障害物がないことが条件--なら結構な距離を拡大できます。まあ、その分視界が狭くなり、望遠鏡をのぞいているような状況になりますが』
「そうそう。そんな感じのよ。やればできるじゃない」
『暗いところでも昼間のように見ることが可能で、日常生活でも明かりが不必要と大評判! 活躍する場がなく、仕事がほとんどない、給料が少ないスナイパーにとって光熱費節約の大チャンス!!』
「余計なこと言うなぁ!! さっきまでいい感じだったのに!! それにそこまで切り詰めてない! 大体、住み込みだっての!!」
『魔王城に?』
「そうよ! 光熱費のほとんどは魔王様もち」
『魔王もこんな役たた……あまり活躍できない部下を持ってかわいそうに……』
「ちょっと? 役立たずって言いかけなかった?」
『気のせいですよ。そう思ったということは、自分でもうすうすそう気がついているのでは?』
「なっ!?」
『ところで、お仕事はいいので?』
「忘れてた! 少し黙っててよ!? 今から集中するんだから!」
片目をつぶって集中モード。殺気まで放つスナイパー本気モード。
『目線の先には、夜会?』
「そこに出席しているであろうあいつを狙えって」
いつものようなキンキンボイスは鳴りを潜め、おとなしめな低い声。
『あいつ?』
「すぐわかるんじゃない? どうせ失敗するだろうし」
『えらく後ろ向きですが、何かありました?』
「別に? そういう相手ってこと。あんたもよく知る……」
『私も?』
「あ、はっけーん。後三分か……」
しっかりと銃を構え直し、標準を合わせる。
「五、四、三、二、一……」
ゴーンゴーン……
パンっ
『時計塔の鐘が鳴り、それとともに銃の引き金を引く……』
「チッ。見失った!」
会場の明かりが消え、スキルを暗視用に切り替える前に明かりが再びついた。
『しかし、相手の姿は見当たらず?』
「そうよ! あー、もうっ!!」
「ねぇ、誰を狙ってるのですか?」
「あいつよあいつ! 盗賊!!」
「どうして私を狙うので?」
「どうしてって……って、えぇ!?」
『背後から聞こえた声に、声を裏返しながら振り返る』
「盗賊!? なんでここに!?」
「なんでも何も……さすがにあんな殺気向けられて、撃たれて、気づかない人はいませんよ?」
銀髪を肩につかないあたりで切りそろえたショートカット。顔の上半分にはパーティー用と思われる仮面。服は濃紺の貴族的な服。男バージョン。
「普通はこんな離れてたら気が付かないし、撃たれたら気が付くかもしれないけど、着弾して終わりでしょうが!! しかも頭狙ってんだから気づく前にゴートゥーヘル!!」
「失礼ですね。勇者パーティーですし、善行はしている方だと思いますよ? それを地獄行にしないでいただきたい」
「ツッコミどころそこじゃねぇぇぇ!!」
『どこまでも自由な盗賊に、ツッコまざる終えなかった模様』
「それよりも、ですよ? 貴女は誰に依頼されたんです? ちゃんとお礼をしなくては……」
『笑顔なのだが、仮面と不穏な気配に背筋が冷える』
「す、スナイパーだもの。守秘義務があるわ」
「教えてください?」
スナイパーを壁際に追い詰め、両脇に腕をついて逃がさない。
「だ、ダメだったら……依頼者の秘密厳守……」びくびく
「何か言われたら私に乱暴されたと言えばよろしいですよ。長いものに巻かれるのが雇われスナイパーではありません?」
盗賊の笑みが深まる。スナイパーは恐怖が深まる。
「な、なんかしたら魔王に言いつけるんだからね!」
「元々手を出したのはそちらでしょう?」
「そんなこと言ったって……ちょ、ナレーター! ヘルプ!!」
『銃を抱いてガタガタ震えるスナイパーに、誰も助けは来ない。なぜならここはほとんど人が来ない高い時計塔の上だからである』
「裏切り者!」
『もともと仲間じゃありません』
「~~~っ!!」
「邪魔はいないそうですよ? だから、ねぇ? 教えてください?」
低音掠れ声。
「み、耳元でしゃべるなぁ~!!」
「教えてくれないと、手が滑ってしまいそうです……」
盗賊の手が頬を滑って首にかかる。
「~~~~~~!?」
「ねぇ、教えてくださいったら……」
耳甘噛み。
「ピッ!?」
『あ、あ~、盗賊?』
「なんです? 見てわかりません? 今いいとこなんですけれど?」
『これギャグであってアール指定つきそうなものはやめていただいてもいいですか?』
「大丈夫です。ある意味健全ですから」
『いや、そういうのではなくてね?』
「あー、もう。はいはい。わーってますよ」
離れて頭をガシガシかいて、仮面を外す。
「へ?」
「さすがに暗殺されかけてイラッとこない人はいないでしょう? ちょっとしたお仕置きです」ニヤッ
「……」
ほっとしてへたり込むスナイパー。
『ちょっと盗賊? お遊びが過ぎるのじゃありません? ここまで怖がらせるのはやりすぎです』
「失礼。少しいじめればすぐ根を上げると思ったのですが。案外持ちましたね」
「っの!!」
殴りかかろうとするスナイパーをやんわり受け止め無力化する盗賊。
「まぁ、大体予想がついていたので、実はちょっとどこで止めればいいかわからなくなってきた、というのが本音ですが」
「!?」
「やりすぎたのは反省しています。本当に申し訳ない」
胸に手を当ててお辞儀。
「も、もういいわよ!」
「許していただけますか?」
「え、ええ」
「嬉しいです」にっこり
『はぁ、それにしても……』
「はい?」
『なんであなたは自分の回を回避しまくるくせに、こうして他の人の回には割り込んで引っ掻き回すのでしょうねぇ?』
「今回のことはスナイパーに聞いてください。私は無実ですよ!」
『それもそうですが……』
「元々恨まれるようなことをしたあんたが悪いんじゃない」
『それもそうですね。ちなみに動機は? それくらいはいいでしょう?』わくわく
「ゴシップ好きですか? まあ、いいでしょう。私自ら言ってみましょう? どうせ彼女奪われたとかそんなんでしょう?」
「すごい! なんでわかったの!?」
『自覚があるなんて……この女たらし!?』
「べーっだ。少しくらい遊んでないと僕壊れちゃーう」
「うわっ、サイッテー!!」
『女の敵!!』
「……冗談だよ。そんな本気にしないでよ」
「『えぇー?』」
「疑わないでよ! ……それって○○○(人名)でしょ?」
「っ!?」
反応が大きすぎてそれが依頼者の名前だと丸わかり。
「わかりやすい反応ありがと。それ、私が女バージョンで口説いたやつの名前。別れるときに盗賊が好きだからって言って別れたの」
「男の敵!!」
『サイテー!!』
「潜入捜査!! 人聞き悪いこと言うなぁ!!」
『○○○。それは魔界の貴族の名前。○○○は自分の領民から税金を搾り取り、私腹を肥やしているという噂があったので、魔王が盗賊に依頼をしたのだそうだ。それを手遅れながらも気が付いた○○○は盗賊の暗殺を、偽装した内容でスナイパーに依頼、というわけだった』
「知ってんなら僕で遊ばないでよ!!」
「なるほどね。んじゃ、あたしははめられてたってことか」
「ま、そういうことになるね」
「……」
「ね、今から仕返しに行かない?」
「ハ?」
「魔王様から討伐依頼出されたんだ。正当な理由でやっつけられるぜ?」
「……いいわねぇ。でもあんた、夜会の最中じゃないの? ってか、なんで夜会に?」
「いいからいいから。気にしなーい気にしなーい」
「ちょ、ちょっと?」
スナイパーの武器一式をしまい、肩に担いで、スナイパーを姫抱きに。
「行く? 行かない?」
「行くわよ!」
「んじゃしっかりつかまっといてねー」
「え、ちょっと待って……ピィィィィィ!?」
時計塔の上から飛び降りる。
「あはっ。かわいい鳴き声」
「死ぬぅぅぅぅ!!」
「だーいじょーぶ」
屋根を伝い、走って、跳んで。
『その姿はまるでどこぞの怪盗のよう』
「きゃっ! かっこいー」
「前見て前ぇぇぇ!!」
「盗賊、いっきまーす!!」
『それ、ちょっと違う……』
「いやぁぁぁぁ!!」
『スナイパーの叫びは夜空に吸い込まれていくのでした』
『後日談として。○○○の家で、その時の憂さを晴らすかのように、スナイパーはどこから出したのか、マシンガンを乱射したとかしないとか……』
『結論、盗賊はどこにでも現れ、話を引っ掻き回す』
「ちょ、あたしの回なのにー!?」
『スナイパーは……変な鳴き声を発する』
「それただの悪口!!」
『んじゃ、最後の最後でもいじられる』
「そんなのちがーう!!」
『だったら……』
「結局仕事失敗。役たた……使えない」
「それ悪口! 悪化してる! しかも役立たずって言おうとした!? 言い換えても大して変わんなかったよ!? しかもなんで盗賊!?」
「ツッコミが多い。うるさい。キンキンする」
「誰のせいだ―!!」
『それでは皆様また今度ー』
「さよーならー」
「え、ちょ、まっ!! あたしの扱い―!! ぁ……」
ブツッ
ツー、ツー、ツー…………