チャイルド・パニック
魔王城執務室
「魔王、いる~?」
たんっ
「ん? 今日はドアに優しいな? どうした?」
「頭痛い」
「ダイジョブか?」
「呪い暴走気味。苦しい」
「な!?」
「血がたりなーい」
「ちょ、スナイパー襲うなよ!?」
「さすがにそこまでじゃない。我慢できる。……たぶん」
「たぶんって!?」
「できなかったら止めてよ? マオちゃん」
苦笑い。
「なんでまたそんなことに……」
「わかんない。勇者の隠しスキルでも抑えられないみたいでさ……、人間界にいたら見境なく襲いそうだったからこっちきた。匿って?」
「……」
「マオちゃーん、哀れな僕を見捨てないでー」
「お前なぁ……」
「大丈夫。さすがに魔族を見境なく襲ったら完全に化け物化してるから殺してくれていいよ。魔王として存分に力をふるってくれたまえ」
「……」
「……」
「……」
「……この沈黙が重苦しいぜ」
『友人殺せって言われたらさすがに何も言えなくなると思いますけど?』
「え、友人!? 僕マオちゃんのお友達!?」
「え、何その驚きよう!?」
「キャッ! 嬉しい♪ じゃ、頑張って我慢するね♪」
「ハ? なんだよお前!?」
「あー、でも、本気で暴走したら止めてね? んじゃ、ばーい」
「は、え、何? ちょ、お前!? あ、待てよ!?」
「そこらへんぶらついとくね~」
「待てって!!」
たん……
「待てっつってんのに……っ、モーブ!」
ちりんちりんっ
「お呼びでしょうか魔王様!?」
「はやっ!! ま、ちょうどいい。盗賊みはっとけ。危なそうだったら手ぇ出してよし!」
「承知しましたぁ!!」
バタンッ
『また面倒そうですね……。魔王、ご愁傷様です』
「ほんと、こっちの頭が痛くなるぜ……」
『その頃勇者』
「あー、もう、なんなのだこの城は! 何回か来ると道が変わってないか!?」
『知ってました? 外敵が侵入しても困らないようにそういう設計なのですって』
「ハぁ!? ふざけてるだろ! なんでこれで盗賊はいつも迷うそぶりすら見せないんだ!」
『まあ、謎の人ですから』
「ふざけるな!!」
『勇者迷子ナウ』
「つぶやくな!」
『いや、つい……』
「つい、じゃない!! ……あ」
「っ!!」
『前方不注意。曲がり角で気が付かず、遭遇』
「遭遇してはいけないやつだったな……」
「お前、勇者!!」
『魔族の貴族ですね。勇者嫌いの過激派です。過激も過激。一回勇者の家に火を放ちかけたことも……、その時は盗賊とモーブによってぼっこぼこにされましたとさ』
「あの時の屈辱、忘れんぞ!!」
「私がやったわけではないがな」
剣を抜き放つ勇者。
「なんだ、やるのか!!」
「お前が危険人物だということなのでな。お前がかかってこなければ私は手を出さんぞ」
「小癪なぁ!! やれぇ!!」
貴族の使用人たちが襲い掛かる。
『おぉっと! 勇者、躱しております!! ……弱いくせになかなかですねぇ!!』
「弱いゆうな!!」
『レベル三のくせに?』
「くっ!!」
『とりあえず勇者ですものね、ザコ貴族など、ましてや、その使用人の攻撃など、簡単に躱せるのです』
「とりあえずが余計だ!!」
「ちょ、何してんのさ、勇者!?」
「盗賊!?」
『おや? 盗賊さんが騒ぎに駆けつけてきたみたいですよ? あーあ、こんなに大騒ぎにして、後で魔王にお説教ですね?』
「マジか!!」
「ちょっと、よそ見してないでよ!!」
後ろから魔法薬を投げつけられたところを、盗賊が勇者を突き飛ばす。
「うっ……」
「盗賊!?」
「……大丈夫、たぶん」
「だが今、思いっきり薬を浴びたんだぞ!?」
「勇者ほど弱くないし♪」
「……盗賊ぅ……?」
「あはは、ごめんごめんよ。……それより、まだやるのかい? 君たち」
貴族ども、ぎくぅ!!
『前にこっぴどくやられたようですしね。そりゃトラウマトラウマ』
「ねえ、僕、今、とぉっても、虫の居所が悪いんだぁ。死にたいなら別だけど? ああ、それもいいねぇ。体中に、お前達の汚い血を浴びるのも、いいかもしれないねぇ……?」目が笑ってない
「ひ、ヒぃ!!」
「あははぁ~、おもしろ~い。たのしいね~、……ほんとうにやろうか?」無表情
「待て!!」
「モーブ!?」
「お、おまえは……」
「何? 邪魔しないでよ。今から楽しいお祭りなんだから」
「血祭ってかぁ!? ふざけんな!」
「は、はは、お前の負けだなぁ! 魔王様は私を……」
「卿、これ以上やるのでしたら私がお相手を。魔王城での騒ぎは困ります」キリっ
「なっ……」
「お引き取りを。魔王様の顔に泥を塗る気ですか?」
「くっ……」
『こうして尻尾巻いて逃げた貴族どもでした』
「ふ~ん、君もちゃんとした言葉づかいできるんだね?」
「当たり前だろぉ! 全部できて魔王様のそば仕えだぜぇ!!」
「はいはい。それで、僕を、つけ、まわして、なんのつも……」ふらぁ
「盗賊!?」
「頭痛い……」
「だいじょぶか!? さっきの薬!?」
「勇者、はなれ……」
「こっち来い!」ぐいっ
「何をする!?」
「離れろって言われたろうが!」
「ぐぅっ」吐血
「大丈夫かよぉ!?」寄り
「あははぁ、心配、してくれんのぉ?」
「ち、ちげぇし!! 心配とかじゃ……」
「ぐふっ」
「って、本当に大丈夫かよぉ!?」
「あー、眠い、から寝る、わ……」ぱたっ
「ハ!? って、ただの気絶じゃねぇか!! って、ヤバいじゃねぇかよ!!」
『盗賊を抱き上げて急いで医務室に……』
「と、いうわけです。……こんな失敗をしてしまい、申し訳ありませんでしたぁぁぁ!!」
『また、魔王執務室。モーブが先ほどの一件の報告中です』
「いや、それは貴族が悪い。しばらく自宅謹慎を申し付けとけ」
「はい……」
「貴族に手が出せなかったのは仕方ない。お前が悪いわけじゃない、落ち込むな」
「は、はい……」しっぽしゅん……
「魔王、大変だ!!」
「勇者!?」
「盗賊が、盗賊が!!」
「何があった!?」
「盗賊が、縮んだ!!」
「……ハ?」
医務室
「……」
「と、盗賊、か?」
「……」
『まず、色が大幅に変わりましたね。銀髪から翡翠の髪に。翡翠の瞳は血のような真っ赤な瞳に。背はスナイパーよりも小さく、小学低学年くらいでしょうか? 魔王の半分くらいしかありません。服は、今は大きめのシャツをワンピースみたいに着ています。子供服がなかったんでしょうね。誰のでしょうか?』
「そこ気にするか?」
「男ものだな」
「……ビィのだな」
「借りてきました」
「そうか……じゃなくて!」
『そうですね。一番の違いは、完全に無表情だということでしょうか。目は人形のようなガラス球のようで、何もうつしておりません。いつもはにこにこ、もしくは怖い顔をしているのに、まったくの無表情です』
「返事もしねぇ」
「盗賊?」勇者
「……」
「盗賊?」魔王
「おい、魔王様が聞いてんだろ! 答えろよ!」
「……」
『あ、やっとモーブの方見ましたね。さっきまで虚空を眺めていましたよ?』
「……」
「……」
『にらめっこですね』
「なんか話せよ!!」
「……」
「魔王様、こちらでしたか」
「あ、ビィ? どうだ、なんかわかったか?」
『ビィさんは薬にも詳しいんですね! すてきです!!』
「ナレーター黙ってろ」
「まだよくわかりませんが、呪いと反応したようで、変質したと思われます」
「変質?」
「はい。もともとは能力低下の効果だったようです」
「それが退化の効果になったということか?」
「おそらく。……今は、そうですね、子供の頃に戻った感じでしょうか? 大人の時の記憶も能力もないものと思われます」
「ってことは、完全に子供に戻ったのか……」
「そのようになりますね。数年分ではないように思いますが……」
「……ちょっと待て、ナレーター?」
『なんです?』
「お前、こいつの呪い、生まれた時から銀髪で何とかって言ってなかったか?」
『あー、そうでしたっけ~?』
「そうだよ!」
『じゃ、違ったみたいですね、あははっ』
「嘘情報ばらまきやがって!!」
『でもいじめられてたのは事実ですよ! いつからか知りませんけど。呪いのせいで!!』
「ほんとかよ!」
『これはほんとですよ!!』
「そうかよ? ……勇者は、いつこいつにあったんだ?」
「数年前だが、その時からあの姿だ」
「数年前って!?」
「成長が遅い種族なのだろうと思ってたのだが、一応人間と紹介されていただろう? おかしいと思ったんだが……」
「これが、呪い?」
「わからん。よく考えると、私はあまりこいつのことを知らないんだな……」
「そうなのか……」
「……」
「盗賊、お前は一体なんなんだろうな?」
「……私?」
「しゃべった?」
「盗賊、私?」
「そうか、記憶ないなら、その時盗賊かどうかは……」
「なるほど」
「……」じー
「そうだよ、盗賊はお前だよ」
「……そう」
「……」
「……」
「……何か思い出したか?」
「……」ふるふる
「そうか」
「……」こく
「……」
「……」
「どうしようか? 魔王」
「どうするっつわれてもなぁ」
「とりあえず、私の家に連れて帰るか。人間界の方がいいだろう? お前も忙しいだろうし?」
「あー、それ、どーだろうなー?」
「どうだろうって?」
「……えーっと」
『もともと来た理由が理由ですからねぇ』
「理由?」
「……呪いの影響はだいぶ薄れているかと。勇者の近くの方がよろしいかと思います」
「そうか? じゃあ、お前連れて帰れ。送ってやっから」
「お、おお、頼む。……一緒に来るか? 盗賊」
「……」こく
『そうして勇者の家』
「色々あったなー、と言っても、お前は覚えていないのだろうがな」
「……」
「お腹減ってないか? 何か食べるか?」
「……」
「……言ってくれないとわからないぞ?」
「……」じー
「どうした?」
「優しい、なんで?」
「なんでって……」
「無利益、無報酬、……なぜ?」
「なぜ? 何故って言われても……」
「理解不能。私、利用価値無し。不必要。優しい、不相応」
「……?」
「……私に価値無い。なんで優しくするの? 無駄な労力」
「なんでそこまで卑屈なんだ?」
「……」
「……はぁ」
「……ごめんなさい」
「なんでだ?」
「変な質問で無駄な時間を使わせた」
「……なんでそう……はぁ……」
「ごめんなさい」
「むぅ、どうすればいいんだ?」
「……」
「とりあえず、これでも……。口開けろ」
「?」おずおず
「ほれっ」ぽいっ
「?」むぐむぐ
「おいしいか?」
「……」こく
「それはよかった」にこっ
「……」うっすら赤面
『えー、そして夕食~そして寝るじかーん』
「一緒に寝るか」
「……」赤面
「どした?」
「なんで、そんな、優しい?」
「うーむ、当たり前だろ?」
「当たり前?」
「お前は覚えてないかもしれないが、私はお前に助けられたんだぞ」
「カリ? だったら気にする、不必要。それは私、違う。無意味」
「そういうことにしたとして、それでも、だ。仲間を見捨てるわけないだろう?」
「仲間?」
「そうだ。私たちは仲間だぞ?」
「……おかしい」
「おかしくなどないさ」
「私、呪い、気持ち悪い。石、痛み、暴力、罵声。それが普通」
「……どういう意味だ?」
「私は優しさなんて受けたことない」
「……」
「無意味。無駄な労力」
「……はぁ」
「……」
「そんなこと思ってたのか?」
「え?」
「まったく」
勇者、盗賊を抱き上げる。
「うわっ!?」
「盗賊は軽いな。かわいいぞ」
「かっ?」
「盗賊はいい子だぞ。よし、寝るか」
「え、え?」
「よい子は寝る時間だぞ~」
「??」
『勇者、強引ですね』
「うるさいぞ」
「いっしょ、寝る?」
「そうだぞ。よしよし」
「????」
「……」なでなで
「……」混乱中
「……」ぎゅっ
「!?」
「盗賊、そんなこと思わなくていいんだぞ?」
「?」
「お前はお前だ。私はお前が好きだぞ?」
「!!」
「それに、私は呪いがどうだとか言わないぞ。心外だ」
「……」
「お前はいいやつだ。何回も助けてくれた。私はお前に助けられてばかりだ」
「……」
「お前は、呪いなんて関係なく、ここにいていいし、逆にどこか行ってもいいんだ」
「……」
「だって、お前はお前だ。お前の好きにしていいんだぞ? お前は自由だ。呪いなんてどうでもいいだろ?」
「……」
「おやすみ盗賊」
「……おやすみ」ほろり
「……」
ぽんっ
「簡単に言ってくれちゃって……レベル三の勇者のくせに……」
「……すぅすぅ」
「大好きだぜ勇者。そんなところが。俺にそんなこと言ったのは勇者が初めてで、だから俺は、……はぁ、まったくな……」
『あーさでーすよー』
「んぅ……」
「おはよう勇者?」
「ん……んん!?」
飛び起きる勇者。
「な、な、ななななな」
「どした?」
「盗賊!?」
「はぁ~い、盗賊ちゃんでーす♪」
「しかも男!?」
「はーい、盗賊君でーす♪」
「えっ!?」
「てかさ、朝起きたら隣に勇者でさ、何があったノン?」
ぽんっ
盗賊女バージョン
「おま、覚えてないのか!?」
「なんのこと?」コテン
「あんなに苦労したのに!?」
「なんか迷惑かけたみたいだね? ごめんよぉ?」
「いや、別に」
「そなの?」
「……盗賊」
「なぁに?」
「いつもありがとうな」
「なぁに? 改まっちゃって! こわーい何企んでんの!?」
「誰が企んでるか! お前じゃあるまいし!」
「ひどーい! それじゃまるで僕が年がら年中何か企んでるみたいじゃなーい!」
「違うのか!?」
「ちーがーいーまーすー!! 心外だなぁ!!」
「……うん。やっぱこっちの方が盗賊らしい」
「ドユコト?」
「いや、こっちのセリフだ」
「ふ~ん?」
「朝飯食べるか?」
「わっ、やった♪ 勇者の手作り?」
「ごちそうしてやる。ありがたく思え」
「ありがとうございます勇者様ん♪」
……終




