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魔国の日常  作者: 盗賊
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魔王様のターン!

『魔王。それは破壊する者の象徴。ゲームや小説内ではラスボス。魔王を倒してハッピーエンド、というものは多いだろう。さらに強い敵が現れる場合もあるかも知れないが、大体においての終着点。今回は、そんな魔王のエピソード。個人紹介といこうと思う』


『俺は魔王。名前からもわかる通り、地位も魔王だ』

『はいストップー』

「ハ?」

『いえね、なんでさらっとナレーターやってんですか? それ私の仕事でしょう』

「いや、だってな? そういう話って聞いたぜ?」

『どういうことです?』

「えーっと、俺目線の、一人称小説?」

『えぇ!? 聞いてませんよ!!』

「……ってか、俺もそうだが、誰に聞くんだ?」

『それは、大人の事情ですよ。魔王様』

 ナレーターからのプレッシャーを感じる。

「……で、どうするか?」

『私としましては、暴走する危険性のある魔王を野放しにしたくはないな、と……』

「で、本音は?」

『どうせ暴走するんだろ? だったら、俺に仕事よこせ!!』

「なるほど理解」

『……あ』

「はい手遅れー。いいよ仕事やるよ」

『え? いいんですか!?』

「めんどくせぇし、いいよ」

『わーい。……では改めまして。魔王様のターンです』


『ある日、盗賊が魔王を訪ねてきました』

「マオちゃんいてるー!?」

 白いアオザイを着て、ロングストレートにした髪をポニーテールにした盗賊がドアをけ破る勢いで開け放つ。

「なんだなんだ!?」

 魔王はいつもの服で、書類整理中。

「魔王様!? 何か大きな音が……」

 魔王の配下モブが気にしてやってくる。

「だ、大丈夫だ。盗賊がバカやっただけで……」

「あたしバカじゃないもん!!」

「そういうことを言ってるんじゃない!」

「ま、まあ、分かりました。失礼いたします」

 モブ、空気を察し、部屋を出ていく。

「で、なんなんだ?」

『魔王様、少しの間で老けました?』

「黙れ」

「マオちゃんお菓子好きだったよね!?」

「あ、ああ」

「これ一緒に行こう!?」

『盗賊の手には一枚のチラシ。これが今回のキー』

「えー、ナニナニ? スイーツバイキング?」

「そうなの!! 二丁目のお祭りでさ、スイーツフェス! その中の一つで、ね、行こうよ!!」

「男がこれは……きついだろ」

 チラシには女性が好みそうな言葉と絵が……

「んじゃ女装してよ!! 魔王だから変身魔法でも可!!」

「おま、どんだけ行きたいんだよ!? だったら一人で行け!!」

「嫌だよ、一人じゃ寂しいよ!!」

『こうして押し問答すること五分……』

「あたしが奢るから!!」

「断る! 魔王だぞ? そこまで金に困ってない!!」

「とか言って倹約志向なくせに!!」

「当たり前だろ!? 誰の金だと思ってんだ? 税金だぞ!?」

「また魔王らしからぬ言葉だねぇ!!」

『さらに十分……』

「いいじゃん! 彼女のわがままに付き合わされた風にすればよし!!」

「いーやーだー!!」

『さらに……』

「だったらスナイパーとか連れてけよ! 勇者は、こういうの好きかわからんけども!!」

「嫌だー。お菓子好きのマオちゃんと行きたいのっ」

「だが断る!」

『盗賊の変化球!」

「きっと魔王様の好きなおいしいケーキとかあるよ!?」

「うっ……だ、だが、嫌だ!!」

「もういいよ!! だったら、このスイーツフェスにだけは行こうよ!?」

「それならよし!」

『盗賊の妥協案にのる魔王』

「何があるんだろうな? スイーツフェスだろ? 古今東西のうまいものが集まってるに違いねぇよな!?」わくわく

「……」

『結論。やっぱり魔王様も行きたかったんじゃん……』


 魔国、魔王街二丁目。

「あまーい香りがそこかしこから~」

「漂ってくる~」

『二人ともお菓子好き。顔がウキウキしています』

 魔王、普通の服装。白いシャツに茶色のベスト、茶色のズボンに編み上げブーツ。

『普通なのに、なんとなく貴族的な雰囲気は消せない。さすが魔王』

「それは褒めてるのか?」

『さあ? それにしても、魔王とは逆の意味で……』

 盗賊、何故か、なんちゃって制服。しかもツインテ。

『謎の人の雰囲気が消せませんねぇ』

「いや、消す気ないだろ……」

「えー? いやさ、ちょっと違う自分にチャレンジしてみたくて……?」

「何で疑問形? じゃなくてだな、こんなしょっぱなからカッコ変えまくりじゃぁ、なんだ、こいつ!? ってなるだろ?」

『魔王、兄のように諭しにかかりましたね』

「うん、わかるよお兄ちゃん」

「誰が兄じゃ!」

「でもさー、お兄ちゃん、これでもあたし、少しは気を使ってんだよ?」

「どこがだ?」

「これなら妹の我がままで連れてこられたって言い訳できるでしょ?」

「お前……」じーん

「さ、それじゃあ行ってみよー!!」ニヤリ

「お、お前!? 俺の心を弄んだのか!? 不覚にもジーンとしてしまったが、自分が楽しんでるだけだろ!?」

「あ、バレタ?」てへっ

「お前ぇぇぇぇ!!」

「ほら早く行くよお兄ちゃん!!」

『こうして魔王&盗賊のスイーツパーティーは始まりました』


『いろんな店を回った後……』

「いやぁ、美味しかったね」

「そうだな」

 綿菓子を食べる盗賊、コーラ味のロリポップをなめる魔王。どちらも楽しそうに帰り道を歩く。

「また行こうね? 今度はゆーしゃも誘ってさ」

「そうだな。スナイパーも……ま、気が向いて、連絡手段があって、すぐに返事が来たら連れて行ってやってもいいかな」

「……それ、連れて行く気あるの?」

 綿菓子がついていた割り箸を燃やしてごみ処理をしながらあきれて言う盗賊。

「まあ、まず気が向くか、なんだがな……」

「うーん。あたしが気が向いたら、連れて来てあげよう」

「気、向くのか?」

「わかんない」えへへぇ……

『お二人さん、スナイパーの扱いが、酷すぎません?』

「なんか空耳が聞こえるね、魔王」

「そうだな。今日たくさん歩き回ったから、きっと疲れてるんだな……」

「そうだね」

『私の扱いも酷くありませんか!?』

「「……」」

『ああ、そんな遠くを見つめて現実逃避しないでください!!』

『そうこうしているうちに城の門にたどり着きました』

「あ、裏に自転車止めてあったんだった……」

「自転車!?」

「ごめん、とってくる」

「いいよ、一緒に行こう」

 そして裏に。

「よいっしょっと」

「忘れもん無いか?」

「ん。無いよ」

「なら行くか。表まで送るぜ」

「ありがと魔王」

『夕暮れ。二人の影が長く伸びています』

「あー、早くおうちに帰りたーい……」

「今帰ってるだろ……」呆れ

「まだおうちつかなーい」

「今出たばっかだろ」

「そーなんだけどさー」

 盗賊、自転車に乗る。

「乗るの? 乗っちゃうの?」

「人の歩く速さ、難しい……」

『盗賊は魔王の速さに合わせて自転車を漕ぎます。ふらふら~っと、危ないです』

「うわっ」ふらぁ

「ほら、あぶねぇぞ」

「頑張る」

「ああ、でも今ふらっとしてよかったな」

「?」

「アリがちょうど轢かれそうにならなくなった」

「魔王のセリフじゃないよ!?」

「あ、アリが……っ」

「え、どこよ!?」

「ふう……」

「めんどくさ! 魔王めんどくさいよ! アリくらいで!!」

「“アリくらいで”!? アリだって生きてるんだぞ!!」

「だから、魔王のセリフじゃないよぉ!! ってかこの状況だったら、僕の方が悪者っぽくネ!?」

「そうだぞ! 弱い者いじめはよくないんだからな! 一寸の虫にも五分の魂」

「ちょっと待って! 僕、いじめてたわけじゃないからな!?」

「さっきアリ差別した!!」

「魔王、普通以上に正義くせー!!」

『こうしてそろそろ表につくころなのですが……』

「だいたい、魔王っていうのは、悪者の代名詞みたいなもんデショ!?」

「ハぁ!? 決めつけんな!! 俺は弱い者いじめなんてしないぜ!」

「どの口が言ってんだぁ!!」(スナイパーの件)

『アリの話に始まり……』

「そういえばさ、お前知ってっか? この曲……」

「えぇ!? マジで!?」

『いろいろな話に飛び火し、奥様方の井戸端会議並みに話し込み……』

「ヤベッ!! もうこんな暗いじゃん!! 早く帰んないと!!」

「俺も仕事しねぇとなぁ……」

「うちも書類整理が……」

「そこも同じだな……」

「「はぁ……」」

「じゃ、帰るね! じゃーね!!」

「おう。またなー」

 手を振って別れる。


『楽しい時も終わり、魔王は自室へ。書類が山と積まれた自室へ……』

「え、これ……?」

「魔王様のいない間に何故か増えていきまして……」

「……」

「まあ、早いものでも明後日で大丈夫ですので、焦らずともよろしいかと」

「よし、なら、今日は寝よう。めんどくせっ!!」

『結論。魔王はめんどくさがりで、めんどくさい』


『後日談』

「あれ? 魔王どうしたの?」

「ちょ、盗賊! お前書類整理得意だったよな!?」

「そりゃまぁ……何? 手伝えって?」

「手伝って!!」

「ヤダ」

「頼むから!」

「だが断る」

「時間ないんだって! そこを何とか!!」

「うーん……あっ! スイーツバイキングで手を打とう」

「えー……」

「どうせ魔王もお菓子食べだしたら楽しむんでしょう? ま、嫌なら嫌でもいいけど?」

 魔王に背を向ける盗賊

「わかった! わかったから!! 頼む!!」

「契約条件を……?」

「了承了承!!」

「はいはーい。契約成立。さ、さくっとやっちゃいましょうか?」

「さ、さくっ……!?」

「スイーツバイキングがあたしを呼んでいるっ」

『魔王の二、三倍くらいの速さで書類を整理し、魔王しかできないものを回していく盗賊。それを見て、何故か、ちゃんと仕事はためない! と決意した魔王であった……』


『後後日談』

「ほらぁ、やっぱり楽しんでるじゃない」

「ここまで来たら楽しんでやるぜ!!」

「やっ、さすが魔王!!」

「これうまいぜ? 食うか?」

「いただきますっ」

「んじゃ、これもーらいっ」

「あ、それあたしまだ食べてないのに!!」

『いちゃいちゃカップルだと思ってました(店員談)』

『楽しめて何よりでした……』


「なあ」

「ん?」

「俺のターンのはずなのに、お前、出すぎじゃね? 俺より活躍してるよな……?」

「細かいこと気にしちゃだーめ」

「細かくねぇよ!!」

「だって、ねぇ……。この話の作者名見てもらえればわかると思うけど、あたし盗賊なの」

「?」

「だからあなたのことなんてわからないわ。だからこうして話を回さないとねっ」

「それ、意味がよく……」

「とにかく、気にしたら負けよ!」

「え、えぇー……」

『勝手な盗賊に納得いかないながらも諦めた魔王であった……』

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