魔王ニャンニャン記・外伝
『魔王様がスナイパーに会って、城から逃げ出てくるまでに一体何があったのか……それを語ろうと思う』
『スナイパーから逃げ出した後……』
「はぁ、はぁ……よ、よし、もういな……」
「猫ちゃーん! どこぉぉぉ!?」
「まだいやがった!!」
廊下の角に身をひそめる。
「猫ちゃぁぁぁん!?」
その前をスナイパーが走り去る。
「ふぅ。これで大丈夫か……?」
そっと廊下を覗き込む。
前方人影なし。後方……
「……」
「……」
「……」
書類を抱えたモブB。
「あなた確か、昨日の……?」
「モブB?」
「あ、はい、なんでしょう?」
「言葉分かるのか!?」
跪いて目線を合わせるモブBの手をタシタシ(効果音。手を何回も肉球ではたくような音)する魔王。
「いえ、申し訳ないのですが、分かっているのとは違うかと……なんとなく、そう感じるだけです」
書類を横に置き、代わりに猫を抱き上げる。
「そ、そうなのか……」
「はい、申し訳ございません」
(猫相手にこんな真面目なのかよ……)
「ダメでもともとだ!」
「何がです?」
「俺魔王! ヘルプミー!!」
「すみません。意味がよく……」
「どっちだ? 理解できないだけか!?」
「いえ。両方です」
「そうか……」
「猫ちゃぁぁん!?」
「んげ!!」
「どうしたのですか?」
「匿ってくれ!!」
「追われているのですか?」
「そんなもんだ!!」
「分かりました。あなたはここにいてください」
廊下の陰に猫を隠す。
書類を持ってスナイパーの前に。
「猫ちゃ……げっ」
「何をしているのですか?」
モブB、真顔、ひんやりボイス。
スナイパー、顔が引きつる。ちょうど悪戯中に苦手な先生に会っちゃった……みたいな顔。
「え、えっと、猫を探して……」
「猫ならあちらに怯えた様子でかけていきましたよ」
「ほんと!? じゃあ、これで失礼……」
「お待ちなさい」
「な、なにか……?」
「あの猫は怯えて、かけていったのですよ? あなたが怯えさせたのではないですか?」
「あ、あたし!?」
「大声で呼びながら追ってくるなんて、恐怖以外ないと思うのですが?」
「そ、それは……」
「あの猫は魔王様が拾っていらした大切な猫ですよ? それを怯えさせて、追い回して、心に傷がついたらどうするつもりなのです?」
「……」
「どうするつもりなのです?」
(う、うわぁ~、こえぇ~。どこの嫌味な先生だよ……)
「そ、それは……」
「どうにもできない過ちを起こさないようにしなさい」
「はい……」
「今日は部屋でおとなしく反省でもしなさい。それから、城は大声を上げて走り回ってもいいようなところではありません。魔王様は寛大ですが、他の貴族たちに見られてごらんなさい。魔王様の品位が下がります。肝に銘じておきなさい」
「……」
「分かったのなら、お行きなさい。それからこれ。この前出した報告書ですが、色々なところに間違いがありました。これくらいちゃんとできないのですか? 初めてやったわけではないのでしょうに」
スナイパー、下を向いて服の裾を握りしめている。
(うわ、スナイパー震えてる! 泣きそうじゃねぇか!! 言いすぎだって!!)
「それから……」
「B!!」にゃぁ!!
「! ……あ」
「……す、すみませんでした」
「いいえ。では、言ったところを直してきてくださいね。三日までなら待てますから……」
「はい……」
「……」
「……」
「……えっと」
「し、失礼します!!」
スナイパーは逃げ出すように、走り去った。
「あ……」
「モブB!!」
「どうしましたか?」
「言いすぎだろ! 泣きかけてたぞ!!」
「……」
「オイ! 何とかいえよ!!」
「……ええ。言い過ぎました」
「それだけかよ!?」
「それは……。っ!」
誰かが来た気配がしたので、モブBは猫を抱き上げ、走らない程度に速く自室を目指した。
「なんだよ!?」
「人が来ますので。あなたのことはあまり知られていないのですから、危険なものに見つかると大変です」
「危険なもの?」
「代々の王族の意向で、この城のほとんどは人型です。特に魔王様の周りなどはその中でも見目のいいものが集められています」
「そうだったのか……ってか、自画自賛?」
「そう言われましても、そういう条件で集められていますので、ただの事実となってしまうのですよ」
「……さいですか」
「ですが、騎士などには獣人や、使役魔獣などがおります。そいつらに見つかりますと……運が悪ければ、猫を食べる種族に捕まってしまうかもしれません」
「それは困る!!」
「でしょう? ……そういえば、魔王様はどうしました? 魔王様のことですから、猫一人では危険だということを分かっていらっしゃるはずですのに……」
「悪い。全然わかってなかったわ」
「は?」
「なんでもない。行く当てもないし、少しの間匿ってくれ」
「分かりました」
書類と猫を抱いて、部屋に入る。そこには……
「ぬいぐるみ!?」
ウサギに猫、犬、カメなどもあるが、すべてがフカフカしたかわいらしいぬいぐるみだった。
「ああ。お恥ずかしながら、趣味でして……」
「にゃ!?」
「手作りなのですが……」
「お前ホントは女!?」
「正真正銘男です」
「心は女の!?」
「いえ、心も体も男です」
「嘘だ!!」
「失礼な」むぅ
「えー!?」
「心を見せる魔術は扱えませんが、体の方なら証拠ありますが?」
「結構です!」
暗い青系統のシンプルで飾り気のない部屋の中、たくさんのぬいぐるみたちが浮いている。
書類を机の上に置き、猫をベッドの上に放して、自分はピンクのウサギのぬいぐるみを抱き、ベッドに腰掛ける。
(に、似合わねぇぇ!!)
「さっき、スナイパーにとても言いすぎてしまいました」
「あ、ああ。それな。ほんと、目に涙溜まってたぜ?」
「ええ。私、いつもそうなんです……言いすぎてしまって、自分では止められなくて……」
「え?」
「直そうと思っても、直せなくて。モブAにも酷いことばっかり言ってしまって……」
「そ、そういうやつな……ときどきいるよな……」
「そうでしょうか? ここまでは重症ではないでしょうか?」ぎゅぅ
「そ、そこまでじゃないんじゃないか? あいつはそれをバネによくやってるようだし」
「……昨日きたばかりなのによくわかりますねぇ?」
「結構いたからな、魔王だからな」
「……意味、分かりませんでした」
「うーむ。わかるとことわからないとこがあるんだな……」
「……それでも、女性相手にもあれでは……いつか本当に傷つけてしまいそうです……」
「げ、元気出せよ……」
「あなたの心に傷をつけたらどうするんだ、と言いましたが、私のことですよね……」はぁ
「卑屈になんな!!」
「私なんて、わたしなんて……」
ぬいぐるみに顔をうずめ、ぎゅぅぅ
(ウワ! こいつこんなめんどくさいやつだったのか!!)
「だ、大丈夫だって、落ちつこ? な?」
「あなたにまで心配をかけさせて……本当に私は……」ぽふぽふ
「誰か助けてー!!」
魔王匙投げ。
「大体本来は俺こんなキャラじゃなくね!? こーゆーのって勇者の役目じゃね!? 俺どっちかってーとハイな方向に暴走するキャラなのに!!」
「ほんと申し訳ございません……」
「あーもうやめろって!!」
「すみません……」
「ヤメテー!!」
『こうして十分以上はモブBの卑屈に付き合わされた魔王でした。もちろん、人型に戻った後、説教の初めの頃はに生暖かい目を向けてちゃんと聞いていたそうです。その後数分で言葉が胸に突き刺さりすぎて半泣きになり、仕事に忙殺されたのでしたが……』
「あいつの言葉は一々正論なんだよ!! そりゃグサグサくるっての!! 仕事も溜まっていやがるし!!」
『おしまい。チャンチャン』
「口でいうのやめろー!!」
魔王様、ドンマイエンド。
「説明にまで変なこと書くなああぁぁぁぁ……!!」ゆっくりフェードアウト




