紹介〜朝食の席にて〜
ダラダラーっとした、ギャグ話です。
ダラダラーっと続けていきたいと思いますので、よろしくお願いします。
『貴方方は知っているだろうか。人間界の闇に潜む魔の世界に……。そう、物語の舞台、ここは魔界、魔王の住む城がある魔国……』
『ここはいわゆる、魔王と勇者のゲームのような世界、と言えば分っていただけるだろうか? 人間がいて、魔族がいて、魔物がいて、亜人がいる。そんな世界だ』
『薄暗い部屋、天蓋付の大きなベッドにその部屋の主はいた』
「魔王様、お食事の用意ができました」
カーテンを引き、部屋に明かりを入れつつ侍従が告げる。
「ああ、分かった。今行く」
耳をくすぐるのは心地の良い低音。天蓋の奥から動き出す音が聞こえる。
『魔界の主、魔族の主、魔王。その名には恐ろしい雰囲気が付きまとう』
魔王が支度を終え、廊下を歩く。
カツーン、カツーン……
魔王に相応しい、石造りの暗い城。壁には蝋燭が、人が通るだけの風にも揺れ、不気味な影を作り出す。
大きな扉にたどり着いた。ここが食堂のようだ。
「今日の朝食はなんだろうな?」
『魔王らしい威厳のある態度。それは肝の小さいものには猛毒だろう。声だけで潰してしまえそうな圧力を持っていた』
「それはお楽しみでございます……」
「はははっ! それはいい」
『魔王の朝食、それは一体……』
扉が開く。そこは、この城の雰囲気とは真逆の……?
「あっ! マオちゃん? お先いただいてます~。いやぁ、これおいしいったらないねっ!!」
『朝日が降り注ぐ白基調の部屋。白いテーブルクロスが眩しいくらいのテーブルに、魔王よりも先についているモノがいた』
「お前!! ちょ、俺の分も残しといてね!?」
「あ、ごめーん。これ最後だったわ。ぱくっとな」
「お前ぇぇ!! 最後と言いつつ食うやつがあるかぁぁぁ!!」
『さっきまでの威厳はどこへやら。ツッコミキャラの成り果ててしまった魔王……』
「じゃかましい!!」
「うーん、ほんとおいし~。お菓子に囲まれて、あたし幸せよぉ~」
「……って、オイ? 朝食って聞いたんだが、なぜここまで塩気のものが一つもないんだ? いや、パンケーキとかのときもあるから、塩気はこの際いいんだ。だがな、なんでここまで生クリームとか砂糖人形とか、かわいくて甘いものしかないんだよ!?」
「いや~、ここのパティシエは最強ねっ。さっすが王宮専属ってとこ?」
「だろ!? そいつな、三丁目のお菓子屋からスカウトしてきたんだよ。……って、話を聞け!」
「お菓子屋とか、かわいいなー、魔王ったら」
「……もういい」
「パティシエをスカウトって、そんなにお菓子にこだわってるのねぇ?」
「んだよ……。甘いものが好きでわりぃかよ」
「いや悪くない!! 甘いものは正義だよね!!」
「だよな!!」
『二人が意気投合したここらで紹介といきましょう』
『お菓子好き、仕事をしている時といないときのオンオフが激しいこちらが魔王』
血のように真っ赤な肩までの艶髪に、漆黒の瞳。服は黒基調の魔王に相応しい豪華な服。男にしても長身。
「なんか納得いかねぇ説明だが……、俺が魔王だ。以後よろしく頼む」
魔王:レベル三十。性別、男。職業、魔王。
『こちらもお菓子好き、本日は何やらハイテンションだが、本質は謎の人、自由人、元ナレーター、盗賊』
ゆるくウェーブがかかったような長い真っ白な雪髪に、翡翠の瞳。魔法使いのような黒いローブを身に着けて、顔も隠していることが多い。
「はぁーい、盗賊です。これからよろしくお願いね」
盗賊:レベル二十三。性別、不明。職業、盗賊。
「……んでもって、僕も説明に納得いかなーい。あたしそんな謎やないよ?」
「口調が一定しない。さっきまでは安定していたが、今乱れた」
「あ、せやねー。困ったねっ」
「おまけに変身魔法のスペシャリスト。よく姿変えてるだろ?」
「あんっ! 知ってたの? それ盗賊ちゃんの重大な秘密なんだから、ほかの人に言っちゃだーめよ?」
『盗賊からのプレッシャーを感じる』
「……と、いうか、なんで盗賊のほうが説明が長いんだ!? 俺主役だぞ!?」
『では追加。世界征服を目論む魔王。口癖は、だりぃ、ねみぃ、めんどくせぇ。争いを好まず、ノリが抜群に良い』
「争い好まないのに、世界征服とかね(笑)」
「なんだと!? 世界平和のために世界征服して何が悪い?」
「イミフ~」
「この世界を一つにして、戦争や紛争を無くすんだ!!」
「それ魔王のセリフじゃないよねっ」
「うるせー謎の人!」
「あ、そーいえばさーあたしこれでも一応勇者パーティーなんだけど、ホントにお呼ばれされちゃってもよかったの?」
「またスルーか!! もういいよ! 諦めるよ!! 好き勝手食ってきたくせに今更そんなことゆーなよ!!」
「それもそうだねぇ。ありがとマオちゃん。おいしくて大好きよ!」
「それ俺のことじゃなくね!?」
『こうして楽しく朝食の時間は過ぎていく』
「あ、そういや勇者は?」
「村人Aのお使い行ってる」
「人助けってか、体のいいパシリ?」
「そうともゆー」
「誰がパシリだ!!」
太陽の光を紡いだような金髪は肩につくくらいで、後ろで一つにくくってある。瞳は夏空色。服は青基調の騎士服。女性としては長身。
『こちらが勇者。魔王となぜか仲が良い、馬が合うというやつか?』
「……魔王の説明よりも酷くないか? ともかくこれからよろしく」
『あんまりスルーは気にしない?』
「……」
「あ、勇者ぁ! 会いたかったよぉう!!」
盗賊、勇者に抱き着く。
「うおっ!? お、おお、盗賊」
「マオーの朝食は美味しいものがいっぱいだよぉ?」
「うん、そうだな……? おい、なぜここまで塩気がない?」
「それ、もう俺がツッコんだ。だが、まあそうなんだよ。パンくらいないのか?」
「パンがなければケーキを食べればいいじゃなぁい?」
「……どこの暴君だ?」
「……まあ、それよりも、なぜ私の紹介は出てこないんだ? レベルとか」
『忘れてました』
勇者:レベル一。性別、女。職業、勇者。
「れ、レベル一……」
「ギャハハハハっ!! レベル一だって!?」
「それじゃ片手も使わずにひねりつぶせるぞ!?」
魔王、盗賊、肩を抱き合い勇者をいじめにかかる。
「おいっ、盗賊! お前こっちの味方だろう!?」
「でも、だって、一レベ……www」
「一だってよ一www」
「「wwwwww」」
「裏切り者ー!!」
『以上三名がこの話の主となる人物。……あ、ついでに私、ナレーターを務めさせていただきます、天の声と申します。説明文とはまた違います。以後お見知りおきを……』
「ちょっと待ちなさいよ!!」
「ちょっと天ちゃん!! さっきまでのかしこまり具合半端なく変だったわよ!?www」
魔王と盗賊がナレーターにまで声をかけてくる。
「ちょ、ちょっと……」
「ほんとだぜ!! オープニングの時とか特に!!www」
「貴方方は知っているだろうか……とか言っちゃってさ!!w」
『あ、やっぱー? 俺もキャラ作りすぎたかなーとか思った!!wwwww』
「でも低くていい声だったわよん!」
「ちょっとおもしろすぎたけどな! 吹き出すのこらえるのがどれだけ大変だったか!!」
「ちょっと待ってって言ってるじゃない!!」
「「『はい?』」」
「あたしのこと忘れないでー!!」
半泣きの少女。
『いえ? 忘れていませんけど?』
「だって、以上三名って!!」
『聞いていなかったんですか? 主となる人物、三名です』
「ハ?」
「つまり、お前は主なキャラに含まれねぇんだよ」
「モブ以上、脇キャラ未満?」
「脇キャラ未満!? 脇キャラですらないの!?」
『紹介いたしましょう、いちごミルクのうさみみツインテール、キャラメルの瞳、ふりっふりの、きらっきらの、ぶりっぶりのゴスロリ! ヘッドドレス付!!』
「何よその紹介!? しかもなんであんたが言うのよ!? ついでにぶりっぶりって何だぁ!?」
『言ってみたかったんですよ。 ぶりっぶりは、分かりますよねぇ? ぶりっ子ちゃんのことですよ』
「ぶりっ子!? 誰がぁ!?」
『あなたですよ、あなた……って、本当の紹介のほうが疎かになってしまいましたね、失礼。……実は最初から彼女がいたことを私は知っている。ではなぜ気づかれなかったのか、それは、わざとスルーしていたから!! 魔王の配下、雇われスナイパー!!』
スナイパー:レベル十三。性別、女。職業:雇われスナイパー
「私よりレベルが高い!?」
小声でショックを受ける勇者。
「そんな紹介イヤー!!」
「事実なんだからしょうがねぇだろ?」
「事実なんだもの」
「事実だもんな」
魔王、盗賊、勇者の順。
「えぇーん! 皆して酷いよ!!」
泣きだすスナイパー。
「ってか、あの髪でスナイパーか……」
「目立つよね? 暗殺に向いてねー」
魔王と盗賊ひそひそ話。
「あー、よしよし」
勇者がなだめにかかる。
「勇者ぁ!!」ぎゅぅっ
「あ、ちょっと!? 勇者は私のものなんだから!!」
「違うだろ!? 勇者は俺ら皆のものだからな!!」
「あーーーーー」
『この状況を見てお分かりいただけると思いますが、この四人は仲良しです。魔王も勇者も、盗賊も私も、仲良しです』
「あ、あたしはー!?」
『これは魔国、魔王城の日常の一コマ。これが普通なのです。これからもこのグダグダっとした、楽しい日々は続いていきます』
「その続きに、付き合っていただければ幸いです」
「お前が締めるのかよ、盗賊っ!?」
「では勇者と魔王に締めていただきましょう?」
「え、私?」
「俺? ……これからもグダグダぁっと続けていくつもりだ?」
「……よろしく頼む?」
「ほらぁ、やっぱりうちが締めたほうがよかったでしょ?」
「お前みたいなキャラが安定しないやつに締められたくない」
『ここはナレーターの私が……』
「あたしが締めたゲル!」
「僕が!」
「いや、俺様だろ!」
「わ、私が……?」
『ナレーターである私が普通でしょう!!』
「またスルーしないでぇ!!」
わいわいぎゃーぎゃー
こうして日は高く昇っていき、もうお昼時に。ナレーターでさえも、これが朝食の席だということを忘れてしまったよう。
「こんな状況でお開きになんてできないわよ!?」
「よし、もう朝飯には間に合わねぇ! 急いで締めるぞ!?」
「お前が足を引っ張らなきゃ……!!」
「グダグダ言ってないでよ!!」
『そうですよ! いきますよ? せーのっ』
「「「「『これからよろしくお願いしまーすっ』」」」」