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始まりは惨殺死体と共にⅡ



私のとっても可愛い幼馴染。

ちなみに男の娘で、いや間違えた、れっきとした男である。


お、おい、わるかったって。ちょっと調子に乗っただけ、って、おい、包丁持ってくるなって。


えーっと、名前は(すめらぎ) 真白(ましろ)。男だ。

女みたいな名前だと本人は嫌がっているが私はぴったりだと思う。

色素の薄い茶色の髪と同じく茶色の瞳。

まるで陽だまりのようだと例えられる笑顔や、全然怖くない怒った顔など本当に可愛らしい。


守ってあげたい()()1位に挙げられていたのを私は知っている。

真白(本人)は私に隠しているつもりらしいが、筒抜けなのだ。

なぜなら、なぜか私に色々報告してくる奴らがいるからだ。

そいつらは『春樹様(わたし)と真白様を仲良くし隊』という一風変わった集団で、なんでも真白様(幼馴染)の可愛さを春樹様(わたし)に伝えることが使命なのだそうだ。


私にはよくわからないが、まあ、そんなやつらのおかげで私は真白の動向をほとんど知っている。


実際の報告書を見ると奴らは、もはやストーカーとしか言いようのない集団である。


「正直、気持ち悪いんだがな。」


ポツリと呟いてしまった。

淡々とした声で無感情に無表情で。


「お、おい誰だよ、春樹キレさせたやつ‼」


「誰ですか?春樹様を怒らせた方は!」


なぜか家庭科室中がざわめきとピリピリとした空気で満ちた。

私は怒ったつもりはないんだが、そういうことになったらしい。


ドスッッ‼‼‼


面倒なことになってしまった。


「だれ?僕の春ちゃんに何かした()()。」


ああ、面倒くさい。

これだから嫌なんだ。


「ねえ、どこのどいつが春ちゃんに気持ち悪いことしたの?」


クラスメイトの反応も面倒限りないが、この幼馴染の反応が一番面倒だ。

ほら、今にも殺しそうな雰囲気を纏っている。


「こら、真白。包丁を置けって。」


ゆっくりと真白に近づいて、その手に握られている包丁を置こうと試みる。

いやー、怖いよね。包丁持って、切りかけていた大根に刺してるし。


「嫌だ。春ちゃんに何かしたやつに思い知らせてやる。」


地獄の底から這いあがってくるような怒りのこもった低音ボイス。

恐ろしいな。うん。普段温厚な奴ほど怒ったときは怖いというのは本当だな。


「真白、私は大丈夫だから。心配するな。」


あくまで諭すようにゆっくりと穏やかに声を掛ける。

そうしなければ真白(こいつ)はいつまでも怒り続けるし、報復しに行くかもしれないからな。

よし、ついでに頭も撫でてやろう。普段はほとんど使用することがない笑顔も浮かべて。


「あぅ。な、ななななな何で笑ってるのさ!もう、馬鹿!好き!」


顔を真っ赤に染めて、照れながらも嫌がるそぶりをしない馬鹿(ましろ)

むしろ、もっと撫でろと言わんばかりに頭を押し付けてくる。


「はいはい、撫でてやるからそんなに押し付けてくるなって。」


犬だったら尻尾がブンブンと振られているのだろうな、とぼんやりと考えながら撫でていた。

それにしても、髪がサラサラでツヤツヤだ。

くそう、女の敵め。女失格の私が言えたことではないのだが、ここはひとつ物申す必要があるだろう。


「お前は本当に可愛いな。」


真白の髪から頬に手を滑らせ、真剣に真面目に本気で言ってやった。

なぜこんなに可愛いのだろうか、謎だ。


「………………………ゕ。」


「ん?何か言ったか?」


ぼそりと何かを真白が言ったような気がした。


「………何でもない。」


プクリと頬を膨らませて顔を背けてしまった。

何だ?変な奴だな?


それにしても、周りは狂大乱だな。

何か女子は鼻を押さえていたり気絶した奴がいたりで、酷い有様だ。


「何が起こったんだ?」


こんな状況に陥るなんて、よほどの猛者に襲われたんだろうか?


「はぁ、ほんとに………。」


何故か幼馴染はこちらを見て溜息をつく。

何だろうか?私、何かしたか?

まあいいか。とりあえず、撫でよう。

気持ちいいし、落ち着くからな。

それから教室の混乱が収まるまで私は真白の頭を撫で続けた。


余談だが、この時間の担当教員は鼻血を出して机一面を真っ赤に染め上げていた。

何やら「我が人生に…一片の……悔い…なし……。」とか呟いて気絶したらしい。

そして、その時の顔はとても幸せそうだったらしい。

私には真白が邪魔して見せてもらえなかったのである。

なんでも「あんな気持ち悪いもの見せられないよ。春ちゃんが穢されちゃうもん。」だそうだ。

是非とも見たかった。


こんな私の世界は今日も楽しく輝かしい。

愉快なクラスメイトやストーカー予備軍たち。

何より真白が一緒だからな。


「お前を一生大切にするよ、真白。」


「な、なななな、ば、馬鹿ぁぁぁ‼‼春ちゃん、男前すぎるの‼」


僕だって好きなんだからぁ、と情けなくも力強く抱きしめる腕は、やはり心地いいものだった。



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