始まりは惨殺死体と共にⅠ
愉快な喜劇が納められましたので、皆さまにご紹介いたします。
春の麗らかな日差しが教室の窓から差し込んでいる。
なんとも今日は昼寝日和である。
突然だが、私の目の前には腸が露わになり、あらゆる肉がそぎ落とされ、ぐちゃぐちゃにされた、見るも無残な惨殺死体のような物体が置かれている。
そして、その惨殺死体のようなものを作り出したのは、まぎれもない私である。
その証拠に血飛沫が顔に飛び散り、私の手は血で赤く染めあがっているのだ。
この惨殺死体のようなものを生み出した包丁には、まだ血に塗れた肉片が付着していた。
目の前の悲劇を前にぼんやりと思い返すのは5分前のこと。
私の手元に置かれたのは、まだ生きている身体だった。
私の手から逃れようと必死で逃げている様を見て、なんだか悲しくなったものだ。
しかし、慈悲など与えるはずもなく私は頭を切り落とした。
その時、勢い余って使用していた包丁が下の板まで刺さってしまったのは痛恨のミスだ。
まあ、それぐらいはいつもに比べたら可愛らしいミスでしかないので、私はまったく気にしなかった。
頭を切り落としたので、今はピクリとも動かないその身体に私は再び刃を入れようとしている。
次は背骨に沿って身体を開いていく。ここまでは、今までで最高の出来だったので思わず含み笑いをしてしまった。その時周りから悲鳴が上がったが私は気にしない。
なんだか指が痛いなあ、と思い見てみると、小さな骨が刺さっていた。
先ほどまでの上機嫌が嘘のようにイラついたので、舌打ちをしながら私は黙々と解体に勤しんだ。自分の不器用さにむかつく。
気づけば周りは悲鳴や絶叫、人間が力尽き倒れる音があふれ阿鼻叫喚地獄のようになっていた。
必死になって私に懇願してくる女子生徒や、もはや怯え震えている男子生徒、制止を促してくる教員の姿があった。
はあ、せっかく途中まで上手く捌けていたのに。
久しぶりの料理だからワクワクしていたのになぁ。
ブリ大根、作りたかった。
ブリを捌くことは私には難易度が高かったんだな、きっと。
米を炊いてみるとかは、どうだろうか?できる気がする。
あれは米を水で磨ぐだけだし、ザルを使えば私にもできるのではないだろうか。
よし、先生に言ってみよう。
うん、惨敗した。先生が見ている中やってみたが駄目だった。
米が砕けて細々とした欠片になってしまった。
先生も初めは根気よくオブラートに包んで注意してくれていたのに、いつの間にか憐れみの目で見られていた。
そういうわけで、私は戦力外通告を受けたため、窓に背もたれながら実習中の同級生を眺めている、調理実習中だが。
「ああ相変わらず麗しいです、春樹様」
「あの物憂げな視線に捕らわれたい」
「おい、なんでアイツばっかりモテるんだよ」
「つーか少しくらい手伝ってくれてもよくね?」
「お、おい忘れたのかさっきの、ぶり大根の悲劇を‼」
こそこそと言っているつもりなのかもしれないけれど、全部聞こえているのを言ったほうがよいのだろうか?
まあ、空いたこの時間で自己紹介といこう。
私の名前は涼宮 春樹という。
まるで男のような名前であるけれど、これでも生物学上では女だ。
もう一度言おう、生物学上ではである。私はあまりにも女らしくなかったのだ。
まず、私は家事全般のスキルが壊滅的である。
料理をすれば先程と同じようにキッチンが血の戦場と化し、爆発や包丁が飛び交う。
洗濯は私と根本的に合わない。手洗いをすれば服は破れるか伸びるし、洗濯機を使うとなぜか洗濯機が壊れる。
掃除をすると何かが破壊される。花瓶に始まり、食器、机の脚、窓ガラスなどだ。
片づけなどは出来た例がない。まあ、片づけに関しては物のほとんどない自室では、する必要もほとんどないのだが大掃除などでは私は戦力にならない。
女らしさの欠片もない女が私である。
しかし、男らしさなら持ち合わせているのだ。
空手、剣道、柔道などは有段者であるし、合気道、少林寺拳法、総合格闘技、ボクシングなども得意だ。
虫は平気で殺せるし、なんならゴキブリも潰せる。
普段は使うことを禁じているが、暗殺術や殺しの技も習得しているのだ。
一応動物を捌くことも可能だ。そのあとの調理が壊滅的なので食べることは叶わないが。
このようなスキルが磨かれたのは私の幼馴染の所為である。