表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/9

無知なる者の罪Ⅱ


莉音の隣を歩いていた莉音の兄が気付いた時にはもう遅く、悲しそうに笑って


「莉音は優しいね。」


とそう言っていました。

莉音は兄の悲しそうな笑顔を見て「ごめんなさい」と泣いたのです。



莉音の涙をみて悲しい気持ちにはなりましたが、莉音の願いは叶えてあげたいと思うので、私は件の神に問うたのです。


「覚悟はできていますね?」


いつものように美しく醜い笑みを浮かべ。


「あなたが悪意を向けていた存在が何なのか知っていますか?」


「もちろん知っているとも。愛しき莉音に近寄る醜く汚らわしい愚かなゴミだ。」


ああ、なんと愚かな。

自らの過ちを忘れ去った愚かな神がここにいる。


「なぁ、クラウン。こやつ殺めたところで罪にはなるまいな?」


私の背後で怒気と殺気に満ちた【復讐の女神(ネメシス)】が立っていました。


「そうですね。このようなゴミを消滅させたところで、些細なことです。何かが変わるわけではありませんよ。


ああ、けれど一つ言うならば、ぜひとも、このゴミの最期の『物語』を図書館に納めたいので、私が執筆するためにもゆっくりと時間をかけて、お願いしたいですね。」


このとき思ったのです。

私自身が執筆しよう、と。

この愚かなゴミの最初から最期まで。


「珍しいな。クラウンが自分で書くなんて。」


「私が書かなければ、きっと残らないのですよ。こんなゴミのことをわざわざ書こうとする物好きなんていませんから。

それに憐れではありませんか。このように愉快な最期を演じていただいた贖罪の山羊(スケープゴート)を後世に残せないなんてことになってしまうと。

だから私は善意と悪意、憐れみと嘲笑いをもって真実と虚実を紡ぎたいのですよ。」



世界の全ての書物を集めることが、【館長】たる私の仕事なのだから。

世界の全てを記し残すことが、【記録者】たる私の役目なのだから。

世界の全てに意味を与えることが、【   】たる私の責任なのだから。



「やはりお前は趣味が悪いな。」


復讐の女神はニタリと嗤って言いました。


「ええ、あなた様も。」


私の考えていることが分かってしまう復讐の女神(ネメシス)も同じく趣味が悪いのです。

同じ思考回路で考えることが出来るのですから。


「では、可愛い莉音様の()()に私は私の性質に従って復讐するとしよう。」


そう言って復讐の女神は復讐を始めた。

復讐の女神による大いなる神罰が下される。


【災い渦巻く牢獄の】


その(うた)は祈るように優しく残酷で

その(うた)は灯のように淡く鮮やかだった。


【虚無と絶望の(かいな)に抱かれて】


復讐の女神と讃えられながら誰よりも慈悲深い優しき女神。

慈悲深いが故に彼女は復讐するのだろう。


【眠る其方よ】


心優しき復讐の女神は許すことが叶わないほどに怒り狂ってしまうのだから。


【常夜の闇となれ】


復讐の女神の下した神罰は神をも消滅させる復讐(もの)

そして、苦しみを長く続かせない一瞬で終焉を迎えられる慈悲(もの)


常夜の闇は一瞬で神の存在を消し去った。

闇が弾け、黒き漆黒の光が舞い散った。

嘆きも悲鳴も懇願も等しく無慈悲に葬り去る。

それは酷く幻想的な『物語』のエピローグを飾る光景であった。







莉音の犯した始まりの罪は『この世に生を受けたこと』


穢れなき莉音の二度目の罪は『神殺し』




神々に愛され、運命にさえも愛された心優しき莉音は、

いつまでも無垢で残酷だった。

己を常に守り導いてくれた兄を幸せにするために

優しくありたいと願い、優しくあろうとした莉音は、いつだって笑顔を浮かべていた。


そうあることが兄を幸せにすることに繋がるのだと、愚かにも信じていた。


兄が本当に幸せになるためには【  】を犠牲にする必要があるのだと知らずに。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ