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お兄ちゃんがいなくなってから、沈黙が続いた。
その沈黙を破ったのは、あたし。
「おかあさん」
「…なに?」
「はやとおにいちゃんはどこ?」
あたしの質問に、お母さんは一瞬たじろいだが、あたしをぎゅっと抱きしめた。
「ここにはいないわ…」
「ねぇどこ?」
「……波瑠…」
「はやとおにいちゃんにあいたい。
ねぇ、おかあさん…」
「波瑠……」
「あいたい。あわせて…。
おにいちゃんにあわせて……」
「ごめんね……」
「うぅっ……グズっ……。
おにいちゃ……あいた…」
「ごめんね…波瑠…」
ポタ─。
お母さんの目から、一粒の涙が流れた。
「…う…、うわああああ!!あああ!!」
それを見た瞬間、すべてを悟った気がした。
隼人お兄ちゃんは、もういない。
それはまるで、悪夢のような出来事で…。
早く覚めろと祈りながら、泣いては寝て泣いては寝てを繰り返したが、何日経っても、夢が覚めることはなかった。
そのことが、よほど深い傷となったのだろう。
1ヶ月後、あたしの記憶から『隼人お兄ちゃん』は
消えてしまった。
もちろん、あの約束のことも。
大好きだったお兄ちゃんは、今は遠く離れてしまった。