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過去に何があったのかはわからない。
でも、きっと…忘れたくなるほど悲しい出来事があったんだと思う。
だって、頭に怪我とかしてるわけじゃないし。
なくなった記憶について、お母さんやお兄ちゃんに聞いたことがある。
お兄ちゃんは「知らない。俺も覚えてない」と言って、話したくないというオーラを作っていた。
お母さんは「思い出さない方がいいかもね」と言って、教えてくれなかった。
気にはなるけど、2人がそこまで言うなら知らない方がいいのかも…と、追求することを諦めた。
実際、記憶がないと言っても小さい頃のことだけだから、問題はなかった。
…まさか、こんなところで幼なじみに再会するなんて。
「…ふーん。
ま、俺のことはいいや。
……で、波瑠。
なんでさっき泣いてたの?」
え…、それ、話さなきゃいけないんですか?
「それは……」
あたしにとってこの人……隼人さんは、今日初めて会った人。
そんな人に、自分の恋愛事情を聞いてもらうなんて……いろいろ無理。