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果テの先  作者: 加水
第三話
8/14

伝染する噂 (6)

俺は、目を覚ました。いや、薄暗い自分の部屋で布団の中に居たのだ。

そういえば、場所は関係ないんだっけな。この夢。にしても、今日はやけにはっきりと夢だとわかるもんだ。

奇妙な感覚には俺は体を起こし、鼻で笑った。そして、身を起こすと丁度自分の真後ろにあるであろう押入れの気配を探る。

特に何も違和感は感じない。なんだかいつもの部屋にいるような感じだ。だから、ほっとして安易に後ろを振り返ってしまった。

振り返って俺は愕然とした。目の前に侵入してくるのは、押入れの戸から覗く闇と、そこに見える密かな光。昨日と違って少しあいてる押入れの扉にも驚いたが、それよりも、小さな光が俺には眼に見えた。その目と俺の目がかち合っていて、俺は動けないでいた。

な、なんなんだあれ?そういう疑問に駆られ目が離せずに冷や汗だけが流れ落ちる。



ドンドン!!



いきなり大きな音が耳をつんざく。何かを叩くような音、それと一緒にガチャガチャというドアノブをいじる音が聞こえた。見なくたってわかる、わかるけど俺の意思とは正反対に顔はドアへと向けられた。

激しく叩かれる音と、だんだんと歪みだすドア。無理矢理こじ開けるつもりだ!頭で警告が何度も鳴った。

俺は押入れに向き直り立ち上がった。早く探し物を見つけなくてはいけない。という焦燥感にかられる。押入れの隙間にはもうあの光はない。

押入れの目の前に立って、俺はためらった。なんだか嫌な予感がする。この向こうにあるのは、いやいるのはいったいなんだ?



ドンドンドン!!



先程よりも激しい音で我にかえり、足跡のことが頭に浮かび上がった。もう逃げ場はないかのように追ってきた足跡。それは数センチもない場所で止まっていた。

鬼が近づいている証拠に違いない。

俺は躊躇いを振り払い、ドアの音に後押しされるような感じで勢いよく押入れの戸を開けた。


「っ!!?」


言葉にならない。顔を背けたくても背けられない。

暗闇にいたのは、膝を抱えて金色の猫のような大きな瞳で俺を睨み上げている塊。いや、長い黒い髪が闇に同化してそう見えるだけだ。


本当は



それは



小さな





少女。





――見つかっちゃった。――


ぽつりと聞こえる高い声。彼女の目が俺の目を見つめたまま言った言葉だった。ぐっと少女の顔が俺に近づいてきた。見開いた目に、口は裂け鋭い牙が覗いた。何より俺の目に入ってきたのは彼女の額に形を成す白い塊。


――次は私が鬼。逃げないなら、捕まえる。――


そう言いながら彼女が逃がす気はないと知る。髪の毛が俺に絡みつき、俺は身動きを取れなかった。彼女の大きな口が開かれ、なお俺に近づいてきていた。

あぁ、そうか。と思った。鬼と追いかけっこは俺たちが逃げるんじゃなくて俺たちが追いかける方だったんだ。決して見てはいけない。あれは警告だったんだ。最後の。

踊らされていたんだ噂に。真実が隠され、尾ひれがついていた噂に。そのことに気付くと俺は無性に悔しくて泣きたくなった。なんで俺は気付かなかったんだろうか。


「……いちゃん。お兄ちゃん!!」


ドアから必死に叫んでる声が耳まで届いた。それは聞き覚えのある高い声。妹の声だと気付いた。けれど、その瞬間俺は暗闇の中へと誘われた。何故か、首の辺りが痛いというより熱くなった気がしたが、頭は別のこと考えていた。

この部屋を出ていたなら。探し者が何かわかってこの部屋を出ていたなら……。




白いベットがカーテンで仕切られている中、カーテンに人影が映る。


「工藤君?あら?……帰ったのかしら?」


カーテンを開けて、保健の先生は居たはずの彼の名を呼んだ。しかし、そのベットで寝ていた人物はもういない。もぬけの殻になったベットを見て、先生はただ首を傾げるばかり。けれど、彼女も仕事がある。気にはしたが帰ったのだろうという結論を出して彼女はベットを後にした。

ずっとベットから帰るためのドアの間に自分が居たことに気付かないうちに。





そして伝染するうわさは、また何処かで誰かを待ち構えている。噂好きで、自分を見つけてくれる人を探して。












どうでしたか?貴方は本当の噂の真実に辿り着くことができたでしょうか?


噂をただの噂と思っていると、もしかしたら大変な目に会うかもしれませんね。身近に溢れかえっている噂に皆さん、十分お気をつけ下さい。

しかし、噂が好きならば私は何も言いません。お好きなだけ噂話をご堪能ください。その後どうなるかは……貴方しだいです。


今回のお話はこれでお終いです。ここまでお付き合いありがとうございます。しかし、まだまだ奇怪な話は始まったばかり。また出会えることを楽しみにしてますよ。

それでは皆さん、ごきげんよう。

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